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脳の疲労がもたらすIT 眼症【IT眼症、スマホ老眼とは何か】

原直人 氏

IT(Information Technology)とは、パソコンやスマートフォンといった、情報のやり取りを行ううえで欠かせない、現代社会を支える技術である。神経眼科を専門としている原直人氏によると、IT眼症を代表する眼の疲れといった症状には、脳の疲労が関係しているという。また、我々がパソコンやスマートフォンで眼を酷使し、「疲れた」と感じるのはあくまで疲労感であり、疲労とは別物であると指摘する。本当の疲労になる前の疲労感のうちに解消することで、眼や身体、ひいては精神への不調を未然に防ぐ。そのために必要な脳のリラックスに、鍼灸マッサージの可能性を見いだした。

【IT眼症の原因は脳の疲労にある】

─原先生がIT眼症やVDT(Visual Display Terminals)症候群といった分野の研究を始めたきっかけをお聞かせください。
  私は、北里大学に在籍しているときに、当時の医学部眼科学教授であった石川哲氏(現・北里大学名誉教授)の教室に所属していました。当時石川教授はVDT症候群の研究をしていたので、それからVDT作業が視覚にもたらす影響に興味を持ちました。VDT作業がなくなることはありませんし、それに伴う症状もなくなることはありませんので、研究しながら継続して危険性の啓発をしていかなければならない分野であると考えています。

─IT眼症とはどういった症状でしょうか。
  IT眼症という名称が出始めたのは今から15~16年ほど前からです。もともとVDT症候群とほぼ同義語です。VDT症候群は、眼の痛みや疲れといった視覚負担と、肩こりや手、腰の痛みといった筋骨格系負担、そして現在問題になっているうつや過労死といった精神神経への負担が三つ巴になっている症候群です。

会社や仕事でのストレスなども関連しており、一時期は「テクノストレス眼症」とも呼ばれていました。それから携帯電話や携帯ゲーム機器が普及し、ITという言葉が世間に浸透したことで、IT眼症という名称になりました。現代ではスマートフォン(以後、スマホ)などが身近にあり、時間や場所に制限されずに情報を取得できてしまいます。私はこの言葉にコミュニケーションのCを加えて、ICT眼症と呼ぶ場合があります。IT眼症は仕事に限らず広くICT環境における眼の症状を指す言葉に変わってきているのです。  
  IT眼症の原因となるものは、やはりパソコンやスマホの画面を見るという行為です。厚生労働省が1998年、2003年、2008年に行った「技術革新と労働に関する実態調査」では、1日あたりの平均VDT作業時間において、6時間以上と回答した数が増加しており、またどの年でも9割以上の労働者が眼の疲れや痛みを訴えていることが分かります。

─デジタル機器を使用しているとき、眼にはどんなことが起こっているのでしょうか。
  パソコンの場合、まだ画面からある程度距離(40~50cm)がありますが、スマホの場合は若年層だと眼から画面まで19cmほどの距離しかありません。こういった状態を近見視といい、これが常時続いています。通常、遠くを見ているとき、瞳孔は開いています。このときはピント合わせは弛緩している、つまり身体としては休んだ状態です。ところが近くを見ようとすると、ピント合わせ(調節)をしなければなりません。そのとき、瞳孔は小さくなり(縮瞳)、寄り眼(輻湊)になります。この3つを近見反応といいます。これは脳の高次機能でもあります。常に近くを見ることは眼、ひいては脳に負荷をかけているのです。  
  また、近頃現れてきた言葉に、「スマホ内斜視」、それから「スマホ老眼」というものがあります。1988年、当時3D映像がちょうど出てきた頃ですが、ある子どもが3Dのアニメ映画を観ていたところ、内斜視になってしまった例が報告されています。もともと日本人に内斜視は少なく、むしろ外斜位という、眼が外に向いているほうが多いです。本来眼球は少し外側に向いているので、それは自然なことです。例えば全身麻酔をしたり、お酒に酔ったり、疲れているときも外に向きます。ですので、輻湊をすることで視線を戻しています。つまり近見反応をすること自体、脳に負荷がかかっています。

その状態が長く続くことで、逆に寄り眼が元に戻らなくなってしまうのが、スマホ内斜視です。また、スマホは画面と眼の距離が近いので、大きな角度の外斜位の人は無意識のうちに片目で見ている場合も多いです。テレビでも取り上げられましたが、「隠れ斜視」といわれています。これは頭痛や疲労の原因の一つでもあるので、鍼灸マッサージ師の先生方も、眼の疲れや頭痛などを主訴とする患者さんを治療しても回復が悪い場合は、眼科の受診を促してもらえるとよいですね。  
  それから、近くばかり見ていると、ピント調節が近くに合います。そのピント調節がこり固まってしまうと、今度は遠くを見たときに、手前にピントが合ったままになり、ぼけてしまう。そのうち、調整力そのものが低下して近くも見づらくなってしまう。これがいわゆるスマホ老眼です。  
  また、私は現在、VR(Virtual Reality)の視覚機能への影響を研究しています。これについては医学的な検証がまだほとんど行われていないので、どう影響するのかまだ分かっていません。ただ、今年の研究でVRを使った視機能の変化を見たのですが、いわゆる正常なものには何の変化も起きなかったものの、斜視を持っているものは、20分間VRを見たあとに、外斜視や内斜視に変化していました。ただし、20分程度で元の状態に戻っていました。これからこの技術が普及して数多くの人がVRを使うようになったときに、どうなるのかが懸念されます。

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─近くを見続けることで脳に負担がかかり、それが眼の疲れやさまざまな症状として現れているのですね。
  現在、疲労は自律神経のバランスの崩れであることが分かっていますが、私は神経眼科的なアプローチで、この疲労の研究にも取り組んでいます。

 

つづきは、雑誌「医道の日本2018年3月号」でお読みください。