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間質性膀胱炎が著効した症例と有用な治療法

片山祐一

【はじめに】

  鍼灸治療は比較的非侵襲的で伝統的な疼痛緩和の治療法でもあり、運動器疾患にのみならず、一部の下部尿路症状(Lower Urinary Tract Symptoms:LUTS)を有する患者への有用性も報告されている。
  LUTSに対する鍼灸治療には次髎、中髎といった仙骨部の刺激点が古くから使用されてきた。これらの刺激点は仙骨排尿中枢にも近く、鍼灸刺激が仙髄排尿中枢へ作用するものと考えられ、脊髄損傷による尿失禁、過活動膀胱、慢性前立腺炎、慢性骨盤痛症候群に対する鍼治療の有効性を示した報告がある。
  そこで本稿は、我々が鍼灸治療を施行し著効した症例のほか、LUTSに有用となり得る治療法に関する文献報告も紹介したい。

【難治性間質性膀胱炎における鍼灸治療】

   難治性間質性膀胱炎における鍼灸治療の代表症例を紹介する。間質性膀胱炎(Interstitial Cystitis:IC)とは、「膀胱痛、膀胱不快感、頻尿などの過知覚膀胱症状を呈し、膀胱内にハンナ病変または拡張術後粘膜出血を認める疾患」と定義される。ハンナ病変とは、正常の毛細血管構造を欠く特有の発赤粘膜である。病理学的には、しばしば上皮が剥離し、粘膜下組織の血管増生と炎症細胞の集簇がみられる。
  ハンナ病変の有無によって、「ハンナ型IC」と「非ハンナ型IC」の2型に分類され、一般的な治療としては、膀胱水圧拡張術などの外科的治療や薬物療法、膀胱内へDMSOなどの注入療法などがある。ハンナ型ICは2015年に厚生労働省指定難病となった。

  ICは頻尿、尿意亢進、尿意切迫感、膀胱痛、会陰痛などの症状を呈する非感染性の器質的膀胱疾患で、重症例では1日30回以上の頻尿と激しい膀胱痛を引き起こし、患者のQOLを著しく障害する。原因は膀胱上皮の透過性亢進、神経性炎症、遺伝的素因、自己免疫反応、アレルギー、微生物感染、膀胱以外の他臓器疾患の関連症状などがある。しかし、いずれも病因として特定されておらず、いまだ根治的な治療法の確立には至っていないので、単一治療のみでは完全に症状を寛解、治癒させることは困難である。したがって、膀胱水圧拡張術の治療効果も一時的なことが多く、症状の再燃を繰り返す症例に対しては、鎮痛効果が長く維持される治療法を併用せざるを得ない。

【代表症例】

【患者情報】
  女性、65歳。

【現病歴】
  X年、頻尿、排尿時痛を自覚し泌尿器科を受診。ハンナ型間質性膀胱炎と診断され、投薬を受けるも症状不変で膀胱水圧拡張術を施行された。術後は症状緩和するも3カ月〜6カ月で症状再燃し、6回の膀胱水圧拡張術を受けていた。
  X+3年、頻尿、膀胱痛の軽減を目的に鍼灸治療を開始した。鍼灸治療開始時の、間質性膀胱炎O’Leary & Sant症状スコア、問題スコアはそれぞれ10点と12点で、痛みのVisual Anologue Scale(VAS)60、最大膀胱容量150㎖、排尿回数17回であった。

【診断名】
  ハンナ型間質性膀胱炎。

【治療内容】
  鍼の刺入部位は次髎、中髎、下髎を用いた。次髎、下髎に長さ50㎜直径0.3㎜のステンレス鍼を、皮膚に対して垂直に約10㎜刺入し、灸頭鍼を行った。中髎には長さ75㎜、直径0.3㎜のステンレス鍼を、正中から5㎝ほど外側に切皮し、正中に向かい骨膜まで刺入したのち、次髎、中髎に3㎐で20分間、患者が痛みを感じない強度の電気刺激を、1週間に1回行った。

【評価方法】
  排尿記録での排尿回数、最大1回排尿量、間質性膀胱炎 O’Leary & Sant症状・問題スコア、膀胱痛をVASで治療4週ごとに評価し、12回後に最終評価を行った。

【結果】
  排尿回数は17回から6回、最大1回排尿量は150㎖から500㎖、間質性膀胱炎O’Leary & Sant症状スコアは10点から0点、O’Leary & Sant問題スコアは12点から0点、痛みのVASは60から0となった。また、初回膀胱水圧拡張術時では膀胱容量が350㎖で潰瘍形成を認めたが、鍼灸治療48カ月後の無麻酔下膀胱容量は420㎖で、膀胱粘膜は正常化し、膀胱のコンプライアンスも改善していた。

【考察】
  治療効果は4週後では変化はみられず、おおむね8週以上の継続治療が必要であった。ハンナ型間質性膀胱炎への鍼灸治療は即効性がないものの、S2〜S4神経付近を標的とした鍼灸刺激が、陰部神経や骨盤神経に何らかの影響を与え、特に病因として神経原性炎症が大きく関与する間質性膀胱炎に対してneuromodulation(神経調節)に類似する効果を発揮し、症状を緩和させる可能性があると考えられた。鍼灸治療は侵襲が少なく外来レベルで行える利点に加え、自験例のように西洋医学的な治療に抵抗する患者に効果を示すことがある。今回の結果より、膀胱水圧拡張術のみでは再発率が比較的高いハンナ型間質性膀胱炎患者において、症状を維持・緩和させる代替法となる可能性が示唆された。

 

つづきは、雑誌「医道の日本2018年5月号」でお読みください。