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この本の著者に会いたい! 『老人の取扱説明書』(SBクリエイティブ)
治療家もコミュニケーションに 気をつけないともったいない

彩の国東大宮メディカルセンター 眼科部長 平松類 氏

2017年秋に出版された『老人の取扱説明書』(SBクリエイティブ)と題する本が話題になっている。同書では、高齢者の困った行動の原因は認知症や頑固な性格よりも、老化による身体の変化であると説明している。眼科医として臨床の傍ら、医療コミュニケーションの研究にも携わる著者の平松類氏に、高齢者への接遇のポイントと、おすすめの本、映画、音楽を聞いた。

【「聞こえるように話す」の 本当の意味】

─『老人の取扱説明書』というタイトルはなかなかインパクトがありますね。ご執筆された経緯や目的をお話しいただけますか。
平松  「高齢者を物のように扱っていませんか?」「本当に相手のことを分かっていますか?」という逆説的な意味合いで、あえて「取扱説明書」という言葉を使ったんですよ。「老人」も結構きつい言葉ですよね。本文を読んでいただければ分かるとおり、内容をきちんと読んでもらいたい箇所では「高齢者」として、表記を使い分けています。  
  高齢になると、誰でも目、耳、鼻などの感覚機能や、運動能力が衰えてきます。それらを踏まえて、どのようにして高齢者と話したり触れたりするのがよいのかを、ご本人やご家族の方、それから高齢者にかかわる仕事をする人に知ってもらえればと思ってこの本を書きました。

 ─鍼灸マッサージの治療家が高齢者に向き合う際には、どんな問題が考えられますか。
平松  ベテランの治療家なら高齢の患者さんへの対応もきちんとできているかと思います。けれど、その下で働く職員が同じようにできなくてクレームになることは、病院でもよくあります。

  典型的なのは、若い女性職員の話し方に関するクレームです。高齢者は高音域の声を聞き取りにくいのですが、その理論背景を踏まえないで、ただ「高齢者には聞こえるように話しなさい」と指導されていることが結構多いんですね。ベテランは長年の経験から自然に、高齢者に低い声で話しかける習慣が身についていると思いますが、無意識にしていることなので人に伝えられないのです。だから、高齢者に聞こえるようにと思って、もともと声の高い若い女性職員が大きい声で話すと、リクルートメント現象といって、耳にキンキン響いてむしろ聞きづらくなってしまいます。それで「態度の悪い受付だ」と、患者さんを怒らせてしまうわけです。

―高齢者の耳がどのように衰えているのかを理論的に知る必要があるのですね。
平松  耳に関していえば、複数の治療ベッドがあり、何人かの患者さんが同時に治療を受けていて、周りから話し声が聞こえるような状況での聞き取りも、高齢者は苦手です。そういうときは静かな場所に移動するか、カーテンを閉めて少しでも雑音を遮断してから話すとよいでしょう。また、患者さんが補聴器をつけていればそちら側の耳に話すというのも、ちょっとしたコツですね。補聴器は高額なので、両耳が聞こえづらくても片方しかつけないという人も多いです。

―耳以外にも高齢者の身体にはさまざまな変化が起きていますね。
平松  そうです。例えば、特に男性の患者さんに多いですが、無口で無愛想に見える人が怒っているとは限りません。高齢者には声が出にくい人もいるのです。若い職員が「あの人はなんとなくいつも不機嫌で怖い」と距離を取ってしまいそうな患者さんがいても、こういう知識があればスムーズに応対できると思います。

  また、高齢者の記憶力は長期記憶よりも短期記憶のほうが早くから衰えます。「この患者さんはよく話すので記憶も確かだろう」と思っても、予約の日を忘れている、あるいはそもそも聞こえていない場合だってあります。先ほどお話ししたように低い声で予約の日時を伝えたら、「はい、はい」と答えてもらうだけでなく、復唱してもらう、あるいは2つの日時を提示して、どちらかを答えてもらうようにすると記憶に残りやすいです。紙に書いて渡すのももちろんよいですね。

―ご著書では高齢者の歩くスピードにも言及されていますね。日本の信号機はそもそも高齢者が横断歩道を渡り切れるようにつくられていないとの指摘もありました。
平松  特に足腰が悪いわけでなくても、高齢の患者さんは皆、若いときに比べて歩く速度が下がっています。治療ベッドが複数あって、患者さんを順番に案内する方式の治療院で、高齢の患者さんがゆっくり歩いていると、職員は焦りますよね。もし、患者さんがシルバーカーを押して来院したのであれば、受付や待合室に置いておくのではなく、ベッドまで押していってもらうほうがいいんですよ。シルバーカーはただ荷物を入れたり座ったりするものではありません。シルバーカーを使うと転びにくく、速く歩くことができるのです。  
  若い職員、あるいは治療家自身も、高齢の家族と同居していない場合はそういう基本的な事柄を知らないかもしれません。これらを一つひとつ伝えるのは手間がかかりますし、皆忙しいので、僕は病院の職員に自分の本を配っています。教科書よりも読みやすいと好評で、今は職員たちも高齢の患者さんに低い声で話すようになってくれました。

【「あれ」の内容を 問い詰めすぎない】

―治療家自身の高齢者への対応についても、アドバイスをいただけますか。
平松  問診時の注意点ですが、「あれ」「これ」「それ」といった言葉を多用する高齢者が多いですよね。例えば、「あれやったからね、ここが痛いんだよ」と患者さんが言いました。

 

つづきは、雑誌「医道の日本2018年1月号」でお読みください。