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初めて鍼灸院を訪れる患者さんの気持ち、わかりますか? 初診患者とのコミュニケーションのポイント [2010.02.01]

患者と医療者との相互理解を深めることを目的に1995年に設立された東京SP研究会。SPとはSimulated Patient(模擬患者)の略で、同会は主に一般市民が中心となって、医学部などの卒前・卒後教育の現場に模擬患者を派遣し、医療者と患者のコミュニケーションをよりよいものにするための実習を行っています。今回は都内某所で打ち合わせ中の同会を訪れ、代表の佐伯晴子さんに、模擬患者の目から見た鍼灸院でのコミュニケーションについて話をうかがいました。

――鍼灸院における患者さんとのコミュニケーションのポイントは何でしょうか?


佐伯 コミュニケーションということで言えば、何回も鍼灸院に通っている人よりも、はじめて鍼灸治療を受けようとしている人のほうが難しいでしょうね。


特に鍼灸の場合は、西洋医学の保険診療のように受診から薬の処方までの流れが一般の患者さんに認知されているわけではありません。鍼灸院にかかるときの疑問は次のようなものが挙げられます。

 

①費用に対する疑問 (お金がいくらかかるのか想像がつかない)

②効果に対する疑問 (何に対してどのぐらい効果があるか想像がつかない)

③治療時間に対する疑問 (治療には何分かかるのか想像がつかない)

④鍼自体に対する疑問 (刺されると痛いのかもしれないという不安)

⑤治療期間に対する疑問 (何回通えばいいのか想像がつかない)

 

患者さんが抱くこういった疑問や不安に対して、1つのパッケージとして説明していただきたいですね。

 

 
―― 患者さんから聞かれれば答えるというスタンスはどうでしょうか?


佐伯 患者さんからは、なかなか聞きづらいものですよ。特に初対面のときは嫌われたくないと思っていますから、質問や要望を言うのは勇気がいります。まずは施術者のほうから説明していただけると助かりますよね。


効果については期待が大きすぎると、後でギャップが生まれる可能性があります。また逆に効き過ぎたりしないかとか、そんなことはないのでしょうけど、鍼が効き過ぎてクセになったりしないかとか、きっと初診の患者さんは不安や心配を抱いているはずです。

 


―― そういった疑問点に対する回答の一覧を患者さんに渡したり、鍼灸院内に張り出したりしておくのはどうですか。あとは問診表のところに書いておくとか。


佐伯 問診表を出すのは、鍼灸や代替医療の20100202.jpg良さをそいでしまうような気がします。患者さんは西洋医学でさんざん難しい言葉を聞いて、忙しいからという理由の事務的な対応に接してきていて、無力感にひたっているはずですから。


治したいと思って鍼灸院に来院しているのは事実ですよね。やはり最初は鍼灸でどこまでできるのかを教えてほしいと思います。そして、その他の疑問に対しても「そうですよね。私だって患者さんの立場なら知りたいと思います。◎◎さんだけではなく、他の人も心配されているところなんですよ」と一言付け加えるだけで、患者さんは楽になります。

 

要は患者さんに申しわけないと思わせないようにしていかなければいけないのです。初診の患者さんには「鍼灸にどういうイメージをお持ちですか?」と聞いてみるのもいいかもしれませんね。それで緊張もほぐれて、会話が進むと思いますよ。

 

 
―― 最初に鍼灸のイメージを聞くのはいいかもしれませんね。


佐伯 また「鍼灸の治療対象はこういう病気です」「こういう病気には効果があまりありません」と、最初にはっきり言ってもらったほうが、逆に信頼関係が構築できるような気がしています。できることとできないことを積極的に提示してもらって、その上で一緒に健康になるための努力をする。それが鍼灸治療の一番いいところだと思います。相談しながら、というのがいいですよね。西洋医学ではそういうものが入りこむ余地がないですからね。


たとえるなら鍼灸はオーダーメイドのレストランのように思えます。コミュニケーションをとりながら、お客さんとシェフがメニューを決めていく。うまくいけば満足度はとても高いです。

 


―― それは結構、大変ですよね。2回目、3回目と治療を重ねた患者さんに対するコミュニケーションのコツはありますか。


佐伯 施術の前によく観察することでしょうね。足音とか、ドアの開け閉めとか。そういうことを察して、治療ができるのが鍼灸院だと思っています。

 

会社の業績、家族の問題など、人生はいろいろです。体調は身体だけが決めるものではありません。また患者さんもそれを告白するとは限らない。けど、「どうしましたか?」「今日はお疲れですか?」(注:「今日はお疲れですね」は断定だから受け答えとしてはNGとのこと)とねぎらい、いたわりの言葉をかけるのは間違いではありませんし、いやな気がしません。

 

それで患者さんが「ええ、まあ」と言ったら、それ以上つっこまない。身体がほぐれてきたら、患者が「いや、実はね」と言うかもしれません。そのときに備えて、いつでもこちら側のドアは開いていますよ、いつでも受け止めますよという姿勢が大事です。

 


―― 治療技術の前にもっと患者さんのことを考える必要があるのですね。


佐伯 今回の治療と次回の治療。治療期間が20100203.jpg空いても、患者さんにとっては点と点ではありません。やはりそこは治療の手順などよりも、「どうでしたか?」と気にかけていたことを出して、患者さんの気持ちに触れてほしいと思います。「膝が痛い? じゃあこの治療ですね」というのではなく、膝にまつわる気持ちを聞いてほしい。「困ったでしょう」とか、その人の喜怒哀楽を受け止める。それが全人的治療ですし、鍼灸の良さではないかなと思っています。

 

 

佐伯晴子(さえき・はるこ)さん


東京SP研究会・模擬患者コーディネーター。大阪外国語大学ロシア語科卒業。1983-1993年イタリア滞在中に、ミラノ国立がんセンターにある欧州緩和ケア協会事務局にてボランティアとして活動する。帰国後、翻訳、英語・イタリア語講師を経て、95年東京SP(模擬患者)研究会の設立時より事務局を担当。現在、同研究会代表。東邦大学などで非常勤講師。日本医学教育学会評議員。厚生労働省医薬食品局医療安全医療用具部会・他で委員を務める。主な著書に『あなたの患者になりたい―患者の視点で語る医療コミュニケーション』(医学書院)。