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デスクワーカーに忍び寄るリスク 明日からの患者指導に加えるべき習慣とは

岡浩一朗(早稲田大学 スポーツ科学学術院教授)

世界中でデスクワークを主とした座り仕事が増えるなかで、「座りすぎること」が心身に及ぼす悪影響に注目が集まっている。長時間にわたる座位は、さまざまな疾患の要因となり、運動機能の低下を引き起こすだけなく、糖尿病や心血管障害のリスクファクターにもなり得るという。日常に潜むこのリスクを回避するにはどうすればよいのか。行動科学を専門に、高齢者の介護予防から働く人の健康づくりなど、幅広い層を対象にした研究を行う岡浩一朗氏に、知るべきリスクと身につけるべき習慣を聞いた。

【「座りすぎ」は脳や心臓、 はては精神にまで影響する】

――世界では今、座りすぎることが身体に及ぼす影響に注目が集まっているとのことですが、実際にどのようなリスクが考えられるのでしょうか。
  最近、海外の医学系雑誌「Annals of Internal Medicine」では、長時間の座位行動は総死亡や心血管疾患死亡・罹患、がん死亡・罹患、それから糖尿病の罹患など、それらすべてに対するリスクファクターになるという論文が発表されています。また、イギリスとスコットランドの成人を対象に、座りがちな仕事の人と、立ったり歩いたりする仕事の人とで、がん、心血管疾患で死亡するリスクはどの程度異なるのかについて検討した研究が行われました。その結果、特に女性で座りがちな仕事の人を基準とした場合、立ったり歩いたりするような仕事の人たちは、総死亡のリスクが32%低く、がん死亡に関しては40%も低いとのデータが示されています。

  さらに、高齢者においては、代表的な座位行動である長時間のテレビ視聴によって、歩行速度のような運動器の機能が低下することと直結したり、認知機能の低下などとも関連するともいわれています。  
  日本国内の研究としては、国立がん研究センターが中心になって進めているJPHC Studyというコホート研究において、日本人を対象に生活習慣とがんをはじめとする疾病との関連について研究を行っており、最近、ある調査結果を公表しました。そのなかでは、第2次、3次産業よりも、第1次産業に従事する就労者において、仕事中の座位時間が長い人は、総死亡のリスクが高い傾向が示されています。また、九州大学の本田貴紀氏の研究では、30分以上連続して座っている時間が多い就労者は、メタボリックシンドロームを発症するリスクが高まることも分かっています。

――長時間座り続けていることがさまざまな死因のリスクを高めるのですね。座っているときの人の身体では、一体どんなことが起こっているのでしょうか。
  座っている間は、大腿部の裏側が押されていますよね。それによって全身の血流が悪くなります。第二の心臓と呼ばれる腓腹筋の辺りも、活動がないままなので同様です。身体の腰部から下には6~7割の筋肉があるのに、それをほとんど使わないことが、大きな問題なわけです。そうなれば、糖の輸送にかかわるGLUT4の機能低下が起こるわけですから、糖尿病になりやすくなります。また、脂肪分解酵素であるリポタンパクリパーゼ活性が下がることで、肥満の原因となり、代謝疾患のリスクが高まります。そのほかにも、ずっと座り続けて身体を動かさないことで血流量が下がり、血管内凝固作用が高まることで血管内壁の障害になり、ひいては血圧が上がってしまうことがあります。それが心臓病、心血管疾患のリスクを高めてしまうのです。

  最近では、座りすぎていることがメンタルヘルスや認知機能の発達などに影響しているのではないか、という研究も行われています。高齢者の場合は、会社人から地域人に移ると、生きがいを失い、何もすることがなく家でじっと座ってテレビを観ているケースも少なくありません。そのことが、認知機能の低下を早める可能性もあるわけです。メンタルヘルスや認知機能にかかわる分野に関しては、これから徐々に研究成果が発表されるのではないでしょうか。

【動くことから遠ざかる現代人】

――座りすぎることによる筋活動の低下が原因なのですね。そのリスクを解消するためには運動をするだけでよいのでしょうか。
  一般的に健康によい運動強度(メッツ)は、3メッツ以上の中・高強度の身体活動だといわれています。そして、座位および臥位における1.5メッツ以下の覚醒行動のことを、我々は「座位行動」と呼んでいます。例えば、料理や洗濯などの家事活動の多くは1.5~3メッツの低強度、通常歩行から軽いジョギングは大体3~6メッツの中強度の身体活動になります。  
  WHOは、1日30分程度の運動を、「連続でなくてもよいので、週150分以上になるように行いましょう」と提唱しています。しかし、最近の研究では、毎日3メッツ以上の身体活動を行っていたとしても、1.5メッツ以下の座位行動の時間が長ければ、死亡をはじめとするさまざまな健康リスクが高くなることが分かっています。運動をしたからといって安心して、それ以外の時間をずっと座っていれば、むしろ健康からは遠ざかるのです。

 

つづきは、雑誌「医道の日本2017年2月号」でお読みください。