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脳卒中・認知症予防としての「くび・あたまの鍼灸」
─鍼灸師の重要な仕事─(動画あり)

天野寛敏

  元気な高齢者に心配事を尋ねると、「脳卒中で倒れたり、ボケたりするのがイヤ! 周りに迷惑をかけるから」という答えが返ってくることが多い。30年前、当院に通院している女性から「首が張る・詰まる」という自覚症状のあるご主人の話を聞いた。「一段落したら連れてきますからよろしく」とのことだったが、間もなくご主人が当院にかかる前に重度の脳梗塞・失語症を発症。その後1年間は全く動けず、車椅子で介助移動の生活10年を経て亡くなった。このようなことがあると、一瞬で本人や家族の人生が変わってしまう。それ以来、まず初めに頚を診ることにした。
  すでに脳卒中や認知症予防に鍼灸を活用している先生方はいらっしゃるし、首こりや頭痛への鍼灸もありふれたものと思われる。今回は一般的な鍼灸師として「鍼灸師の認知症予防アプローチ」について記す。
  定期的な鍼灸治療で身体を整えることは、さまざまな病気の予防に有効である。特に、頚部・頭部への鍼灸は脳卒中・認知症予防の効果が高いと考える。
  鍼灸施術によって、患者が次のような“実感”を得られるように導くことが、脳血流の阻害要因を取り除くことにつながる。
①首こり・肩こりの改善
②頭痛・頭重や鼻づまりの解消
③目がはっきり見える
④頭がすっきりし、根気・集中力が改善する
  なお、当院に来院する患者は、次のような傾向の方が多い。

実際の施術例の動画をYouTubeに公開しました。

①ほかの病院などに行っても痛みがとれない
②不定愁訴(検査で異常は検出されないが調子が悪い)
③自律神経・ホルモンの不調
④頭痛・頭重・疲れ・不眠・うつ傾向
⑤薬が苦手
  これらの症状の大半は、通常の鍼灸治療で全身を調えることに加えて、後述する「くび・あたまの鍼灸」を行うことで改善している。

【くび・あたまの鍼灸】

「高齢の父親がなんだかボーッとしている」と、患者の家族から当院に相談があった。主治医から「酸欠」と診断され、安静にするよう指示を受けたが、改善しないという。往療を依頼され、頚部への鍼灸を行ったところ、即座に改善した。似たようなケースが数例ある。まさに「脳への血流は頚を通ってまかなわれている」ことの証明といえよう。
  術方法として、上天柱(天柱の直上5分)、風池、督脈の瘂門付近への「後頭骨をかすめる鍼」はリスクが少なく有効である。大事なポイントは、患者の督脈・膀胱経をストレッチした状態で鍼灸を行うことである。
  刺鍼は経絡の流注に随うように15〜20度の角度で斜刺し、鍼尖が腱膜に届くように5〜10㎜程度の深さで軽く2〜3回“プンプンプン”と雀啄する。施鍼の時間は10秒以内である。頚部側部に刺鍼する場合も同様で、刺入には細心の注意を要する。患者が元気のない状態、いわゆる虚証タイプならば弾入(1〜3㎜)や散鍼で効果がある。置鍼をするときもあるし、灸のほうがよい場合もある。患者の反応をみながら透熱灸を行う。上天柱や瘂門への刺鍼や施灸は、うつや自律神経不調の改善も期待できる。

  なお、治療直後に具合を尋ねると、いきなり頚を後ろに反らしてグリグリと動かす患者がいるが、これは軟部組織に損傷を与えるため、頭痛やめまいのある人には禁忌である。身体によくないくせが慢性化している場合は治療とともに、鍼灸師の助言と本人の意識による姿勢の修正・くせの改善が重要となる。
  日本人に多い後縦靱帯骨化症(ossification of posterior longitudinal ligament of the cervical spine:OPLL)には注意を払う必要があるが、整形外科受診後に当院を訪れた人たちを診ると、医師たちが「ストレートネック」という説明を比較的安易に使っている場面が多いと感じる。頭部の重心が前方へ移動(顔が前方へスライド)し、頭の重さを支える頚筋群のうち後ろ半分が縦方向に縮んで緊張しているというのが実態である。だから、その状態からの「解放・除圧」が治療のキーポイントとなる。
  筆者が診る頭痛の原因の多くは上部頚椎、特に環椎後頭関節部の筋緊張や歪みである。いわば、筋肉がネクタイやマフラーのように頚部を締めつけて、脳への血流を阻害しているわけだ。症状がしつこい場合は、頭部への刺鍼と百会への透熱灸を試みるとよい。頭部を触診すると、およそ半数の患者に凹みや溝がみられる。これはどういうことかというと、田んぼにたとえるなら、地面が干からびて固まっている状態である。ではどうすればよいのか。鍼灸で耕すのである。凹みや溝に「深部帽状腱膜・骨膜をかすめる鍼」を行う。刺鍼の注意点は、「後頭骨をかすめる鍼」と同様。また、百会への透熱灸は、患者が“てっぺんと感じるところ”を基本にし、施灸しながら修正する。
  余談だが、鍼尖に仕事をさせるための刺入角度は、スペースシャトルが大気圏に突入するイメージにたとえられる。角度がきつすぎると、スペースシャトルが燃え尽きる(=鍼尖が壊れる)。逆に角度が浅いと、大気に跳ね返されて宇宙の彼方へ(=帽状腱膜の深層に至らない・目標外)というわけだ。

 

つづきは、雑誌「医道の日本2017年10月号」でお読みください。