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認知症ケアの革命的手法 「ユマニチュード」とは何か

本田美和子氏(東京医療センター総合内科医長 )
聞き手 : 兵頭明氏(後藤学園中医学研究所所長)

認知症ケアの新しい技法「ユマニチュード」がNHKなどのテレビ番組で繰り返し取り上げられ、注目を集めている。認知症の人や高齢者のほか、ケアを必要とするすべての人に使える、汎用性の高いものだという。鍼灸マッサージの臨床や教育にもユマニチュードを取り入れることは可能だろうか。日本にユマニチュードを導入し、普及を図っている医師の本田美和子氏に聞いた。

【技術を相手に届けるための技術】

兵頭  本田先生は、ユマニチュードの創始者であるイヴ・ジネスト、ロゼット・マレスコッティ両氏との共著で、日本の臨床現場向けに『ユマニチュード入門』(医学書院、2014年)を出版されています。初めて知る読者のために、まず本田先生とユマニチュードとの出会いについてお話しいただけますか。
本田  兵頭先生もご経験がおありかと思いますが、医療やケアを受ける方々の背景は高齢社会を迎えて大きく変わってきました。以前は、医療やケアを受ける方々は、自分の健康の状況を把握していて、その改善を望んでいらっしゃり、私たちも自分の技術や知識を、相手が受け取ってくださることを前提としていました。つまり、ご本人にとって不快な治療やケアであっても、それがご自分のためだ、と理解でき、我慢して受け入れてくださっていました。ところが、高齢社会では、認知機能が低下している高齢の方々に医療や介護の現場でお目にかかることが日常的になりました。この方々は、どうしてご自分が病院にいて、何をされているのかが理解できません。そのため、医療やケアに対して私たちが拒否的である、と受け取ってしまうような反応があり、それでも私たちが自分の仕事をやり遂げようとするために、結果として、ご本人が望んでいない状況にどんどん巻き込まれてしまうことを多くの医療やケアに携わる人が経験されていると思います。私もそうでした。

  つまり、現代の医療や介護の現場では、医療や介護の内容の質だけでなく、それを相手に受け取ってもらうための技術、すなわち「届ける技術」が必要になってきました。その「届ける技術」を開発した方がフランスにいると知り、2011年の秋にフランスのジネスト・マレスコッティ研究所を訪問しました。そして、創始者のイヴ・ジネスト先生、ロゼット・マレスコッティ先生の案内で、ユマニチュードを導入している病院や療養施設を視察しました。
兵頭  実際にフランスの看護・介護現場をご覧になっていかがでしたか。
本田  私はフランス語が分からず、臨床医なので具体的な看護や介護のケアについての経験がありませんでした。しかし、私が先生方から学んだ基本の技術を実践してみると、認知機能が低下しているフランスの人に対しても、うまくケアを届けることができました。フランスと日本では、文化的な背景は異なりますが、認知機能が低下した方々の状況や医療の環境に大きな違いはありません。ですから、この技術は日本でも使えるだろうと思いました。
  フランスから戻り、職場の同僚の看護師たちにフランスで見てきたことを話したところ、非常に興味を持ってくれました。彼女たちもやはり、患者さんに優しくしたい、患者さんの役に立ちたいと思うものの、その思いが相手にうまく届かないジレンマを抱えていたのです。看護師たちの強い希望を受け、日本でのユマニチュードの教育が始まりました。
兵頭  その後、本田先生が代表となってジネスト・マレスコッティ研究所日本支部が立ち上げられるわけですね。
本田  はい。2012年以降、東京医療センターを中心に、ユマニチュードの研修を行っています。そこでは、「ケアをする人とは何者か」というケアの哲学と、それからケアを実践するにあたって、ケアを受ける人と良好な関係を結ぶための技術を段階的に教えています。これまで3000人ほどのケア専門職が研修にご参加くださっています。

兵頭  最近はテレビでも紹介されていますが、ユマニチュードとは何か、簡単にご説明いただけますか。
本田  ユマニチュードという言葉には、フランスの歴史的・文化的な背景があります。フランスはかつて、アフリカに多くの植民地を持っていました。そのなかで、植民地にルーツを持つ人たちが、自らの黒人らしさをもう一度取り戻そうとする文化的な運動「ネグリチュード」が始まりました。時期は1930年代から40年代、哲学者のサルトルなどが活躍した前後ですね。「ユマニチュード」はそれを踏まえて、「人間らしさを取り戻す状況」を指す言葉です。そして、ぜい弱な状況にある人の人間らしさをもう一度取り戻すための技法とその背景にある哲学が「ユマニチュード」と名付けられました。  ジネスト先生、マレスコッティ先生はもともとケアの専門家ではなく、体育学の教育者です。お二人はフランス政府の依頼を受けて、看護・介護職員の腰痛対策の教育に赴き、まず現場の観察から仕事を始めました。そこで、職員が患者さんに「じっとしていてください」とお願いしている光景を見て違和感を覚えたそうです。もちろん、ケアを行う職員は相手のことを大事に思い、やさしい気持ちで接しています。しかし、そこで本来なら患者さんご本人が自分で動けるだけの力を持っていても、療養のために「動かないでください」と依頼し続け、その結果としてその人が歩けなくなったり、自分でご飯を食べられなくなったりする現実を前に、ケアそのものがその人の能力を徐々に奪っている可能性があると、お二人は考えたのです。

 

つづきは、雑誌「医道の日本2017年10月号」でお読みください。