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教卓の向こうから(6)(日本工学院八王子専門学校) [2012.06.11]

鍼灸マッサージ師の養成施設で働く先生たちが、どのような授業を日々心がけ、またどんな思いで生徒に教えているのか――――。教育現場の生の声を取り上げていくこのコーナー、第6回は日本工学院八王子専門学校の鍼灸科総轄科長・宇南山伸先生です。

 

――先生は、現在、臨床医学各論と医療概論、衛生学を受け持たれているということで、いずれも西洋医学の科目ですね。西洋医学の科目を教えられる際に気を付けていらっしゃることはありますか。

 

宇南山 まずは、普段から新しい情報をできるだけ吸収することに努めています。西洋医学は日々進化しているので、乗り遅れないようにアンテナを高くしておきたいですね。そうして得た情報のうち、学生にはエビデンスのあることを話したいと思っています。

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鍼灸科総轄科長の宇南山伸先生 

 

もう1つ気を付けているのは、一般の人が接する情報を、鍼灸師が解説できればいいなと思っています。例えば、いろいろな健康雑誌がありますよね。患者さんは、それらを読んで得た知識を、鍼灸師に聞いてくることがしばしばあるんです。患者さんが接する種々雑多な情報に対して、「それは科学的にはこうだよ」とか「ドクターが診たら、こう言うんじゃない」といったように、正しく判断・評価できるような鍼灸師になってほしいと思います。そういった判断・評価をする材料を授業で提示したいと考えています。

 

――国試の重要度は、先生にとってどのくらいでしょうか。

 

宇南山 国試は受かって当たり前という前提で授業をしていますので、「試験」自体の重要度はさほど高くありません。国試を乗り越えたその先、臨床家としてやっていくために必要なことを教えなければならないと思います。

 

学生にまず伝えたいのは、私たちは常に患者さんと一対一で向き合わなければならない仕事をしている、ということです。つまり、現場に出たら「自分で解決をすること」が前提仕事なのです。だから、最終的に必要なことは、「独立した医療人でなければいけない」ということです。これが授業の一番のコンセプトであり、学生が目指してほしい目標です。

 

この目標を達成するために必要なことが、1つはコミュニケーション能力、もう1つは自分で考えることだと思うんです。「自分で考える」って何かというと、自分で課題を見つけられること、そして、課題に対して考察をして、解決までの仮説を立てる。さらに、その仮説を世の中の常識を照らし合わせて、合致するかどうかを検証する、そういう一連の作業なのです。学生には、これをできるようになってもらいたい。

 

こういう能力を育てるために、授業では常に「問いかけ」をしています。「これについてどう思う?」「これについてどう考える?」「君の持っている知識でどう解釈する?」という問いと、その答えの繰り返しで授業を構成したいと考えているんですよ。例えば、「膝が痛い」という患者さんがいた場合、どうしてそういった症状が出るのか、これまで習った解剖・生理の知識で考えてみようと促し、問いかけ、答えを求めることをします。私の場合、授業は一方的に「教える」のではなく、「問いかけ」なんです。

 

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宇南山先生の「問いかけ」に応える学生。学生とのコミュニケーションが

多いので、学生の授業への参加度が高い

 

――新しい情報を取り入れられているとおっしゃっていましたが、具体的にはどういったところを情報のソースにしていらっしゃるのですか。

 

宇南山 まず、やはり全日本鍼灸学会は大きいですね。関東支部で役員もやっている関係で情報がたくさん入ってきますし、学会で得た情報が授業作りのヒントになることは多いです。あとは、新聞やテレビ、業界誌、一般誌のなかで関連するものはなるべくチェックしたいです。特に、一般の方がよく目にする健康雑誌も含めて、幅広く見ることで患者さんと情報を共有することが重要なのではないかと思っています。

 

――授業を拝見させていただきましたが、おっしゃられたようにたくさんの情報を得ていても、学生に提示されている量は決して膨大ではないと感じました。

 

宇南山 そうですね。知識はあくまで素材だと思っています。うちの学校ではたくさんは教えないけれど、少ない知識をうまく使う方法を教えるから、それをしっかり身に付けて卒業してほしいと考えています。学生には「うちは36色のクレヨンじゃなくて、12色だよ」と。「12色でも、36色に相当する使い方はできる。だから、その方法を覚えて行こうよ」と言っています。コアになる知識というのは、決して量的には多くないと思うんですよ。そのコアを使って臨床ではどう判断するのか、解釈するのかを、授業のメインとして教えるようにしています。

 

例えば、今回の臨床医学各論の授業では「脳腫瘍・髄膜炎とそれにかかわる中枢・末梢神経障害」について取り上げました。髄膜炎で眼球症状が起こった場合、どうしてそのようになるのか、これまで習った生理学や解剖学の知識を使って考えてもらう。そのために、「どうして眼に症状が出るの?」と問いかけます。「髄膜炎では眼球に症状がでることがある」と言うだけでは、単に「知識を増やせ」ということになるだけですが、「どうしてそうなるのか」を既習の知識と組み合わせて考えることで、ただの丸暗記になることなく、学生が新しい知識に到達できるのではないかと考えています。

 

教員になったばかりの頃は知識を足すことに一生懸命になっていたんですよ。でも、それは違うなと思ったのです。こちらがしゃべりすぎると、知識がオーバーフローして学生は聞かなくなってしまいます。重要なのは、いかに必要な知識を的確に認識してもらうか、12色のクレヨンを応用して治療を組み立てていくのか。教育とは「教え込む」のではなく、学生のなかの思考を「育む」ことなのかなと考えています。

 

――学生がつまずきやすいところはどのようなところで、それに対し、どのような対応をしていますか。

 

宇南山 人体は各部が有機的に連関し、全体像を形作っていますから、臨床医学各論などのカリキュラムも様々な項目がつながり合うようにして構成されています。しかし、医学を学び始めたばかりの学生は、人体やカリキュラムの全体像がわからない場合が多いです。特に1年生は、自分がカリキュラムのなかのどこを勉強しているのか、わからなくなってしまいがちです。一方、2・3年生はこれまで勉強したことと、今勉強していることがつながっているということが、なかなか意識できないようです。

 

そこで、1年生に対しては、この教科はどこに向かって勉強しているのか、できるだけ到達目標を明確に示してあげるようにしています。2・3年生に対しては、今勉強していることと、これまで勉強したことの関連が見えるように既習の内容を振り返るようにしています。

 

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授業では図を多用する。視覚伝導路の模式図を板書する宇南山先生

 

――先生は鍼灸学科の学科長でもありますが、全体の指導コンセプトはどうでしょうか。

 

宇南山 全体的な指導のコンセプトということで言うと、「医療人の前に社会人、社会人の前に常識人」ということを念頭に置いています。ですので、まずは「良識を育てる」ということが必要だと思います。そして、人間的に成長すれば、学力もおのずと上がっていくと考えています。そうしたことを先生方がみんな理解してくれています。

 

非常勤の先生がよく言ってくれるのですが、学生が進級するときに「ずいぶん育ちましたね」と言ってくれるんですよ。「よくできるようになった」ではなく、「ずいぶん育ちましたね」「大人になりましたね」と言ってくれるんです。この言葉は、先生方が生徒の人間的な成長を見守ってくれている証拠だと思います。

 

学生を見ていると、人間的な成長・成熟ということがよく見えるので面白いですよ。1年生のときはあまり集中力のなかった学生が、きちんと座って、顔を上げて人の話を聞けるようになるんですね。この変化というのは、何か新しい知識を得た、ということよりも、生徒のなかで本当に大きな変化が起きたということだと思います。教育って面白いなと思います、人間が変わるんですから。

 

――鍼灸学校で、生活指導的なことや人格形成といったところに力を入れておられるのは珍しいのではないでしょうか。

 

宇南山 そうですね、なかなかできないことだと思うんです。1つは時間的な問題があります。当校は全日制ですから、長時間生徒と接しますし、いわゆる放課後という概念がある数少ない学校の1つなのです。つまり、「授業が終わっても学校にいていい」学校なんですね。その時間のなかで、勉強以外でも足りないことがあれば補ってあげられます。そういった学生とのコミュニケーションの時間があるからこそできることだと思っています。

 

――鍼灸学科のこれから展望をお願いします。

 

宇南山 学科としてはこれからも、気持ちのいい子に力をつけて送り出したいということは変わりません。学力や技術は表現するための方法であって、「気持ち」という土台の上に築かれるものだと思います。やはり気持ちありきの仕事なので、持っている気持ちを人に伝えられるようなスキルを身につけさせてあげたいですね。

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