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アーユルヴェーダのヘッドマッサージ

小川ゆり Ten治療院院長

  当院が、世界最古の伝統医学であるアーユルヴェーダを取り入れるにあたって重要視しているのが、治療の最初に行うヘッドマッサージです。人間の身体は頭から足の先まで切り離されることなく、すべてつながっており、その要となるのが頭部だからです。
  アーユルヴェーダには、東洋医学におけるツボの源流とも言われている107の「マルマ」という概念があります。ツボが点であるのに対し、マルマは広く面的なものと捉えられています。頭頂部にはツボで言うと百会、四神聡などがありますが、アーユルヴェーダでも「アディパティ・マルマ」があります。アディパティ・マルマは心と身体、脳に直結し、それらすべてを統括すると言われています。
  施術の第一のアプローチとしてのヘッドマッサージにより、アディパティ・マルマをコントロールすることで全身のエネルギーが流れやすくなり、心身の緊張がほぐれてより効果的な治療が可能となります。
  また、アーユルヴェーダの生命観では、生命の創造の源である大宇宙と人間の性質が調和することで、あらゆる機能が最高の性質を発揮していくと考えられています。アーユルヴェーダでは真の富や愛、さらには悟りも、個人が宇宙との調和を図ることで実現すると説かれており、そのために重要なのが「宇宙との接続部」である頭部の柔軟性です。このように、アーユルヴェーダにおけるヘッドマッサージは、単にこりをほぐしたり、血行をよくするだけでなく、非常に深い知恵が込められています。

アーユルヴェーダにおける治療の考え方

  東洋医学では「天人合一」が説かれますが、アーユルヴェーダでも「人間は大宇宙の中の小宇宙」と規定されます。ただし、アーユルヴェーダにおいて特異なのは、大宇宙の天体の仕組みそのものが、人間の頭部に直結していると捉える点です。例えば大脳皮質を「ラシ・クンダリー」という天体図に当てはめて表し、身性感覚を制御する視床は「太陽」、自律神経系や内分泌系を制御する視床下部は「月」に相当します。つまり、ヘッドマッサージは、「頭皮を介して大宇宙そのものにアプローチすることで、人間に内在する宇宙との調和を図る」といった意味も含まれています。
  アーユルヴェーダには陰陽五行思想の源流とも言われる、「五大元素」という概念があります。「空」(空間)、「風」(運動)、「火」(変換)、「水」(液体)、「土」(固体)の5つの元素によって宇宙は形成されていると考えられています。
  この五大元素は2つずつに組み合わされて、3つの「ドーシャ」(トリドーシャ)と呼ばれるエネルギーを構成します。これは東洋医学における気血水と似た概念で、ドーシャが乱れると病気が起こります。アーユルヴェーダにおける治療は、乱れたドーシャにより発生した体内毒素を排泄させ調整し、心身を浄化することが目的となります。

アーユルヴェーダのヘッドマッサージ、その適応と禁忌

  トリドーシャの乱れは、頭部でも確認できます。例えば、精神疾患、脳出血、脳梗塞の患者さんの頭皮は張りついたように硬い場合が多いのですが、この硬さはトリドーシャのうちの「ヴァータ」(「空」と「風」のエネルギー)の乱れに起因します。風は物を乾燥させ硬くする性質があることを想起すると分かりやすいでしょう。また、ヴァータは脳神経系の働きを司るため、精神疾患や脳血管障害患者の頭皮に影響を及ぼすわけです。
  頭皮がぶよぶよとむくんでいる患者さんは、「カパ」(「水」と「土」のエネルギー)が乱れていると考えられます。このタイプの患者さんにはアレルギー性鼻炎、ぜんそくなどの症状とメンタル面の鬱傾向がみられます。施術では、頭皮に摩擦を起こして、水分を蒸発させたり、ガルシャナ(絹の手袋を用いた乾布摩擦マッサージ)という方法で症状の緩和を図ります。
  ヴァータもしくはカパが乱れている患者さんが、ヘッドマッサージの適応ということになる一方、「ピッタ」(「火」と「水」など諸説あり)の患者さんには施術を控えたり、慎重な処方を要する場合があります。なぜなら、「火」は人体においてしばしば炎症として現れるためです。マッサージによる摩擦などの刺激で、さらに熱(火のエネルギー)を発生させてしまい、症状が悪化してしまう恐れがあります。
  そのほか、ヘッドマッサージが禁忌となる疾患は以下の通りです。
  発熱時、皮膚疾患、頭皮感染症、高血圧または低血圧、骨粗鬆症、糖尿病、重度の喘息、神経系疾患、癲癇、出血性疾患、事故・怪我・手術直後、脊椎上部の脊髄炎、妊娠初期、飲酒後、頭痛発生時。

施術の手順

  当院では、まず最初に問診や頭皮の触診でドーシャの乱れをチェックして、患者さんの心身の状態を把握します。そのうえで、個々に適切なヘッドマッサージを行い、ドーシャの乱れを調整していきます。ヘッドマッサージの前には、深呼吸と頚肩背部のマッサージを行います。ヘッドマッサージ後にはベッドに移動し、切診を行ったのちに鍼灸治療によって全身のドーシャの異常を整えます。次にアビヤンガオイルマッサージで「アーマ」と呼ばれる体内の毒素を排出するという流れで施術していきます。
  今回はこのうち、最初のアプローチであるヘッドマッサージを紹介します。なお、モデル患者はヴァータが乱れていると想定し、頭皮の硬さを和らげる施術とします。

 

つづきは、雑誌「医道の日本2014年10月号」でお読みください。