トピックス

歯科領域の東洋医学ってどんなもの?
医療法人社団明悠会・サンデンタルクリニック理事長 小山悠子氏インタビュー [2012.04.16]

サンデンタルクリニック内にある鍼灸治療室

サンデンタルクリニック内にある鍼灸治療室

一部の歯科医師が東洋医学を取り入れていることは、一般にはあまり知られていません。また歯科医療と併用して、実際にそこでどんな治療が用いられているかをわかりやすく説明した書籍も、眼にする機会がないようです。そこで今回は、日本歯科東洋医学会理事で、日本統合医療学会指導医でもある小山悠子先生に、歯科領域の東洋医学、特にツボ刺激について話をうかがいました。

――歯科領域で東洋医学が取り入れられたのはいつ頃くらいからなのでしょうか。
 

小山 中国で鍼麻酔が脚光を浴びた直後くらい、つまり1970年代からだと思います。その頃、麻酔注射をせずに鍼の効果だけで抜歯をするという試みが、東京日本橋の松平邦夫先生、福岡明先生を中心に行われていました。しかし、成功するケースもあれば、当然鍼麻酔がうまく効かず、痛がる人もいたわけです。

 
みんなが痛みなく治療できればいいのですが、痛い人が出てきては麻酔としては使えません。また「麻酔薬を節約しているのでは?」と、うがった見方をする人も出てきました。そういった経緯もあって、その頃日本橋歯科医師会会長でもあった福岡先生が、歯科医療として問題にならずに平均的治療法の一つに導入しやすようにと、鍼治療の長所を活かして腫れない、痛くない、怖くなくリラックスできる治療が試みられるようになりました。また、それと同時に、ツボの効果を科学的に検証するために様々な研究がスタートしました。今から30年以上前の話です。私が福岡明先生の福岡歯科に入って、鍼とかかわり出したのはこの頃です。

  
たとえば、歯が痛い時に鎮痛剤を服用して痛みが緩和されるには20、30分かかりますが、合谷に鍼を刺すだけで、3秒で痛みが取れます。首肩のこりをとって抜歯すれば、腫れない、痛くないのです。そのようなツボを使った新しいペインコントロールをまとめたのが、昭和60年(1985年)に発行された『歯科臨床に即応用できるペインコントロールとしてのツボ刺激療法』(福岡明著、日本歯科評論社)という本です。これは25年以上経った今でも、臨床医にとって最高の本ですし、歯科東洋医学領域のバイブルだと思います。

  
この頃の私は何もわからないまま、また歯科医師で鍼をやる人が珍しいとも知らずに、指示されるままに実験写真を撮るなど、いろいろなことを手伝いました。ずいぶん全国の津々浦々にまで講演して回りましたよ。明治鍼灸短期大学(現・明治国際医療大学)ができたばかりの頃でもあり、全日本鍼灸学会で森和教授や佐々木和郎先生(現・鈴鹿医療科学大学鍼灸学部学部長)に出会い、明治鍼灸大学の施設をお借りして、脳波やサーモグラフを使いツボの効果を客観化し、学会発表もたくさんしました。今でこそ有名なポジトロンCTもまだ日本に数台しかない時代でしたが、「完骨のツボ刺激」がまさしく催眠作用があることを裏付けてくれ、怖がりの患者さんに応用すれば眠くなる中で治療できることの証明になりました。

  
鍼灸は歯科でも大変有用な治療法ですが、やはり西洋医学一辺倒な世界なのでなかなか認められません。また、日本の健康保険制度では、余計なことをやってもお金にならないわけですから、歯科領域の鍼はそれほど普及していないのが現状です。

 

 

――現在、日本歯科東洋医学会の会員は何人ぐらいいるのですか。

 
小山 全国に約800人です。歯科の保険医療制度では、1時間治療しても何百円の治療は山ほどありますから、たくさんの方を治療しないと一般的には経営が成り立ちません。当然、無料で鍼治療まではできないのが現状かもしれません。また、日本歯科東洋医学会には、鍼のほか、漢方、気功やさまざまの代替医療を導入している方がいます。

 

 

――先生のクリニックでは、鍼灸師も働いていますね。

  
小山 もう昔からですよ。吉元昭治先生(吉元医院院長)が足の反射療法の本を医道の日本から発刊されたときも、当院の鍼灸師がご一緒に勉強させていただき、『不思議によく効く足の反射療法』という一般書を上梓させていただきました。

 

 

0416-2.jpg
歯科界での初の鍼の本である『臨床歯科ハリ麻酔入門』(昭和52年発行)


0416-3.jpg
『歯科臨床に即応用できるペインコントロールとしてのツボ刺激療法』


――具体的にクリニックではどんなことをするのですか。

 

 
小山 たとえば、仕事が忙しくて徹夜続き、免疫が落ちていて、「死ぬほど痛いんです」と訴える患者さんには、歯の治療だけしても痛みが止まらないことがあります。そういうときは、ただ足を揉むだけでもいいんですよ。足を揉むと、1割の人は痛みが0になります。痛みが半減する人も7割ぐらいいます。ですから、レントゲンを撮影したり、歯の治療をしている間に、足の反射療法をします。痛みが取れて、気持ちよく眠ってしまいます。

  
歯科医療の場合、鍼が顔の周辺に刺さっていると邪魔なのと、歯科治療だけでもいやだと思っている患者さんにすれば、刺されるという鍼治療は歯科臨床では応用しにくいので、ツボを刺激する導電性ゴム電極を用います。これは端子が鍼ではなくゴムだけか、磁石になっているものです。その電極を使って歯を抜いてあげると、麻酔の量が半分以下で済みます。

 

0416-4.jpg

歯科専用に開発された、ゴム電極を用いたツボ刺激装置「ポインターF3」(伊藤超短波製)。合谷穴用のゴム電極をあてて、10分から15分刺激すると、リラックスして眠くなってくるという。

 

 

実は歯科医は痛くさせたくないという思いで、麻酔を何本も打ってしまいます。麻酔薬の中に血管収縮剤(エピネフリン)が入っていて、これで長時間麻痺させることができるわけですが、血管を収縮させるために代謝が悪くなり、このことで治りが悪くなるということは一般の方には知られていません。親知らずを抜くと、腫れるものだとか、抜いた後は痛いものだと思い込んでいますが、全然違うのですよ、あれは。麻酔の副作用と言ってもよいと思います。はっきりいって麻酔ゼロで抜くのが、一番治りが良いのです。麻酔が少なければ少ないほど、腫れない、痛くない、治りが抜群に良いです。

 

 

――実際の鍼を刺すこともあるのでしょうか。

  
小山 たとえば一横指ぐらいしか口が開かなくなるような開口障害の例には鍼を刺すこともあります。西洋医学的には抗生物質を飲んで、効果を待つしかありませんが、下関に鍼で雀啄法を行うと口が開くようになります。

 

私が初めて鍼灸の効果を実感したのは、この開口障害の鍼です。『臨床歯科ハリ麻酔入門』(福岡明ほか著、書林)という本があるのですが、その本に「開口障害は鍼を刺せば一発で開く」と書いてありました。そのとき鍼を打った経験が少なかったにもかかわらず(その時の患者さんにごめんなさい)、実際に患者さんに刺してみると、一横指が三横指まで開きました! 本当に劇的で、驚きましたね!

 
開口障害なんてたいしたことないと思われがちですが、実際私自身がなったことがあるのですが、ご飯は食べられないし、噛もうとすると痛いし、すごく大変でした。だから、劇的に開口したその患者さんからは、すごく喜ばれました。もちろん、あまり鍼打ったことないんですとは、言えませんでしたが。

 
その後、いろいろ勉強すると、かならずしも1つの方法で全部OKというわけではないのに、そのときはたまたまうまくいった。もし、あの経験がなかったら、今頃は鍼をやっていなかったかもしれませんね。

 

 

――先生も刺すことがあるのですね。

 
小山 私もやっていますよ。歯科医でも、歯の治療が目的であれば、鍼を刺すことができます。恐くなくて、気持ち良くて、それで痛くないという歯科医療を実現するには、ツボ刺激はぴったりだと思います。「歯医者さんに行ったら眠っちゃった」とか「気持ち良かった」と言われたら、うれしいですよね。子供は歯科を怖がることが多いのに、当院に来る子供さんたちは喜んで歯医者さんになりたいと言ってくれています。

 

 

0416-5.jpg小山悠子(こやま・ゆうこ)

 
1977年、日本大学歯学部卒業後、医療法人社団明徳会福岡歯科勤務。1982年、聖マリアンナ医科大学解剖学教室に入局。 1987年、 (医)明徳会福岡歯科サンデンタルクリニック院長に就任。 1989年、医学博士号を取得(聖マリアンナ医科大学)。2010年、(医) 明徳会より独立開業し、医療法人社団明悠会サンデンタルクリニック理事長、院長に就任。(医)明徳会福岡歯科付属統合医療研究所主任研究員、日本歯科東洋医学会理事、日本統合医療学会評議員、愛知学院大学歯学部講師、鈴鹿医療科学大学講師なども務める。

業界ニュース&トピックス

ディスプレイルーム

〒108-0075
東京都港区港南2-4-3 三和港南ビル5F
TEL 03-5461-3050
営業時間 AM10:00~PM6:00