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鍼灸師の卒業後の就職先として、鍼灸院や整骨院ではなく、病院やクリニックなどを希望する人も少なくない。ただ、一口に「鍼灸師が医療機関で働く」といってもその形態はさまざまだ。このコーナーでは、医療機関で働く鍼灸師の姿をレポートする。第一回目は、慶應義塾大学医学部神経内科非常勤講師の鳥海春樹氏にご登場いただき、病院での仕事の模様や、鍼灸師が病院で働くメリットについて話を伺った。

 

――先生はどのような経緯で、大学病院で臨床や研究に携わるようになったのでしょうか。

鳥海 私は鍼灸専門学校在籍中、東京女子医大病院の腎臓病センター勤務の看護助手でした。透析患者さんや、透析室の医師、看護師、技師などと過ごした経験が、今の私の、鍼灸師としての基盤を作ってくれたと思っています。看護助手といえば職場のスタッフの一番下っ端ですが、他の医療スタッフと共にチームとして患者さんにかかわる仕事です。自分が将来、鍼灸師として医療の中でどういう役割を担うべきか、考えるには非常によい環境でした。卒業した後、高田馬場で開業していた芹澤勝助先生に臨床の手ほどきを受け、その後鍼灸指圧治療院に住み込み、鍼灸臨床の世界に足を踏み入れました。

治療院には、「整形外科に行ったけれど、全然だめで…」という患者さんがたくさんいらっしゃいました。そのような患者さんを、病院ではどのように治療をしてきたのか全く分かっていない当時の私が治療していたわけです。患者さんが付いてずいぶん儲けていたのですが、そのうち、患者さんと一緒になって、「病院に行っても、何もしてくれないからねぇ」などと言っている自分が恥ずかしくなりました。

そこで、整形外科病院の理学診療科の仕事を探しました。患者さんが現行医療の中でどういう治療を受けてくるのか、整形外科のスタッフとしての実務体験を通して見ておくことが大事だと思ったのです。

鍼灸師が主体で理学診療科を運営している私立の整形外科病院を「医道の日本」の求人欄で発見して応募し、運よく採用されました。こちらで4年ほど働きました。透析室の看護助手だった時もそうですが、医療機関のスタッフとして仕事をすることは、自分がどういう鍼灸師になろうかというイメージを作るための、非常に大事な原体験になっています。

 

この後、鍼灸院の雇われ院長を2年ほど勤めて開業しました。開業して完全に自分の看板で鍼灸臨床をするようになり、自分の大事な患者さん方を、近所の医療 機関と「共有」していることをはっきり自覚出来ました。自分の大事な患者さん達に、医療機関ともっと有機的に連携した鍼灸臨床を実施したいと思うようにな りましたが、これには「鍼灸研究」をもう少し進めなければ無理です。

そこで、自分の得意な「頭痛治療」を柱に鍼灸研究を進めようと考え、 儲けを捨てて慶應義塾大の大学院に進学しました。頭痛の専門外来のある神経内科に所属して学位を取得し、神経内科の研究助教を経て非常勤講師となり、慶應 病院初の鍼灸外来を神経内科の特別外来として開設しました。今後、神経内科で神経内科領域疾患の病態研究を続けて、その病気に「なぜ鍼が効くのか」につい て、基礎研究・臨床研究を通して明らかにしようと思っています。このため、神経内科の特別外来として、鍼灸外来を続けています。


――臨床と研究の兼ね合いはどうですか。

鳥海
現在は週に2日、慶應病院と関連病院の鍼灸外来を担当しています。他の4日は病態基礎研究と講義などを行っています。病態基礎研究のプランを立てるうえでも、鍼灸臨床から得られるインスピレーションは非常に大切です。鍼灸師は、医師が知らない生理反応ばかり知っていて、しかもそれを使って治療しているんですから、鍼灸臨床は研究のネタの宝庫なんです。

具体的には、本年度から慶應大の神経内科で厚生労働省の科学研究費を獲得しまして、鍼灸の作用機序の解明と、神経内科における鍼灸活用ガイドラインの策定を目的とした研究を始めております。慶應大の神経内科を中心に、埼玉医科大、明治国際医療大の3つの大学が共同したプロジェクトです。研究にご興味のある方は、大学院に進学して、こういう研究プロジェクトへ参加する道もお勧めです。

――鍼灸師が病院で働くメリットとはなんでしょうか。

鳥海
一番のメリットは、患者さんが病院で受けている治療の内容を実体験として学べることです。本で読んだことがあるだけの人と、実際にスタッフとしてその一翼を担ったことがある人では、医療に対する考え方に大きな差ができます。一般の医療では、患者さんがどのように治療されているのか実体験を通して知っていれば、自分の鍼灸治療がそこに何をプラスできるか、現実感を持ってしっかり考えられます。

例えば、私の担当している鍼外来は、3カ月以上の薬物治療によって改善が見られない患者さんが、神経内科の頭痛専門医の診断を受けて受診されます。通常、治療手段の無いそのような患者さん方が、鍼治療によって面白いように改善します。

私の治療法は、芹澤勝助先生に手ほどきを受け、師匠の吉野新八郎先生に20年来受けてきたご指導が主体ですが、いわゆる、普通の町の鍼灸院のやり方です。つまり、町の普通の鍼灸院の治療法が、現在の神経内科の頭痛専門診における最強の診療ツールであるわけです。

つまり専門診療科の臨床現場に「鍼灸師としている」ことが重要です。専門診療科の中で暮らすことで、自分のやっている鍼灸の「どこが」現行の専門診療科の治療にない価値であるのか、自信を持って当たり前に語れるようになります。また、専門診療科での治療方法を分かっていることで、鍼灸師としてどういう治療を付加すれば効果的であるか、考えることができます。そうしますと、研究や臨床のどんな場面でも力まずに、有望な研究課題としての鍼灸をアピールできます。今、私の周りのご同業を見渡しても、町で長年生き残っている鍼灸院の先生方は、専門診療科における臨床的な「思い出」を積んでいる方が多いです。頭でっかちではダメ、百聞は一見に如かずなんですね。

 

――鍼灸師は病院での仕事をどのように探したらよいでしょうか。

鳥海
現在、病院の鍼灸師の求人は少ないです。また鍼灸師としてのアイデンティティが確立できる前の病院勤務には、弊害も多いように思います。新卒、新人の先生方には、勉強を目的に、看護助手など他職種のアルバイトとして病院に勤務なさる事をお勧めします。職種は問わずに医療機関のスタッフとしての「思い出」を積むべきです。勉強のためと思えば、別に格好悪いことはありませんし、多くの先輩方がやってこられた方法です。

――鍼灸師が病院で働く際の心構えを教えてください。

鳥海
鍼灸師であることを片時も忘れないことです。勉強のために勤めた病院で、鍼灸師であることを忘れたら、勤めた意味がなくなります。自分は鍼灸師だ、と胸を張れるように鍼灸師としての腕前を磨きつつ、医療機関で西洋医学の実体験を積んでほしいです。

――最後に、病院で働いてみたいと考える先生方に、アドバイスをお願いいたします。

鳥海
反対のことを言うようですが、まずは「出張専門でもいいので開業すべき」と思います。“自分の”看板を掲げないと、来てくださった患者さんを、大事な“自分の”患者さんとして自覚できません。つまり、勤め人では自覚が芽生え難いのです。

自分の看板を掲げて鍼灸臨床の「思い出」を積み、そのうえで、自分の得意な疾患について、現行医療の専門の診療を実体験するために、病院勤務を目指すのが良いのではないでしょうか。その折は、先ほど申しましたように「職種は問わない」のがコツだと思います。

もう一つ、「鍼灸師会などに所属して、先輩方と『同業』として付き合うこと」をお勧めします。ベテランの鍼灸師の先輩方は、無意識のうちに今まで申し上げたようなことを実践されています。会に加入して、先輩方とお酒を飲みながら地域の行事をしつつ暮らすと、厚みのある鍼灸師になれます。これは内緒ですが、先輩方に気に入られますと、知り合いの病院に口をきいてくれる事もありますよ。

 

鳥海春樹(とりうみ・はるき) 1971年生まれ。1997年、日本鍼灸理療専門学校卒業。2002年、鳥海鍼灸院開業。2005年、東京理科大学理学部II化学科卒業。2011年、慶應義塾大学大学院医学研究科博士課程修了(医学博士)。2011年、慶應義塾大学医学部神経内科特任助教、2012年、同非常勤講師、現在に至る。2011年より慶應義塾大学病院神経内科鍼外来を主宰。

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