鍼灸雑記

鍼灸雑記

2000年以上前から続く鍼灸医学。その原点とは何か。それを支える理論とは何か。本書は著者がこれまで培ってきた臨床経験と膨大な文献研究をもとに、鍼灸のルーツである中国医学と道教などの中国哲学との関係性を探り、国内外の鍼灸治療を紹介している。第I部では『黄帝内経』『道蔵』など様々な古典で述べられる身体論や養生などを考察。第Ⅱ部では古今東西で展開されてきた鍼灸理論と治療法の代表例について触れた。

ISBN:978-4-7529-9013-0
著者吉元昭治
仕様B5版ハードカバー 301頁 
発行年月2011/08/10
9013-0
定価 本体 5,800円+税
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目次

第Ⅰ部 中国の思想と伝統医学

第1章 『素問』『霊枢』を見直すために
第2章 『素問』『霊枢』を貫く考え
第3章 陰陽と五行
第4章 身体論(整体観)
第5章 養生
第6章 食養
第7章 循環の思想
第8章 分肉の間
第9章 解結
第10章 精気神
第11章 黄庭経

第Ⅱ部 鍼灸療法の理論と実際

第1章 経絡と経穴
第2章 反射理論
第3章 鍼灸に応用できる理論
第4章 鍼灸療法の再検討
第5章 補完・代替医療

ページサンプル

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著者インタビュー

2000年以上もの歴史を持つ鍼灸医学において、その原点と理論について考察した『鍼灸雑記』。膨大な文献研究と豊富な臨床経験をもとに、鍼灸医学理論を長年研究されている著者の吉元昭治先生に、本書の特徴や、執筆までの経緯についてうかがいました。

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巨刺法について、図を描きながら説明する吉元先生

――今回、この『鍼灸雑記』を出版しようと思われたのは、どのようなことがきっかけだったのですか?


吉元 私は昭和3年生まれの83歳です。貝原益軒が『養生訓』を記したのが数えで84歳の時ですから、ほぼ同い年になりました。

 
私は小学生で日中戦争、中学生で太平洋戦争を経験し、戦後は混乱した社会の中で過ごしました。当時は医大生でしたが、寒さと飢えに震えながら鉛筆を握り、机に向かっていたのを覚えています。医師になり開業してからも、その頃は救急診療をやっており、多忙な日々を送っていました。しかし、このままでいいのか、自分は多忙のあまり死んでしまうのではと思うようになったのです。ちょうどその頃、ニクソンの訪中により鍼麻酔が注目されていました。そこから鍼に興味を持ち、中国医学を学ぶようになりました。和痛分娩や陰部麻酔などを自己流で行っていましたね。

 
本書を出版しようと思ったのは、これまで研究してきたことや、鍼灸への想いについてまとめておこうと考えたからです。自分でやらないと誰がやる、今やらないでいつやる!という気持ちがありました。鍼灸の治療には流行がありますが、洗い流され、忘れ去られたものを拾うことで、先人の知恵を借りることができます。

 
2000年の歴史を持つ鍼灸治療は、どこかしきたりのようになってしまっているところもありますが、伝統を守りつつ、しがらみにとらわれないことで、新しい境地を開くことができるのだと思います。

 

 

――先生は道教についても長年研究されていますが、第Ⅰ部では、道教が与えた中国医学への影響についても、深く掘り下げていらっしゃいますね。

 

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養生の世界観を表す図

吉元 鍼灸を始めてから、古典の勉強を進めるうち、内経素問の中に「黄帝昇天」という記述を見つけました。その言葉を見たとき、私は「黄帝が空に昇っていったというのは、仙人になったということではないか?」と考えたのです。道教の行者たちは、仙人になるために修行を積み重ねます。そこで、中国医学と道教はなにか関わりがあるのではないかと気づきました。さらに、道教の教典である「道蔵」を読んでみると、その中には素問、霊枢をはじめ、衍義本草、千金方など、医学にまつわる書が多く含まれていることを知ったのです。私の調査では、「道蔵」(正統道蔵5485巻)のうち、養生についての部分が多く、医学に関わる文献も全体の5.5%あることがわかりました。

  
ところが、「道蔵」の中には傷寒論が含まれていなかったのです。なぜ入っていないのだろう?と疑問に思った私は、朝日カルチャースクールで、大正大学教授・故・吉岡義豊先生が開く、道教に関する講座を聞きに行き、そこで多くのことを学びました。


本書の前書きでも触れていますが、魯迅は「人はしばしば坊主を憎み、尼を憎み、回教徒を憎み、キリスト教徒を憎むが、道士は憎まない。この理屈がわかれば中国のことは大半わかる」と言っています。この言葉からもわかるように、中国を知りたければ道教に関心を持って研究するべきなのです。中国医学をつきつめていくと、必ず道教につき当たりますが、なにか物事を行うには、知識を得て根本を理解しておかないと、行き先を見失ってしまいます。そのため、中国医学を学ぶのであれば、ルーツである道教についてもきちんと学ぶ必要があると思います。木の枝を見ないで根を見るべきです。


道教は時代とともに、一部民間信仰に変わっていきました。殷の時代、巫は占いとともに政治を行い、周の時代には、巫は巫医とも呼ばれ、祭りごとと同時に民間医療を司るようになります。やがて戦国時代頃になると、巫と医は分離し、医は伝統医学と民間療法に分かれていくのです。このことからも、医と道教は、非常にクロースな関係であるのがわかります。

 


――第Ⅱ部では、間中喜雄先生による教えについても書かれています。間中先生との心に残るエピソードなどはありますか?


吉元 間中先生との出会いはMSA(medical society of Acupuncture)に出席したときのことです。それまで鍼は独学で、見よう見まねで始めていたのですが、きちんと勉強したいと思って参加しました。当日会場の受付で、襟の開いたシャツを着たおじさんが「あなた誰? はいはい、こちらへどうぞ」なんて言うわけです。そうして会が始まって、壇上に上がったのはさっきのおじさん。その人こそ、間中先生だったんですよ。熱意を持って鍼灸の未来を語られる姿に、私は虜になってしまいました。


先生が北里大学付属東洋医学総合研究所のチーフになられた際、「いつでも遊びに来なさい」と言われ、ほぼ毎週のように通っていました。鍼の刺し方やテクニックは教わりませんでしたが、鍼灸の医学理論やイオンパンピングの理屈などについて教えていただきました。先生はなによりも融通無碍。新しい西洋医学理論や科学理論を、自家薬籠中のものにされていました。私の一番大きな収穫は、ものの見方や考え方を教えていただいたことです。固定した観念ではなく、そこからなにかを産んで、新しいものを見つけることが大切なのだと教わりました。


お話が上手で、語学も絵画も、書も堪能。あんなに何もかもできる方はなかなかいらっしゃらないですよ。まさにマルチ人間そのものです。すっかり惚れ込んでいましたね。

 

 

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膨大な蔵書を抱える、圧巻の自宅書庫。
医学はもちろん、古典、民俗学、
自然科学、文学、漫画など、ジャンルも幅広い

――第Ⅱ部では、人間工学についても触れられていますね。


吉元 人間工学というものがありますが、本書ではサイバネックス、フラクタル、ホログラム、フィードバック、反射理論、第三並行理論、微小刺激、弱電効果などを取り上げました。鍼灸の教科書にはこれらは書かれていませんね。人間の体は、感情があることを除けば、機械の構造にある程度近いのです。パソコンのキーボードを打って入力することで、画面上に出力されるように、人間の体に鍼を刺すと感覚系(入力系)が刺激され、調節系に伝わり、ついで反応系(出力系)に信号が伝わります。この関係も入力と出力であり、フィードバックされています。真ん中のわからないところはブラックボックスですね。


鍼灸理論は、2000年来のものだけを見ていてはよくないと思います。常に新しいテクノロジーから、新しい理論を生み出していくべきです。たとえば、経絡は本当にあるのでしょうか? 切れたらどうなるのか、まっすぐなのか曲がっているのか、太い細いはあるのか、そのようなことにも疑問を持ち、研究していかなければいけません。私は、経絡は分肉の間にあると思います。分肉の間にあるスポットをつなげていくと経絡になる。こういったことを研究するのに、テクノロジーは不可欠だと思っています。

 

 

――若手の鍼灸師に向けて、メッセージをお願いします。


吉元 「頭は低く、心は広く、目は高く」ということですね。いつも謙虚で正直、素直な気持ちで人の話をよく聞くことが大切だと思います。その一方で、物事を鵜呑みにするのではなく、まずは疑ってかかるという目の高さも必要です。


また、サイドワークは人間性を大きくします。専門バカになってしまっては、人間性が狭くなってしまいますから。趣味でも雑学でも、何でもいいですから、打ちこめるものを持ってほしいと思います。


人間はいつも勉強しているべきです。「温故知新」という言葉がありますが、古いものの中から新しいものを知ることで、新しいものの見方や考え方ができるようになります。


本書にも書いていますが、「局所は全体であり、全体は局所である」ということも忘れてはいけません。我流にわたらず、他の治療もどんどんやってみてほしいですね。

●吉元 昭治(よしもと・しょうじ)


1928年東京神田生まれ。1950年順天堂医学専門学校卒業。1951年より同大学医学部産婦人科に勤務。1963年、東京都小平市に吉元病院(産婦人科、外科)を開業。1977年より吉元医院として現在に至る。『足の反射療法』『まんが漢方入門』(医道の日本社)、『老荘とその周辺』(たにぐち書店)、『不老長寿への旅』(集英社)、など、著書多数。

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