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食べ物で心が変わる―栄養精神医学のドクターから鍼灸院への提案

医療法人山口病院精神科部長 奥平智之

「栄養精神医学」を提唱する精神科医の奥平智之氏は「心の病の7割は食べ物が
影響している」と説く。血液検査で見落とされがちな栄養素を見分けるには、東洋医
学の四診が役に立つとのこと。食べ物と心の関連の知識を得て、うつ症状を呈する患
者に寄り添えば、臨床の視点がよりいっそう広がるだろう。

【東西医学の懸け橋になる】

―まず、奥平先生が精神科医になられたきっかけを教えてください。
奥平  父は鍼灸師で、奥平明観*1といいます。子どもの頃から父の鍼灸治療を受け、鍼灸に慣れ親しんできました。病院にはほとんど行ったことがなく、身体が不調なときは鍼灸と漢方で改善した経験から、東洋医学のすばらしさを体感してきました。そして、父が臨床をしている姿を見て、私も鍼灸師として人の役に立ちたいと考えるようになりました。父は東洋医学に加えて西洋医学もしっかり学んだほうが、もっと多くの人が救われると考えていたので、私に医師になることを勧めました。その考えに共感し、私は東西の医学の懸け橋となる医師を志しました。
  精神科医を選んだのは、いまだ十分に解明されていない脳や精神に関心を持ち、メンタルヘルスの分野で東洋医学が活かせると思ったからです。ストレス社会におけるメンタルヘルス、つまり、心の健康の分野で社会に貢献したいと思いました。大学では精神神経科の教室に入局しましたが、その後、東洋医学科にも入局し、週末は大学の東洋医学科で漢方外来を約10年担当してきました。そこではアトピーの患者さん、がんの患者さんといった、メンタルと関係のない患者さんもたくさん診てきました。現在は埼玉県川越市でメンタル不調の方を中心に、心身一如や体質改善などの東洋医学の考え方や治療法を重視した精神科外来を行っています。

 

*1奥平明観(おくだいら・めいかん):東京都・高田馬場で明観堂を開業(現在は引退)。著書に『邪気論~見えない身体への一歩』(医道の日本社)、『見えない水の科学~東洋医学は訴える』(論創社)などがある。

―現在の奥平先生にとって、鍼灸はどのような存在でしょうか。
奥平  古くて新しい最先端の治療体系。未解明な部分が多く、研究の宝庫かもしれません。鍼灸の分野は、温故知新の考えのもと、現代医学的な側面からも研究が進み、より一層満足度の高い医療を患者さんに提供できるようになると考えています。また、食や栄養の指導を積極的に併用することで、鍼灸治療中の患者さんの治療効果に大きく影響すると考えています。
   現在、精神療法や現代医薬だけではなく、基本的に脈、舌、腹部の東洋医学的な診察と問診をし、漢方治療も積極的に行っています。疼痛を中心とした神経系や運動器系などの不調を来している患者さんには、積極的に鍼灸を勧めています。埼玉医科大学かわごえクリニック東洋医学外来などのクリニック、病院の鍼灸外来や、個人の鍼灸師の先生方と密に連携しながら、心身の不調者の治療を多面的に行っています。

【鉄欠乏でなぜ 心が不調になるのか】

―基本的なことですが「うつ」と「うつ病」の違い、そしてうつ病の機序を教えてください。
奥平  「うつ」であるからといって、「うつ病」とは限りません。「うつ」とは「うつ状態」という広い概念であり、病名ではなく状態像を意味します。「期末試験の成績が悪かったから」といった一過性のものなど、生活に支障がない程度の軽症例も、うつ状態には含まれています。うつ状態は、うつ病以外にもさまざまな原因によって引き起こされます。症状の主たる原因が身体疾患によるものであれば、うつ病とは診断できません。鉄欠乏性貧血や、甲状腺機能低下症などの内分泌疾患、悪性疾患、自己免疫疾患、脳血管性障害などの「身体的要因」がうつ状態の主たる原因である場合はうつ病ではありません。また、覚せい剤や脱法ハーブ、アルコール、ステロイドなどの精神作用物質による場合も同様です。

  うつ病の病態はいまだに解明されていませんが、セロトニンやノルアドレナリンなどの神経伝達物質の低下によって起こるモノアミン仮説、心理的ストレスを長期間受け続けるとコルチゾールの分泌により海馬の神経細胞が破壊され海馬が萎縮する神経損傷仮説など、いくつかの仮説が考えられています。
  そしてもう一つは、栄養学的な問題です。
  うつ状態の影響因子となり得る栄養学的な要因は、鉄・ビタミンB群・タンパク質・亜鉛・マグネシウムなどの栄養素の欠乏、血糖調節障害、腸管などの問題が挙げられます。仮に、うつ状態のベースに、うつ病や躁うつ病、統合失調症などの精神疾患が存在していても、栄養学的な要因、つまり身体的な要因が併存していることにより、症状が難治化または遷延していることがあります。また、鉄などの栄養の問題を解決することによって、うつ状態がきれいに消えていく例もあります。  
「貧血がない」、つまり血液検査でヘモグロビンが参考基準値内にあれば、鉄に関しては問題ないと解釈されてしまうことがあります。ヘモグロビンは赤血球のなかにある鉄の指標です。赤血球の鉄は非常に大切なので、最後の最後まで優先的に赤血球に運ばれます。そのため、赤血球以外の生体の鉄が欠乏していても、ヘモグロビン値が正常であることが多いのです。しかし、赤血球の外に貯蔵されている鉄の指標であるフェリチン(貯蔵鉄)に着目することで、本当に鉄が足りているかどうかが分かります。

 

つづきは、雑誌「医道の日本2018年2月号」でお読みください。