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鍼灸師が病院で働く条件とは?(3)
安田直子氏(医療法人社団晴晃会育良クリニック・鍼灸師)インタビュー [2013.05.20]

鍼灸師の卒業後の就職先として、鍼灸院や整骨院ではなく、病院やクリニックなどを希望する人も少なくない。ただ、一口に「鍼灸師が医療機関で働く」といってもその形態はさまざまだ。このコーナーでは、医療機関で働く鍼灸師の姿をレポートする。第3回目は、医療法人社団晴晃会育良クリニックの安田直子氏にお話を伺った。育良クリニックは東京都目黒区にある産婦人科で、「安全な環境のもとでの自然分娩」を理念としている。今回は産婦人科での仕事の内容や、鍼灸師として病院で働く心構えなどについて聞かせていただいた。

――安田先生が鍼灸師になろうと思われた理由は何でしょうか。

安田 私は京都府宇治市の出身ですが、実家の隣に鍼灸院があり、幼いころからよく通っていました。中学から重量挙げを始めまして、身体のケアをそちらでずっとお願いしていました。その鍼灸院は女性の先生で、4人のお子さんを育てながら仕事をしているのを見て、「女性が長く働けるのはいいな」と思っていました。その後体育大学に進学しまして、4年生のときに進路について教授に相談したところ、「鍼灸師という道もあるよ」と教えていただきました。ずっとスポーツをしていましたから、スポーツトレーナーになることも考えました。ですが、免許を取得したほうがよいかと思い、大学卒業後に鍼灸学校に進学して資格を取りました。

――現在の仕事はどのようにして見つけられたのですか。

安田
資格取得後は自身のスポーツの経験を生かすべく、スポーツクラブに就職して、その中の治療院で働いていました。そこは結婚を機に退職したのですが、日中の時間帯で働ける職場はないかと探していたところ、当院の求人広告を『医道の日本』で見つけて応募しました。転職に際して、治療院の形態や診療科に特別なこだわりがあったわけではありません。

――転職して大変だったのはどんなことですか。

安田
病院勤務で大変なのは、西洋医学の深い知識が必要であること、医師や助産師など他の医療職の方と一緒に働くことでしょうか。膨大な量の医学用語や、検査の補助といった業務の流れを覚え、カルテを読み込み患者さんの状態を把握する力が求められます。仕事に慣れた、と思えたのは1年ほど経ってからでしょうか。患者さんを何人か診て、妊娠から出産までの約10カ月間の流れをつかむことができました。

 

 

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鍼灸治療を行うトリートメント室。浦野晴美理事長の提案で、障子をしつらえた

 

――現在の仕事の形態について教えてください。

安田
私は常勤の職員として働いていて、平均して週に5回勤務しています。休みは月8回で、3~4日おきに1~2日の休みがあるというシフトです。当院は予約制ですので、1日に担当する患者さんは3人前後です。鍼灸治療のほかには子宮頸がんの検診、内診の介助といった補助的な業務も担当しています。

――貴院の鍼灸治療のしくみはどのようになっているのですか。

安田
鍼灸治療を受けられるのは、当院を受診している産科・婦人科の患者さんのみで、自費診療になります。逆子や冷えなどの症状があって鍼灸治療を希望される方や、医師や助産師に勧められて治療を受ける患者さんがいらっしゃいます。医師が管理しているカルテのほかに、鍼灸師が施術の内容を詳しく記入したカルテを作成しています。

医師や助産師が近くにいて、体調に変化があればすぐに診察が受けられること、カルテがあり患者さんの情報が豊富であることは、鍼灸治療をする側も受ける側も安心感が大きいと思います。初めて鍼灸治療を受ける患者さんもいらっしゃいますので、鍼に興味をお持ちであれば、ディスポーザブルの鍼を見せたり、試しに1カ所鍼を打って痛くないことを実感していただければ、「やってみます」と言っていただけますね。「痛くない」「お灸は身体が温まるので気持ちいい」という感想が多いです。

――産婦人科の院内で鍼灸治療を受けられるクリニックは珍しいと思うのですが、他の医療職の方の鍼灸に対する反応はいかがですか。

安田
当院は理事長(浦野晴美氏)が「いいものは積極的に取り入れよう」というスタンスでして、鍼灸治療のほかに骨盤ケアやベビーダンスなどの教室も開いています。理事長や医師、助産師といった当院のスタッフは私が施術したり、自身で治療院に通うなどして鍼灸治療を体験しています。鍼灸の経験者が多いので、他のスタッフは理解があると思います。

 

 

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育良クリニックの待合室。クリニックでは、色彩セラピーやベビーダンスなどのプログラムを設けている

――病院で働くのに必要な心構えとはどんなことでしょうか。

安田
鍼灸院や整骨院と異なるのは、周囲とのチームプレーの要素が大きいことでしょう。院内の業務で、各職種で協力しあうことが求められます。例えば、出産直後の入院患者さんの治療も担当していますが、食事やリネンのスタッフと連携してそれぞれの業務を調整します。検査の器具出し一つをとっても、それぞれの医師のリズムがあります。一人ひとりのペースに合わせて、仕事をしなければなりません。また、当然ではありますが産婦人科の治療の動向を押さえておくべく、必要な資料はいつも読むようにしています。

産婦人科という診療科の性質上、幅広い年代の女性患者さんが来院されます。妊娠が分かって喜びいっぱいの方、初めて産婦人科に来て不安な気持ちでいる学生さん、なかなか子どもができず苦しんでいる方…と患者さんを取り巻く環境は多種多様です。残念ながら流産してしまった患者さんは、妊婦さんと会わないようにするなど、細やかな心配りも必要です。

――「病院で働きたい」という鍼灸師の方にメッセージをお願いします。

安田
まず、病院の方針に従い、教わったことを素直にやってみて覚えていってください。作業中に感じた疑問点は、必ず確認して自分の肥やしにしてください。行きたい診療科に限定せず、在学中に医学の知識をたくさん吸収しておいてほしいですね。せっかく鍼灸師の免許を持って世に出るのですから、患者さんと社会に貢献していただきたい。「これは自分の仕事ではない」と思うこともあるかもしれませんが、将来何かの役に立つと思えば、どんなことでも勉強だと思えるのではないでしょうか。

 

安田直子(やすだ・なおこ)1973年生まれ。1995年日本体育大学卒業。1998年日本鍼灸理療専門学校卒業。コナミスポーツクラブなどを経て2008年に育良クリニックに着任、現在に至る。女性鍼灸師フォーラム会員。

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