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『もう悩まない! やさしい鍼を打つための本』著者インタビュー [2013.07.22]

今夏、『もう悩まない! やさしい鍼を打つための本』が刊行されました。著者は経絡治療夏期大学で講師を務める中根一先生。中根先生は臨床家として京都でご自身の治療院を経営しつつ、講師として鍼灸学校で教壇に立ち、経絡治療学会では関西支部長を務められるなど、幅広く活躍されています。今回は執筆のきっかけや本書に込めた想いについて、お話をうかがいました。

――本書を執筆しようと思われたきっかけについて、教えてください。

 

中根 若い頃は、「鍼灸って、本当に医療として成立してるの?」とか、「○○流や△△術こそが正しいと言う人がいるけれど、鍼灸ってそういうものなの?」という想いが胸の中で渦巻いていました。ところが徐々に鍼灸との関わり方に慣れたのか、「まあ、それはそれ」みたいな感じで済ませられるようになってきたんです。今では「脈診は本当に臨床で使えるんだよ」とか、「切皮や置鍼の効果はすごいんだよ」と当たり前のように語ることができていますが、学生さんからすれば「本当に?」っていぶかしく思いながら僕の話を聞いてくれているのかもしれません。

世の中にはすでに、有名な先生方が出版された素晴らしい書籍がたくさんあります。勉強をするためのテキストは、書店にいっぱい溢れているんです。でも、僕がちょっと手薄に感じているのはその前の段階で、そこへ向かって背中を押してあげるきっかけとなる存在。初学者が「東洋医学ってなかなかやるじゃん」とか、「私にもできるかも!」と前向きな気持ちで机に向かうための情熱も必要だと思うのです。そんな動機づけになればと思い、本書を執筆しました。

僕は今年で43歳になりますが、まだ若い人たちの気持ちが感じられるギリギリの年頃で執筆のチャンスをいただけたのはとてもありがたいことです。学生のみなさんは学校の勉強で手一杯でしょうから、新しい知識の習得を促すのではなく、今ある知識を応用できるような発想や視点の切り替えができるようになってほしい。今回は、そんなメッセージを発信する役割をいただいたように感じています。

鍼灸学校の教壇から見えるのは、悶々とした想いと諦めに満ちた学生さんたちの表情です。自分たちが経験してきた医療とはまったく違うし、東洋医学の言葉はチンプンカンプンだし、鍼を刺してみたら痛いし、鍼灸師は貧乏だって聞くし……。「鍼灸とはそういうもの」という一言で片づけられちゃったら、そこで立ち止まるしかない。趣味として東洋医学を勉強している人にとってはおもしろい謎解きになるかもしれませんが、生業とするために入学した人はモチベーションが下がっちゃうでしょうね。これは、なんとかせねばマズイと感じていました。本書がモチベーションを上げるきっかけになればうれしいです。

 

 

――本書のタイトルは「やさしい鍼を打つための本」ですが、「やさしい鍼」とはそもそもどのような鍼のことですか?


中根 臨床において言えば、「痛くない鍼」のことです。思い起こせば僕が開業した初日、最大の不安は「1本目の鍼が痛くなく打てるかどうか」でした。師匠の下で修行を積んだはずなのに、自分の看板を背負った途端にそんな基本的なことが不安になったんです。そのような経験から、本書のPart2では「痛くない鍼を打つにはどうするのがよいか?」について、親友である船水隆広先生と戸田隆史先生に協力いただき解説してみました。

 

 

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痛くない、やさしい鍼を打つための工夫を、豊富な写真、イラストとともにわかりやすく解説している

 

 

もう1つの「やさしい鍼」の意味は、施術の風合いが「やさしい」ということ。鍼灸医療と現代西洋医学との最大の違いは、「コミュニケーションが占める割合」です。検査機器に頼ることができない僕たち鍼灸師は、患者さんとしっかり向き合って心身の状態を観察しますから、自ずと「鍼灸の先生はやさしい」と感じてもらえているようです。鍼灸師と鍼灸治療が「やさしい」というキーワードでつながるためには、痛くない刺鍼技術だけではなく、緊張や不安が抜けるような言葉がけ、心が落ち着くような触診が必須なのではないでしょうか? つまり、鍼灸院で過ごす時間のすべてを穏やかなものにすることが、僕たちの医療の特徴なのだと思うのです。臨床は、学術的な正解だけでは成立しません。ですからPart1では、患者さんとのコミュニケーションのとり方についても解説しました。これから臨床に出るという方には、ぜひ参考にしていただきたいと思います。

 

 

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Part1では、中根流・考え方のヒントや臨床上の心がまえ、接遇のコツやポイントなどが

満載! これから臨床に入る人には一読の価値あり

 


――船水先生、戸田先生に協力を依頼されたのは、どのような理由からですか?


中根 彼らは経絡治療学会で10年以上も一緒に夢を語り合っている仲間であり、親友です。 2人は私利私欲に埋没することのない本当に素敵な人なので、出会ってからずっと仲がいいんですよ。

僕たち3人は同じ学会に所属していて、臨床と教員を経験しているという共通項があります。鍼療哲学らしきものは共有していますが、各々が生活している環境や立場が違うので、視点や方法論には少しずつ違いがあります。でも、その違いは学術の正誤じゃなくて、鍼灸師の個性なんです。Part2では3人の技術をそれぞれ解説していますので、そこから必要条件と十分条件を抜き出して、自分の感性と手に合った刺鍼技術を生み出していただきたいと思っています。

 

 

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Part2では、経絡治療学会夏期大学で講師を務める船水隆広氏(呉竹医療専門学校専任

教員:写真中央)、戸田隆史氏(戸田鍼灸接骨院院長:写真右)も実技を披露。3人それぞれ

コツとポイントを紹介している

 

 

――本書の一番の見どころについて教えてください。

 

中根 かつてスキーが流行っていた頃は、パワフルなモーグルや美しいパラレルターンを決めることが格好良くて、ゲレンデで転ぶなんて恥ずかしいことでした。でも時代は変わり、今はスノーボードの時代です。ちょっと力が抜けていて、オシャレで、なんだか楽しい感じで、派手に転ぶことが恥ずかしくないどころか格好よかったりするでしょう? よくも悪くも、これが21世紀の文化の形なんでしょうね。ですから、本書ではこの「なんだか楽しい感じ」をモットーに制作していただきました。今どきの若い学生さんたちに鍼灸の素晴らしさと鍼灸師として生きる喜びを伝えるためには、文字がズラッと並んだマジメな本だけではなく、こういった遊び心のある本があってもいいんじゃないでしょうか?

また、本書は技術本ではありますが、読了後に「なぜやさしい鍼をするのか?」「鍼灸師として生きていくためにはどうしたらいいのか?」とご自身に問いかけてもらえるような「考えるタネ」に仕立ててみました。みなさんには、丸暗記の勉強じゃなくて、「それって、そもそもどういうコト?」と考えることの楽しさも知っていただきたいと思います。How-Toじゃなくて、Know-Howが大切だってことが伝わるといいんですが……。

 


――本書をどんな方に読んでもらいたいですか?

 

中根 鍼灸学校に在籍している学生さんはもちろん、臨床に出たばかりの鍼灸師にも読んでいただきたいと思っています。

鍼灸師になることに否定的だったり、あるいは鍼灸そのものに懐疑的だったりする学生が少なくないのは先述したとおりです。でも、鍼灸師という仕事になんらかの希望を感じたから、学校に入学したのでしょう。そんな彼らが悲観的になってしまうには、そうなってしまうだけの理由があるはずです。国家試験対策に的を絞ったカリキュラム、暗記優先で説明の不足した講義、頭ごなしに若手の意見を否定する先輩鍼灸師、経済的に潤っている開業鍼灸師をあまり見かけない……などなど。そういった理由の一部は、すでに鍼灸師として生きている僕たちの責任でもありますよね。

そうは言っても、僕たちがみなさんの人生を救うことなんてできません。みなさんは自分の人生を、自分で何とかするしかなんです! このまま退学や留年するわけにもいかず、「前向きになれない理由」を並べてモヤモヤしている後輩たちにぜひ一読いただいて、一歩目を踏み出してほしいと思っています。僕は人生のドン底を経験しましたが、鍼灸師だったから困難を乗り越えることができました。はり師・きゅう師免許は、不幸になるためのパスポートじゃありません!!

 


――読者にひとこと、お願いします!


中根 まだまだ成長過程にある僕ですが、みなさんのちょっと先輩として本書を上梓させていただきました。もしかしたら大先輩たちからは「いったい中根は何を書いているんだ?」と笑われちゃうかもしれませんし、10年後に僕自身が読み返してみたら、恥ずかしくて本を閉じちゃうかもしれません。 

でも、「キャリアが長い先生にしか発言権がなくて、しかも絶対的に正しい」なんてルールはありませんから、思うがままに書かせていただきました。聞くところによると、有名な先生方も若かった頃には随分とヤンチャだったそうですから、もともと若い人たちも責任をもって発言することが許されている自由な業界なんです。この業界が硬直化しているように感じるのは、先輩たちの責任ばかりじゃなくて、僕らも含めた若い人たちが萎縮してしまっているからなんじゃないでしょうか? あるいは、「寄らば大樹の陰」じゃないけれど、権威に依存しちゃっているとか……。

僕たちは、先輩たちの教えをしっかりと学び、そこに創意工夫を凝らしてもいいんですよ。伝統というものは、そうやって時代ごとに変容を繰り返しながら、本質を伝えきたのです。「言ってみよう」「やってみよう」、そんなクリエイティブな機運が高まれば、きっとみんなのモヤモヤなんてどこかへ飛んで行ってしまうでしょう。

手のなかにある駒でしか、ゲームは進められません。はり師・きゅう師免許を手にして、どうやって自分の人生を充実したものにするのかは、みなさんの「努力」と「ご縁」と「発想」次第です。あらゆる条件がクリアになるとしたら、みなさんはどんな鍼灸師になってみたいですか? あるいは、どんな鍼灸臨床を行ってみたいですか? ぜひ、みなさんの夢を聞かせてください。

「できない理由」を探すんじゃなくて、「実現させるための方法」を見つけていきましょう!!

 

●中根 一(なかね はじめ)

1970 年生まれ。鍼灸Meridian 烏丸(京都府京都市)院長、ロート製薬Smart Camp ケア鍼灸監修。明治鍼灸大学卒業後、岡田明祐氏、岡田明三氏に師事。明治東洋医学院教員養成科卒業。明治東洋医学院非常勤講師、経絡治療学会理事・関西支部長・夏期大学講師。AIMC(バークレー鍼・統合医療大学院大学)日本鍼灸講座認定プログラム講師。『日本鍼灸医学(基礎編)増補改訂版』(経絡治療学会)改訂委員。

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