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触れる 語る シリーズ2 第6回(動画あり)

家本誠一 氏、聞き手:形井秀一氏

『素問』『霊枢』といえば鍼灸にとって最重要古医書であり、原点である。今回のゲストである家本誠一氏は大学医学部在籍中に病理解剖を修めたことから、形態学的に同書を読み、感嘆し、のめり込み、訳書を上梓した。そして、内科医としての臨床で漢方と鍼灸を用いた経験から、鍼灸師に誇りと自覚を持つことを促す。古医書に書かれた「触」についても触れる。

【1日100人の患者を診る】

形井  家本先生が内科医になられ、その後東洋医学を学ぶことになったきっかけは、ご実家が薬屋を営んでいたことに関係がありますか。
家本  薬屋の実家で殺鼠剤を扱っており、それをあるお宅に持っていったら、その家の奥様が自殺に使ってしまいました。薬剤師だった私の父が塩水を飲ませたのですが、薬剤師が医療行為をしたことが問題になったらしいのです。医師なら問題ない行為が薬剤師では問題になる。そんな経験をした父に「お前には医師になってほしい」といわれました。殺鼠剤を飲んだ者に塩水を飲ませるのは『金匱要略』の最後に書いてあります。父は薬学校で教わったのでしょう。実家では漢方薬をたくさん扱っていました。横浜の清水平安堂という薬局の、清水藤太郎さんが漢方薬のことを教えてくださいました。それが東洋医学を学ぶことになったきっかけです。
形井  家本医院で鍼灸を始める前、本格的に漢方を習ったのは龍野一雄先生*1だそうですね。
家本  私が横浜で開業したのは1956(昭和31)年の夏です。その年の8月から東京の本郷にある漢方専門の龍野先生の医院に通って勉強しました。開業して最初の3年ほどは漢方薬を処方していましたが、漢方は効かせるのが非常に難しい。もっとうまい方法はないかと考えたら、鍼灸があるわけです。友だちのところに教えを乞いに行き、井上恵理先生*2をご紹介していただきました。

*1 龍野一雄
1905−1976。東京都生まれ。1932年、慶應義塾大学医学部卒業。1935年、同大医学部講師。訳書に『新撰類聚方』『漢方医学大系』『漢方入門講座』『金匱要略』『傷寒論』など。

*2 井上恵理
1903−1967。栃木県生まれ。1924年、関口泰道に入門。1935年、柳谷素霊の門に入り鍼灸術を開業。1940年、柳谷、岡部素道、竹山晋一郎らと経絡治療法を樹立。

この対談の一部をYouTubeに公開しました。

経絡治療学会の第3部会に入ることができ、入谷の恵理先生のご自宅で本間祥白先生*3、小野文恵先生*4にも教えていただきました。参加者は5、6人でした。
形井  恵理先生、本間先生、文恵先生。すばらしい先生ばかりですね。
家本  鍼灸の先生方のお話を聞いて、私は驚きました。漢方には医学の体系がなく、処方の検索をする技術があるだけです。だから学問ではありません。ところが鍼灸は解剖学、生理学から病因論、病理説、診断、治療、予防と、医学の体系がワンセットそろっている。これはすごいもんだな、と思いました。それから鍼灸にのめり込んでしまいました。
形井  恵理先生のところへはいつ頃から行かれたのですか。
家本  1960(昭和35)年頃だと思います。
形井  1960年は漢方薬のエキス剤が保険点数に入る少し前ですね。
家本  その前は生薬をやっていました。黄連という非常に高価な薬があって、よく使いますが、私の患者さんはお金がないので、お金を取れないんです。毎月損が出るのはよくないので、漢方をやめて鍼灸に転向しました。漢方の先生は鍼灸をやらないし、鍼灸の先生は漢方をやらないから、比較したことがないと思いますが、私は両方やっていたのでよく分かります。鍼灸は非常に有効な技術です。恵理先生のところで出会った柴崎保三先生 *5の勉強会に出かけたとき、マグレイン*6を開発した京都の阪村先生がいらっしゃって、それからマグレインを使うようになりました。貼付するだけでよく効くので、鍼を刺す必要がないわけです。

*3 本間祥白
1904−1962。山形県生まれ。東洋大学卒業後、1939年に柳谷素霊の紹介で井上恵理に弟子入り。古典研究会に参加。東洋鍼灸専門学校講師、東京教育大学古典医学講師。

*4 小野文恵
1903−1997。大分県生まれ。1926年、鉄道事故により左下腿を切断し義足となる。1936年頃から柳谷らと「経絡治療」確立の主要メンバーとなる。古典鍼灸研究会名誉会長。『鍼灸重宝記』の解説書執筆など。

*5 柴崎保三
1897−1988。元軍人。藤堂明保に就いて古代看護を学ぶ。『素問』『霊枢』を、この古代漢語の語源に遡って1語1語を解析。その成果は『鍼灸医学大系黄帝内経素
問・霊枢』25巻として出版された。

*6 マグレイン
貼付型皮膚接触針の商品名。阪村義一(1907−1972)が微弱刺激手法からテープで固定する治療具の有効性に着目。1968年に商品化。日本初の厚生省承認を得て販売開始。


形井  恵理先生もそれほど深く刺しませんね。
家本  浅鍼ですね。私の鍼が効いた第1号は60歳の女性です。腰が痛くて朝起きられないというので、井上先生のように崑崙に浅鍼をしたら、「あら、楽になった」と。鍼を刺したときにスーッと背中のほうに何かが走るような感じがして、痛みが取れたそうです。刺さなくても十分だと分かりました。前立腺がんで大腿骨の骨髄に転移している患者さんは、足を非常に痛がりました。しかし1回鍼を刺したら痛みが取れてしまった。漢方薬には及ばないものすごい効果が鍼にはあります。内科医は「何も内科」だけれども、鍼灸をやっているおかげで「何でもある科」になりました(笑)。医院にはだんだんと痛みの患者さんが集まるようになりました。いちばん多いのは膝の痛みです。
形井  マグレインは1回にいくつくらい貼るのですか。
家本  1袋10個入りで、1袋がだいたい1人分です。膝痛は片方5個、両方で10個です。
形井  家本医院には患者さんが1日100人近く来ていたそうですが、1カ月で延べ2000人。すごい人数ですね。
家本  家内の眼科と私の内科を併設していて、眼科に100人、内科に100人来ていました。朝9時開院ですが、5時頃から患者さんが並び始めます。患者さんが番号札をつくってくださいました。西洋薬は喘息のステロイド、化膿症の抗生物質くらいで、使う薬がありません。ほとんどは鍼灸です。保険請求が大変なので無料でしていました。私が80歳で診療をやめてから、患者さんはあちこちの医院に行ったわけですが、「家本先生のところから来るのはみんな貧乏人ばかりだ」とぼやいたそうです(笑)。ほかのお医者さんが3000円、5000円とるところを、うちは300円、500円ですからね。ともかく安い。それだけでも患者さんが集まる。そして、刺す鍼ではなく、ほとんどマグレインを貼るだけ。よく効きます。こんなに有効な医療技術はないです。

 

 

つづきは、雑誌「医道の日本2018年3月号」でお読みください。