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第39回日本頭痛学会印象記レポート [2012.02.06]

<講習会レポート>

第39回日本頭痛学会印象記

 


埼玉医科大学 東洋医学センター 菊池友和

第39回日本頭痛学会総会が2011年11月25日(金)~26日(土)、埼玉県さいたま市の大宮ソニックシティが開催され、本学の神経内科教授・荒木信夫氏の下、日本全国から約900人の頭痛の研究者が集まった。


本総会では「片頭痛と自律神経」をテーマに、頭痛に関する基礎研究のみならず、トリプタンの普及により発展を遂げた頭痛医療について幅広い観点について研究者から議論が行われ、頭痛医療のより一層の向上を目指した活発なデスカッションで熱気に包まれていた。

プログラムとしては、会長講演が1題、招待講演が2題、特別講演が2題、シンポジウムが3題、一般演題が126題あり、その中でも、シンポジウムでは鍼が2題、また一般演題でも3題それぞれ、当センターより臨床研究の成果の報告を行った。さらに、会長講演においても、荒木氏が当センターにおける片頭痛に対する鍼治療の研究の一端を紹介した。

 

●2題の招待講演

 

今回の招待講演1では、片頭痛の発症機序で最も有力視されている三叉神経血管説の生みの親であるHarvard UniversityのMoskowitz氏(写真.2)が片頭痛のメカニズムについて、最近の片頭痛遺伝子の関与や皮質拡延性抑制のアップデートがなされていた。

 

 

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また、国際頭痛学会で頭痛診療の教育分野の第一人者であるDalhousie UniversityのPurdy氏は皮質拡延性抑制におけるメカニズムについて、アストロサイトに着目。同細胞は脳の神経活動を感知し、神経ネットワークを広げていく細胞であり、アストロサイトの過敏性が高いと皮質拡延性抑制が広がりやすいことなど、最近の知見をふまえた講演を行った。

 

●シンポジウムは鍼が2題

 

シンポジウム「片頭痛と自律神経」では、本学東洋医学センター講師の山口智氏(写真3)が、片頭痛に対する鍼治療効果について、同じ一次性頭痛である緊張型頭痛と比較し、鍼治療効果を自律神経の観点から考察。また、片頭痛の発作予防を目的とした鍼治療について解説し、発作予防に対する鍼治療効果は頸肩部や顔面部の圧痛と頭痛日数の減少が相関することを明らかにした。さらに、こうした片頭痛の発作予防の作用機序の解明をすることを目的に、3TMRIを用い、健康成人と片頭痛の患者の対する鍼治療の反応性の違いについて報告し、伝統医療の特質を強調した。

 

 

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また、シンポジウム「難治性顔面痛の診断と治療」では、当センターの小俣浩氏(写真4)が当センターにおける顔面痛及び顔面部のしびれ感を訴えた患者について分析。難治性の顔面痛患者においても約6割の有効率であり、特に頸肩こりを訴える患者において、有効率が高い印象があると報告を行った。さらに、その機序として、経絡経穴理論や神経生理学的な観点から鍼治療の効果について同氏のこれまでの研究成果をふまえて考察が行われた。

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近年の頭痛研究では片頭痛の病態について、皮質拡延性抑制が再認識されており、本学会においても基礎研究では片頭痛の前兆モデルラットの演題が注目されていた。一昨年まで当センターで研修をしていた、慶応大学神経内科の鳥海春樹氏が「TRPV1受容体を介した三叉神経の侵害刺激がCSD発生に及ぼす影響」で本総会の喜多村賞を受賞したのもその表れだろう。

一方、発作時のトリプタンの効果が認められない症例などの機序の一つとして、脳過敏という概念も注目されている。これは、脳が外からの刺激に過敏になることで、片頭痛発作が起こりやすい状態になっていること言う。主な症状は「臭い過敏」、「音過敏」、「光過敏」などで、片頭痛が正しく認識されていなかった結果、適切な治療が行われていなかった症例がこの状態となることが推測されている。

東京女子医の清水氏は光刺激を与えた時の脳波の反応などが、過剰であることなどの報告を行った。こうした脳過敏の起こるメカニズムとして脳幹部の機能低下と考えられており、こうした部位は鍼の鎮痛効果のメカニズムと一致することから、鍼治療はこうした脳過敏を正常化することで片頭痛患者に寄与しているものと考えられている。


●一般演題でも鍼治療効果について

一般演題では、鈴木真理氏が「片頭痛に対する鍼治療効果(第5報)―前兆のある片頭痛と前兆のない片頭痛に対する検討―」を発表し、前兆のある片頭痛は、近年注目されている、脳過敏との関連に着目し、鍼の作用機序は特に中枢(脳)を介し、脳過敏の抑制することに関連があるのではないかと報告しておりました。

また、寺澤宏美氏は「顔面痛に頸肩こりを随伴した2症例の鍼治療効果」を発表し、原因不明の難治性の顔面痛は頸肩こりが改善すると共に顔面部の症状も軽減したことから、顔面痛に対する鍼治療の方法の一つとして頸肩こりのアプローチが重要であることを強調していた。

さらに筆者も、非侵襲的に反復検査も可能であり造影剤を用いないことから被爆も心配もない、Arterial Spin Labeling MRIを用い、鍼刺激が片頭痛患者の脳血流に及ぼす影響について検討を行った。片頭痛患者に顔面部及び頸肩部に対し鍼刺激を行うと、鍼刺激中、鍼刺激直後、鍼刺激15分後、鍼刺激30分後に有意な脳血流の増加が認められ、同部位は片頭痛発生器と一致しさらに鍼の鎮痛メカニズムの中枢であることから、こうした部位への反応が片頭痛の発作予防に関与する可能性があることについて報告してきた次第である。


●EBMに基づいた頭痛に対する鍼灸治療を

頭痛はありふれた症状だが、鍼灸治療で取り扱う頻度が高いのは、一次性頭痛である片頭痛と緊張型頭痛である。現在、海外の研究では片頭痛は標準的な予防薬物と比較し同等かまたはそれ以上の効果があると考えられている。
 
しかし、片頭痛に対する鍼治療は偽鍼とは差がなく鍼の生物学的効果に疑問が残っていることもまた事実である。一方で、緊張型頭痛においては、鍼治療はわずかではあるが、偽鍼と比較しても効果が高いことが示されている。現在、先行研究が用いている円皮鍼以外の鍼についての偽鍼は確立しておらず、2つの刺激(皮膚刺激と筋刺激など)を比較しているにすぎないとの考えもある。 

当センターの山口氏は1987年より、本学会がまだ頭痛研究会のころから約20年に渡り頭痛に対する鍼灸治療について研究報告を続けてきた。今回、シンポジウムに鍼治療が2演題企画されたことについても、山口氏による発表や論文により頭痛専門医に鍼治療の認識が高まったことによるものと考えている。

今後は、EBMに基づいた頭痛に対する鍼灸治療を、頭痛の専門医と共に推進し、現代医療の中に鍼灸治療を明確に位置づけ、頭痛診療ガイドラインの一つに東洋医学的アプローチ(鍼治療)も、選択枝の一つとして認められることが期待される。

来年の同学会は、会期2012年11月16日(金)~17日(土)(予定)で日本医科大学脳神経外科 准教授の喜多村孝幸氏の下、東京ドームホテルで開催予定。近年、頭痛治療がチーム医療として確立していく中で、鍼灸治療の果たす役割を明確にし、本学会を通して科学的に証明されることを念願し筆を置きたい。