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世界情勢における 鍼灸の国際標準化、利権競争の 現状を知ろう ― 無関心から脱却するためのプロローグ ―

田上麻衣子、森岡一、東郷俊宏、小野直哉

各国固有の歴史に根ざす伝統的知識などに関して、複数の国際機関で活発な議論が繰り広げられている。伝統医学やそのなかに含まれる鍼灸も例外ではなく、伝統的知識の一領域として知的財産の利益争いや国際標準化の嵐のなかに置かれている。中国や韓国は国策として取り組んでいるが、日本は鍼灸関係者さえこの実情を知らないかもしれない。そこで、この座談会では法律や知的財産の有識者、日本の伝統医学の有識者に集まっていただき、どのような議論が行われているのか、諸外国はどう動いているかを聞く。また、今後の対応策の提案を受け、国として業界として個人として、できることを考えたい。

【 国際標準化、 知的財産の専門家に聞きたい】

小野(司会)  伝統医学の国際標準化が行われ始めて10年近く経ちました。中国や韓国など、伝統医学のある国が主導的な立場で対応していますが、日本は後手に回っています。今後どのように国際対応するのがよいのか。今日は3人の先生にそれぞれの専門の立場からお話しいただきます。最初に、伝統医学を取り巻く国際情勢とご自身のかかわりについて、ご説明をお願いします。

東郷  私は2005年に世界保健機関(WHO)で国際標準化が推進され始めたときから、伝統医学の国際標準化にかかわっています。当時は、WHO西太平洋事務局(WPRO)の伝統医学医官は韓国のChoi Seung-hoon氏で、Choi氏の下で立ち上げられた4つの標準化プロジェクトに日本の鍼灸領域の代表として携わったのがきっかけです。 2009年以降は国際標準化機構(ISO)での鍼灸の国際標準化にかかわるようになりました。こうしたなかで、厚生労働省、日本医療研究開発機構(AMED)、経済産業省から研究費をいただき、日本として国際標準化に対応する活動を行ってきました。そのプラットフォームになったのは2005年に設立された日本東洋医学サミット会議(JLOM)ですが、私は2014年から2年間、事務総長を担当しました。森岡先生、田上先生にも知的財産、伝統的知識、生物多様性条約(CBD)といった別の角度から伝統医学の国際標準化を見ていただきご協力いただくようになりました。

田上  私は大学院生の頃から知的財産法と国際経済法の接点、特に伝統的知識の保護について研究しています。専門は法律学で、国際会議のフォローとともに、さまざまな国や地域の法律の整備状況などを調べ、日本の対応策について考えています。

森岡  私は企業に40年弱勤め、その大部分は西洋医薬品の開発分野にいました。2001年から知的財産センターの次長、特許部長という役割で、特許関係の仕事を始めました。小泉政権が国家として大々的に知的財産戦略を立ち上げた頃で、私も企業の立場で知的財産の普及啓発や強化活動に参加しました。そこで内閣府に設置された知的財産戦略本部や知的財産研究所とかかわり、そのときに田上先生と知り合いました。ヒトゲノム解析が2001年に完了し、バイオの分野ではヒトゲノム情報を有効に利用する方法として国際標準化の戦略の一つであるバイオのパテントプールが盛んに検討されました。私が一番興味を持ったのはバイオ特許の利用方法です。しかし、残念ながらバイオの分野でパテントプールがうまくいった例は、今のところありません。  
  もう一つのきっかけは、バイオインダストリー協会(JBA)に生物多様性条約関連の組織があり、私も参加していました。そこで伝統的知識の検討がありました。それ以来、伝統的知識の利益配分にパテントプールが利用できないかが私の永遠のテーマです。

小野  私は、伝統医学が知的財産とかかわるのではないかと最初に気づいたのは2000年です。この年にWHOが淡路島で伝統医学の国際会議を開き、先進国と開発途上国の代表者が伝統医学に関して議論を重ねていました。先進国は、伝統医学は科学的な効果効能・安全性のエビデンスがどのくらいあるかに終始し、開発途上国、特に伝統医学を育んできた国々は、それがどこに帰属するか、誰のものかを主張していました。議論がかみ合わず、違和感を覚えたのがこの問題にかかわるようになったきっかけです。私はその頃大学院生で、医療経済学の研究をしていました。

  その後、2008年頃に東郷先生たちがISOにかかわるようになり、伝統医学の国際標準化があることを伝え聞いていました。調べていくと伝統医学も知的財産にかかわっていることが分かり、その経緯で森岡先生をお訪ねしたのが2009年だったと思います。2010年には名古屋で生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)がありました。日本国内でも生物多様性条約関連の会議が活発に行われ、田上先生ともお会いしました。  
  その後、厚労省の科研費で始まり、現在はAMEDで行われているISO対策の一環で、国際機関や国際条約のなかで伝統医学がどのように把握されているかをウォッチングしていく研究の分担担当として私が対応してきた経緯があり、森岡先生、田上先生にもご協力いただきました。

【鍼灸の国際問題で 浮き彫りになる国内問題】

小野  それでは、各先生のご専門に関係する事項をお聞きします。最初に東郷先生から、日本の伝統医学、特に鍼灸を取り巻くISOの現状について報告をお願いします。

東郷  伝統医学の国際標準化は1980年代に始まっていますが、2004年頃からWHOで本格化しました。韓国のChoi氏がWPROの伝統医学医官になり、ツボの位置、伝統医学の用語、伝統医学の情報、臨床ガイドラインの4つのプロジェクトを立ち上げました。そのうち、ツボの位置と伝統医学の用語に関する標準化の成果は、本になって出版されています。用語の標準化は、主に日本と中国と韓国の3国が集まって議論をしていました。例えば「虚実」のように、同じ用語でも意味する内容が国によって違うことは結構あるわけです。ですから用語集には注釈(annotation)を入れるに留めて、定義(definition)を入れてはいけないことにしたのですが、レビューの最終段階でChoi氏が強引に定義を入れてきました。

 

つづきは、雑誌「医道の日本2017年6月号」でお読みください。