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地域包括ケアシステムの未来を語ろう

大渕修一 氏、聞き手:小川眞悟 氏

2018年4月から施行される新たな介護保険制度で国は、「地域包括ケアシステムの推進」「自立支援・重度化防止に資する質の高い介護サービスの実現」「多様な人材の確保と生産性の向上」「介護サービスの適正化・重点化を通じた制度の安定性・持続可能性の確保」の方針を打ち出した。介護予防のまちづくりを普及・定着させる活動を長年行ってきた東京都健康長寿医療センターの大渕修一氏に、今回の制度改正のポイントと、今後の医療・介護が目指すべき方向性について聞いた。

【出歩けるのに交流しない人が5割】

小川   2006年の介護保険制度改正で介護予防が本格的に導入され、各市町村などに地域包括支援センターが設置されました。大渕先生はその頃から介護予防の分野で活動されていて、本誌でも2006年1月号で介護予防の制度とその仕組みについて、大渕先生にインタビューを行っています。それから12年を経て、また大きく状況が変わってきましたね。その変遷を踏まえて、今回の改正の意義をどうとらえていらっしゃるかをお聞かせください。
大渕   私たちが介護予防を提唱する以前の社会には、高齢者を命の火が尽きる手前のろうそくのようにとらえる見方があったと感じています。「リハビリなんかしても、消えかかっているろうそくをうちわであおいで一時的に火を大きく見せるだけで、高齢者のためにならないんだ」とね。それが2006年の改正以降、地域で活躍されている先生方のご尽力のおかげで、高齢者に対して適切なかかわり方をすると高齢者自身の考え方も変わって元気になる、という確信が地域の人々の間にある程度生まれたのが大きな変化です。  
  これまでは限られた範囲での実験的な施策でしたが、成果が分かったので、これをどう一般に普及させていくかという次の段階に入ったと考えています。そこで今、介護予防に来ない人をどうするかが問題になっています。
小川   それはどういうことでしょうか。

大渕   2011年から、東京都健康長寿医療センターの所在地である東京都板橋区の長期縦断研究を行っています。郵送調査なので、動けない人も対象に含まれているのですが、それでもこの地域に住んでいる人の95%以上が手段的日常生活動作(Instrumental Activities of Daily Living:IADL)に問題ないという結果が出ています。つまり、徒歩やバス・電車で外出できるということです。
  ところが、同じ人たちに、友達や親戚などと週に1回以上交流しているか訊ねると、交流していないという人が50%を超えるんです。
小川   それは大きいですね。多くの人が自力で出歩けるにもかかわらず、人との交流ができていないのですか。
大渕   その結果を見てはっとしたのです。僕は特にリハビリが専門だから、高齢者の皆さんはもともとやりたいことがあって、足腰が衰えたためにそれを諦めているのだと考えてきました。でも、交流がない人が5割ということは、つまり、足腰がしっかりしている必要がない。
小川   外に出て誰かに会う用事がないから。
大渕   ケアマネジャーからよく聞く話ですが、「介護予防をやってみませんか」と誘っても、「いや、そんなのはもういいです」と言う人がいる。離脱理論という社会学の用語があって、社会的なニーズ、役割期待がないと、本人たちはなるべく社会から遠ざかろうとするといっています。引退の理論ですね。今までの介護予防はどちらかというと、引退を遅らせてがんばる人を助けるイメージだけれど、考えてみれば、身体が元気なうちから引退する人もいるわけですよね。これからは、この離脱理論に基づいた介護予防が必要になります。

  つまり必要なのは、行けば「○○さん、来てくれてよかったよ」と言ってもらえて、病気になっても「なんとか治して行かなければ」と思えるような場所。前期高齢者の段階なら、その人に介護予防を教えてあげるよりもむしろ、もっと身体が弱って困っている人たちのために一緒に体操をやって、地域を元気にしてくれないかとお願いする。そういう男気あるいは女気に訴えかけるやり方がいいのではないかと考えます。
小川   活躍できる場所と役割が必要とのことですが、あらためて50%もの人が他人と交流していないという結果に驚きますね。
大渕   僕もここまで多いと思っていませんでした。いわれてみれば、趣味をやっている人がそれをやめると、がたっと落ち込むという話は多いですよね。そこにも何か手を打とうというのが、今回の改正のポイントだと思います。
小川   政府も雇用の延長を打ち出していますが、仮に定年が70歳になったとしても、人生100年時代となったときには、会社や組織から離れて過ごす期間があと30年ありますものね。そのときにどう生きがいを持ってもらうか。
大渕   私たち専門職は、今までは地域の人が活躍できるように、心と身体を元気にするのを目標としてきました。これからは地域づくりの観点を持って、私たちが治療または指導するよりは、地域の人が自分たちで助け合って、専門職が横から支えていくのが理想です。
小川   いざというときには手助けするけれども、基本的に自分たちの力で、心身ともに健全な社会で活躍してもらうということですね。
大渕   そうです。ただし、二次予防の重要性はこれからも全く変わりません。地域の人たちが安心して活躍するためのバックアップ、セーフティーネットとして、専門職による支えが必要なのです。

 

つづきは、雑誌「医道の日本2018年4月号」でお読みください。