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医療現場に取り入れられるマインドフルネス(動画あり)

保坂隆 聞き手:渡邉勝之

仏教の瞑想を現代科学的にとらえた「マインドフルネス」が、日本でもテレビ番組で取り上げられるなどして大きなブームとなりつつある。そんなマインドフルネスを以前から聖路加国際病院(東京都中央区)でがん患者の心のケアに取り入れているのが精神科医の保坂隆氏だ。保坂氏の外来を訪ね、医療現場でのマインドフルネス活用の実際と、東洋医学の臨床にも応用できるセルフケア指導、そしてマインドフルネスブームの今後について聞いた。

【死生観が 求められる職場】

渡邉  保坂先生は聖路加国際病院で、がん患者の心理を扱う精神腫瘍科の外来に従事されています。精神腫瘍医の数は日本ではまだまだ少ないといわれていますが、どのようなきっかけでその道に入られたのでしょうか。
保坂  僕は慶應義塾大学医学部の学生時代に、心と身体のつながりに興味を持ち、心身医学を学びたいと思いました。九州大学や東京大学など日本に4カ所くらいしか心療内科がなかった時代のことです。医学部を卒業した1977年頃に「リエゾン*1」という概念を知って以来、精神科と他科との中間領域を扱う「リエゾン精神医学」に携わりたいという思いを持ち続けてきました。その後、当時できたばかりの東海大学医学部附属病院で研修を受ける機会に恵まれました。6カ月ずつ各科を回って研修を受ける、今でいうスーパーローテーションですね。4年後、そこの精神科に入局したのですが、僕はそこで従来行われていた精神分析ではなく、身体症状を扱う他科との中間領域、例えば循環器科では、心筋梗塞になりやすい患者の性格について研究をして、医学博士号もいただきました。そして36歳のとき、リエゾンの専門学会である日本総合病院精神医学会の設立メンバーの一人になりました。

*1 リエゾン
フランス語で「連携、橋渡し」という意味。一つの専門領域を代表して、他の専門領域に援助的にかかわり、専門領域間の相互関係を調整していく。「リエゾン精神医学」という場合には、精神科医や心療内科医が継続的に他科の治療チームと協力して、一般的な身体医療のなかで患者が抱える精神的な問題に取り組むことを指す。

保坂先生監修の、マインドフルネスの考え方を説明する動画をYouTubeに公開しています。

  1990年、40歳でカリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)に留学したときの上司が、「悪性黒色腫(malignant melanoma)の患者にグループ療法を行うと生存期間が2倍に延長する」という研究結果を発表したFawzyという人でした。それを機に、リエゾンのなかの一つの領域として、精神腫瘍学(psycho-oncology)を自分の専門としました。僕は当初、精神医学的な知識や技術をがん患者に応用すれば、精神腫瘍科の臨床ができると思っていました。ところが、精神科の臨床と精神腫瘍科の臨床は全然違ったのです。
渡邉  どのように違ったのでしょうか。
保坂  例えば精神科の臨床では、うつ病患者の希死念慮、つまり健康な人が働きすぎて、うつ病になり、「もう自分は死んでも構わない」と思うようなケースをずっと診てきました。一方、精神腫瘍科で診る患者さんは、生きたいと思っているのだけれど、死んでいくのです。この部分で、死のとらえ方の違いにものすごくショックを受けました。例えば、ある日の朝に会った患者さんが、その日の夜に亡くなったと、翌日聞かされたりするわけです。特に57歳のときから聖路加国際病院で、外来だけではなく緩和ケアチームにかかわるようになり、そのような経験が増えました。そして、こうした状況に対応できるだけの死生観のようなものが自分のなかにないことに気づきました。それから急に思い立って、2012年に高野山大学の通信制大学院に入学することになるわけです。
渡邉  保坂先生の近著『空海に出会った精神科医』(大法輪閣)でも、その辺りの経緯が書かれていますね。私も死生観を持っていなかったために、バーンアウトに近い状況を経験したことがあります。明治鍼灸大学(現・明治国際医療大学)を卒業後、同大学附属病院で研修を始めて2年目のことでした。外科に入局し、がん患者のケアを担当したのですが、その1年間で、私が担当した患者さんだけでも8人が亡くなりました。それまで自分が治そう、治そうと思っていたものですから、無力感を覚えて、鍼灸師としてやっていく自信がなくなりました。そのとき私は偶然、澤瀉久敬氏の『医学概論』(創元社)を読んで、医療者として重症患者を診るためには、自分自身の死生観を確立しなければならないことを痛感すると同時に、立ち直るための勇気をもらいました。保坂先生が高野山大学で学ばれた前後で、臨床に何か変化はありましたか。

インタビューのなかで紹介されている、ロウソクを使った集中瞑想法の動画をYouTubeに公開しています。

保坂  がんになったと聞くと、どんな初期のがんでも「もう駄目です、私は死んでしまうかもしれない」と嘆く人がとても多いです。そういう人たちを診ていて僕は、「人の心に死がよぎるとき、生来のスピリチュアリティが喚起される」ことをすごく感じるようになりました。
  例えば最近のことでいうと、東日本大震災は多くの日本人にすごく大きな影響を与えた出来事ですね。自分の身にも何が起こるか分からないと感じて、人生を考えた人は多いと思います。身近な人が事故や病気で亡くなるのも、「死がよぎるとき」ですね。同じように、がんを告知されるのも立派な「死がよぎるとき」で、患者さん本人だけでなく、家族にとってもそうです。皆さんが、それをきっかけに生きる意味とか、人生の価値とか、何のために生きるんだとか、そういったことを考えるようになります。  
  仏教の言葉でいうと、「菩提心*2」がスピリチュアリティに当たるのかなと思っています。菩提心が開いて宗教に向かうことを「発菩提心」とか「発心*3」といいますが、僕は現代的に、それをスピリチュアリティと言い換えています。

*2  菩提心
菩提はサンスクリット語のbodhiの音写で、悟りの意味。自分が悟りに到達するだけでなく、衆生救済を願う心。誰もが生来持っているとされる。

*3  発心
菩提心を起こすこと。仏となって最高の語りに達しようと決心すること。

 

つづきは、雑誌「医道の日本2017年4月号」でお読みください。