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「柔道整復外傷学ハンドブックシリーズ」編著者インタビュー

柔道整復師を目指す学生はもちろん、治療家にも役立つ外傷学の知識を満載した「柔道整復外傷学ハンドブック」シリーズが、経験豊富な柔道整復師の分担執筆により上梓されました。3月に【総論】が刊行され、現在【上肢の骨折・脱臼】【下肢の骨折・脱臼】を鋭意制作中です。編著者である伊藤譲先生に企画の意図と、柔道整復の教育について聞きました。

●柔道整復外傷学シリーズって?

――シリーズのタイトル「柔道整復外傷学」とはどのような意味ですか。


伊藤 たとえば整形外科学は運動器外傷学を軸に工学、生化学などのさまざまな要素で成り立っています。柔道整復学も、経済学から見た治療効果については柔道整復経済学と呼べますし、社会での役割に関する学問は柔道整復社会医療学と呼べるかと思います。このシリーズは、柔道整復学の根幹をなす外傷学にフォーカスしたので、「柔道整復外傷学」と名付けました。柔道整復師として必要な運動器の外傷学に関する知識を盛り込んでいます。


学生のうちに臨床の現場で活かせる知識をできるだけ多く身につけてほしいと思い、このシリーズを企画しました。なにより、私自身が教員をしながら、また臨床経験のなかで「こんな本があったらいいな」と感じていました。

 

 

――柔道整復師の業務外の内容も記載していますね。


伊藤 柔道整復としての治療は、いうまでもなく非観血的保存療法です。しかし、外傷を治療していく上で、医師との連携は不可欠です。たとえば手術が必要な場合、手術の詳細は知らなくてもなぜ保存療法ではなく手術療法なのか、そして、どのような治療がなされているのかを知らなければ、医師とのコミュニケーションは円滑に行えません。このシリーズに記載する一歩踏み込んだ内容が、臨床では必ず役に立つはずです。

 

(総論の見本ページPDF)

※PDFファイルを開くには、無償で提供されているAdobe Readerが必要です。

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――そのほかの特徴は?


伊藤 このシリーズは読者の自学自習が前提ですから、辞書的にも使えます。そして、整形外科医との連携を重視して用語を吟味しました。さらに、よく遭遇する外傷だけでなく、まれな外傷も可能な限り網羅し、できるだけ詳しく説明しています。


コンパクトなA5判サイズにしたのは、勉強するときにいつも傍らに置いてパッと開けるように。持ち運びに便利な分冊にしたので、「学習の友」になりますよ(笑)。


現在制作中の【上肢の骨折・脱臼】【下肢の骨折・脱臼】は、巻頭カラーページを設けて外傷の外観とX線写真を載せます。治療経験が少ない時期や初めて診る外傷は対応する際に少なからず(かなり)緊張します。あらかじめ、外観の特徴やその画像所見を見ておくことで実際に患者さんに遭遇した時に冷静に対応できるようになれるはずです。

 

 

――本文中にも「画像所見」としてX線写真やCTを載せ、図表も多く用いていますね。


伊藤 インプットした知識をアウトプットする、つまり臨床現場で活きる知識を身につけるには「なぜそうなるのか」を考え、理解することが大切だと考えます。そのために必要な図表を厳選しました。

 

 

――制作で一番苦労した点は?

伊藤 まだ途中ですから、今も毎日苦労しています(笑)。文献の精査と画像集めは大変でした。幸い、執筆陣の先生がたから多くの貴重な画像を提供していただき、充実した内容になりました。

 

 

●自分のための、自分でする学習

――今日は伊藤先生の「整復ケア関節損傷学Ⅱ」の講義を見学させていただきました。外傷性膝蓋骨脱臼の特徴、疾患へのアプローチについて、前半は伊藤先生が説明され、後半は学生同士が班ごとに分かれてディスカッションをしていましたね。


伊藤 今日見ていただいたのは新2年生の講義0510-4.jpgです。彼らには1年生のときから「勉強の主体は自分だ」ということを強く認識してもらう授業スタイルを続けています。こちらが講義をしたあと、班ごとにディスカッションして意見をまとめ、最後に今日学習した疾患の特徴、治療する場合の注意点、治療できるようになるためのこれからの学習課題(これが最も重要)などを用紙に記入して提出してもらいます。記入した用紙は翌週の講義でみんなに配ります。それを見ることによって「ほかの人がどう考えているのか」も知ることができます。

 


学期末に近づけば、各班は与えられたテーマに0510-3.jpgついて仲間に講義をします。すなわち、学生が学生に対して講義をしますので、他人の考えはその際のポイントにもなります。この授業スタイルによって、実際に外傷を治療するために大切なことは何か、治療できるようになるために何を学習する必要があるのか、などを認識します。また、チームで討論する能力が知らず知らずに身につきます。


さらに、同じテーマを学んでも班によって意見が異なることが、学生も教員も認識できます。すなわち、外傷の治療の着眼点に多様性があるということ、拡大して言うならば「人の意見には多様性がある」ということを改めて認識できます。こうしたことの繰り返しによって「最善の治療法」を患者さんと共に、そしてチーム医療の一員として、あるいは治療者仲間(先輩や後輩を含む)と考え、提供できるようになります。

 

――「自学自習」は柔道整復外傷学シリーズの 意図にも通じますね。

 

伊藤 教員による講義内容が学生の頭の中に0510-2.jpg残るかというと、そんなことはない。うるさくしている学生を注意して黙らせたとしても、学生が講義内容を理解するようにはなりません。教育における「学習のピラミッド」(写真右)によると、講義の学習効果は5%だといわれています。読書が10%、視聴覚教材が20%、デモンストレーションでやっと30%、討論で50%、体験で70%、教えることで90%です。これ*は1954年の文献で、ずいぶん前から言われているわけです。

 

教員の一方的な講義がいかに学習効率が悪いか、教員をしていると特に感じます。こちらが「これは大事やで」と言っても、学生はほとんど覚えていない。「あれだけ強調したのに、なんでやねん」と思うわけですよ。でも自分の学生時代を振り返れば、やはり講義内容はあまり覚えていませんからねえ。


学生同士がディスカッションをして、学生が学生に教えるという時間を作ることによって知識を定着させ、学習効率を上げることを具現化したのが今の私の授業スタイルです。その前提になっているのは興味を持たせること。そうすることで学生は自分で学習課題を見つけて自分で解決しようと努力します。いわゆる成人の学習で、学習の動機が自己の興味(関心)です。自己学習するようにすれば、放っておいてもこちらが驚くほどの勉強をしますね。

 

 

――学生にとっては試験にどこが出題されるのかも気になるところです。


伊藤 「試験に出ますか?」という質問はやめなさい、と学生には言ってあります。学生の目標は国家試験に合格することではなく、国家試験に合格して柔道整復師となり患者さんを治療することです。国家試験では当然どんな問題が出るか教えてくれません。常々「勉強の先に患者さんがいる」と言っています。その患者さんも初診では疾患の状態はわかりません。試験問題と患者さんを同等に扱うわけではありませんが、試験問題に対応することは、患者さんに対応することに通ずると言いたいわけです。

 

 

――学校教育において学生の質の低下が問題視されていますが、先生はどう感じますか。


伊藤 私は学生の質が下がったとは思いませんし、もしそうだとしても入学の時点で受け入れているのですから、教員がそれを克服する努力をするべきではないでしょうか。先ほど述べましたが、学生に関心を持たせ、自己学習するように誘導することが理想です。大切なことは「入学時の質」ではなく「卒業時の質」ですから、学生の質が低下しているとするならば「教育の質」や「教員の質」を向上する必要があります。

 

 

――最後に、柔道整復師にとって大切なことを3つ、挙げてください!


伊藤 まず「謙虚」です。患者さんに対して謙虚であること。先輩の教え、同僚のアドバイス、後輩の意見、すべて大切と思い傾聴できることが理想です。治療は驕るとミスが起きます。教育は1人の嘘が100人の嘘になります。治療も教育も、自分が正しいのか常に問いながらやっていくために、謙虚であることが大切です。「オレはすごいことを知ったで! 見たで!」と思うことがあったとしても、それは整形外科の先生にとっては当たり前のことだったりするわけですよ。何千の症例を経験された整形外科医が、あるとき肩関節を整復しながら、ふと「やっぱりゼロポジションやな」ともらすのを聞きました、このゼロポジションとは肩関節脱臼の整復法(ゼロポジション法)ですが、経験が豊富でありながら「これでいいのか」と問い、基本的な方法に気づきをもって日常の臨床をされていることに私は感動しました。自分もそうありたい、と思います。


次に「技術」。テクニックを磨けばいいという意味ではありません。「理論なくして技術なし」だと思うので、理論を追求することを忘れない。理論は後追いでもいいから、テクニックだけに走らない。そういう意味で「技術」が大事です。


3つ目は「金銭感覚」。今、柔道整復師は不正請求問題などで世間の風当たりがきついです。私の考えでは、柔道整復は「ローコストでより良く治す」ことで国民の健康に貢献しなければならないと思っています。柔道整復師は患者さんに感謝され、やりがいのある職業です。医療の一端を担う者としての自覚を常に持つことが大事ではないでしょうか。

 

*National Training Laboratories(NTL) institute for Applied Behavioral Science(USA)より(Dale E. Audio-Visual Methods in Teaching. Dryden Press, NY,1954 を参考にして図示されたもの)

 

伊藤譲(いとう・ゆずる)


了徳寺大学整復医療・トレーナー学科准教授 大阪医科大学非常勤教員
明治鍼灸大学(現明治国際医療大学)卒。明治鍼灸大学大学院(鍼灸学修士)、大阪医科大学大学院(医学博士)修了。はり師・きゅう師、柔道整復師、柔道整復師専科教員。1995年伊藤整形外科リハビリテーション科、98年新協和病院リハビリテーション科勤務。2001年明治鍼灸大学リハビリテーション科学教室助手。02年同大学医療技術短期大学部柔道整復学教室助手。04年同講師。05年同大学保健医療学部基礎柔道整復学教室講師。2008年より現職。日本体力医学会(評議員)、医学教育学会、日本柔道整復接骨医学会(学術大会委員会委員長) 、日本バイオメカニクス学会、日本臨床バイオメカニクス学会などに所属。

 

 

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