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アトピー性皮膚炎に対する鍼灸治療
「汗」の問題に着目して

黒川恵子

【はじめに】

アトピー性皮膚炎は、増悪、寛解を繰り返す、そう痒のある湿疹を主病変とする疾患とされているが、多くのアトピー患者が抱えている問題はそれだけではない。便秘や下痢などの消化器症状のほか、不眠、脱毛、自律神経失調によるさまざまな不調(ホットフラッシュ、振戦、多汗、無汗など)、慢性的な疲労、栄養失調、鬱、重篤な場合は白内障、単純ヘルペス、カポジ水痘様発疹症を発症し、最悪の場合は死に至ることも稀ではない。

実は筆者も重度のアトピー当事者であったため、上記に述べたアトピー性皮膚炎に付随するあらゆる不調を、身をもって経験してきた。幸い鍼灸師であったため、皮膚症状や痒み、巷にあふれる怪しげなアトピー治療の情報に迷わされることなく、淡々とアトピー性皮膚炎を改善するためにやるべきことを行うとともに、鍼灸の助けを借りてアトピーを改善することができた。

その経験からいえることは、重症期のアトピー患者が求めていることは、必ずしも痒みの軽減や皮疹の改善だけではない、ということである。

アトピー性皮膚炎に付随するさまざまな不調のためにQOLは低下し、アトピーでない人が当たり前にできることが普通にできず、精神にも異常を来してくる。そのため、鍼灸治療によってアトピー性皮膚炎に付随するさまざまな不調を一つひとつ取り除いていくことが、長期戦になることが多いアトピーとの戦いをサポートする。

今回はそのうち、アトピー患者から頻繁に訴えられる「汗」の問題について考えてみたい。

【汗の原料と汗腺のろ過機能】

汗の原料は血液である。

汗腺には全身に分布するエクリン腺と、腋窩や陰部などに分布するアポクリン腺の2種類がある。エクリン腺の成分は、99%が水、尿素、アンモニア、塩化ナトリウムなど構成され、ほんのわずかであるがカリウム、マグネシウム、亜鉛、鉄、重炭酸イオンなどのミネラルや電解質、さらに乳酸、尿素などの老廃物も含まれている。アポクリン腺にはエクリン汗腺由来の汗と同じ成分に加えてタンパク質、脂質などが含まれている。

汗は汗腺の分泌部で血漿から汗のもとがつくられ、皮膚表面に出るまで導管部で、血漿に含まれたミネラルなどの成分が吸収されることによって、余分な成分が含まれない、99%水分の汗となって表出する。つまり汗腺には、ろ過機能が働いているのである。

この汗腺のろ過機能を使って皮膚は、肝臓や腎臓同様、解毒やろ過の25%を担っている、といわれている。汗腺のろ過機能がしっかり働いていれば99%が水分の汗が出るが、ろ過機能がうまく働いていない汗には、本来であれば体内に残らなければいけないミネラルが含まれている。そのため、汗に課題があるアトピー患者は体温調節が不得意であることが多く、ミネラル欠乏からくる慢性疲労を感じていることもある。

汗に脂肪酸やステロイドなどの脂質が多く含まれていると、汗となって出てきた脂質は酸化が起こって過酸化脂質になり、過酸化脂質が増えると活性酸素が増え、活性酸素がアトピーの炎症を強くする、そんな悪循環に陥っていることもある。アトピー特有の体臭がする場合は、たいていこれに当てはまる。「脂汗(あぶらあせ)」とはよくいったもので、ストレスや緊張など精神的な刺激によりかく汗、自律神経の乱れから起こる変な汗にも、水分以外の成分が多く含まれていることが多い。ベトベトとした粘り気のある汗をかいている、アトピー特有の臭いがする、保湿剤を使っていないのにもかかわらずシャツの襟がすぐに黄色くなると訴えるアトピー患者は、脂質やミネラルが多く含まれている汗をかいていると考えてよいかもしれない。

【汗の役割とアトピーの関係】

汗には大きく分けて、体温調節のための温熱性、驚いたときや緊張したときの精神性、そして辛い物を食べたときなどの味覚性の3種類がある。

主に体温調節のために働いているのはエクリン腺で、身体に200〜500万個ほどあると考えられている。個数に300万個もの個体差があるのは、エクリン腺は妊娠28週頃から生後2年半までの間に完成し、その間の環境によって汗腺の数が変わるためである。近年、乳児湿疹から子どものアトピー性皮膚炎に移行してしまうケースが増加しているのは、この汗腺の発達を妨げる生活環境とライフスタイルが要因の一つとなっているのかもしれない。

また、発汗機能を示す能動汗腺数は日本人で平均230万個、個人差や環境温度で変化するが、アトピー患者の多くは痒みを誘発する汗を嫌い、汗をかかないようにしていることが多いため、平均より能動感染数は少ないと考えられる。さらに重症期のアトピー患者の皮膚は、表皮から皮下組織に至るまで皮膚組織が崩壊していることがあり、構造的に真皮層から皮下組織に位置する汗腺の分泌部が機能していない可能性もある。

こうした汗が果たしている機能を失調しているアトピー患者は、身体にこもっているように感じられる強い熱感や、気温や運動にかかわらずかく変な汗、更年期障害に認められるのと同様のホットフラッシュなどをよく訴える。

また、汗は皮膚の皮脂膜の構成要素となって皮膚の乾燥を防ぎ、皮膚を保護し、外敵の侵入を防ぐ点においても重要である。皮脂膜は「汗」「皮脂」「垢」によって構成され、角質層にたまった水分の蒸発を防ぐことによって皮膚の潤いを保持している。皮膚表皮の常在菌たちも皮膚の生体環境のバランスの保持に関与しているが、皮脂膜は皮膚常在菌たちの餌にもなっている。

 

つづきは、雑誌「医道の日本2018年8月号」でお読みください。