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動物の鍼(3)鍼灸学校に通う獣医師 [2010.08.30]

「動物の鍼―第3弾」は現在、日本鍼灸理療専門学校の夜間部専科に通う池田眞三獣医師に話をお聞きしました。池田氏は7年前から鍼をはじめ、漢方、温灸、アロマ調合油などを治療に取り入れながら診療を行っています。左の写真は16歳のモモちゃん。老化で腹這いになったまま歩けなかったのですが、3回の鍼灸治療で歩けるようになり、排泄も自分できるようになりました。その技術も含めて、お話を聞いてきました。

0830-2.jpg――池田先生は獣医師として40年の臨床経験をお持ちですが、いつごろから東洋医学に興味をもたれたのですか?


池田 私は体が弱かったので、20歳代から鍼灸にかよっていたんです。ですから鍼に対する違和感は全くなくて、若い頃より東洋医学的な考え方、概念にとても興味がありました。

 

臨床を長年やってきて、医療の根本について思うことは、体というのはパーフェクトにできていて、自分の免疫力―自己治癒力が高ければ、少し体に異常が出てもやじろベーのように元に戻ることができます。自分の力では治せない状態をいわゆる病気といっているのですが、我々医療人の仕事は患者さんが自分の力で治せるところ(もちろん遺伝的な疾患や事故などは別ですが)までのお手伝いをすることだと思っています(右の写真は神奈川県川崎市にある池田動物病院)。

 

鍼や漢方を取り入れたのは、動物は人よりも自己治癒力が高いこと、そして人を頼らず一人で生きようとする力が強いからです。西洋医学はもちろん強い味方で す。しかし病気ばかり見て人を見なくなっているように思います。東洋医学はその人の全体を見ていく。ですから西洋医学と東洋医学は医療の両輪でなければい けないと考えます。

 

 

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ヘルニアで歩けなかったチャーちゃんは他の病院で手術と言われたが、インターネットで鍼灸治療を行っている池田獣医師を知り来院。鍼治療の気持ちよさに恍惚の表情?

 

 

――鍼灸学校に通われるようになったきっかけはなんですか?


池田 15年前に獣医東洋医学会(現・日本伝統獣医学会)が設立されました。私はそこの鍼灸講座の初級、実践コースで勉強しました。兵頭正義先生(故人・大阪医科大学教授)を始めとするすばらしい先生方が講義をされていましたが、月2回では2年間かよっても不勉強のせいで身につきませんでした。「もうちょっとちゃんとやらなきゃいけないな」と思いながらも、日常の臨床に追われてなかなか東洋医学と向き合うことができませんでした。そしていま、やっと時間をつくることができるようになり、日本鍼灸理療専門学校の夜間部に通い始め、2年半が経ちました。

 

まだ何も変わっていませんが、少なくとも鍼灸学校でないと経穴を全部なんて覚えないですよね。東洋医学の根本思想には非常に感銘しますが、理解していくことは本当に難しいと感じています。それに鍼の刺し方も以前はむやみに打っていましたが、習ってからは、全然変わりました。たまに「響く」と後ろを振り返ってみる犬もいます。猫は皮がかたいので、以前は刺入で苦労していたのですが、おかげさまで今ではなんなく刺入できます。


学校に行ってよかったことは、まず、若い学生さんと机を並べて勉強するぜいたくを味わっていること、また人の体について基礎的なことを時間をかけて学んでいることです。逆に厳しいことは、何しろ健忘症の進行している私としては「試験」が一番つらいですね。

 

 

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慣れた様子でおとなしくで鍼治療を受ける13歳のマロンちゃん。刺入の時はアロマ調合油とともに「気」も入れる


 


――具体的にはどのような治療をなさっているのですか?


池田  私はアロマ調合油と鍼と低出力レーザーを使って治療を行っています。鍼を刺入するときに鍼に神経細胞を活発化させるアロマ調合油を鍼管に1~2滴入れ、刺入します。このアロマ調合油は殺菌力が強いのでアルコールで拭く代わりにもなっています。


アロマ調合油を鍼に塗ることで、刺入箇所周辺の神経細胞が活性化されるので、鍼の効果がより上がるのです。また動物はじっとしていてはくれないので、刺入時に動いてしまってツボの位置が多少はずれても、オイルが周囲に浸透するので効果は変わりません。また置鍼をしておき、そこへ低出力レーザーを照射することにより、筋が緩み相乗効果があります。


人間のお医者さんと違って、獣医師は動物を治すために西洋医学とあらゆるホリスティックな治療手段を駆使できます。ですから治療手段をうまく組み立てて、体が治る条件を整えてあげることが私の治療です。

 

 

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鍼をした後、低出力レーザーを当てるとより効果が上がるという

 

 

――動物は人間と違い嘘をつかないので、鍼や灸が効いたか効かないかははっきりわかると思います。どういった疾患に鍼灸が効果がありますか?また逆にどういった疾患には効果がありませんか。

池田  そうですね。動物にはプラセボが効きません。効果の点では循環器系や内分泌系は難しいと思います。動物も高齢化が進んで、慢性腎不全、変形性関節炎、糖尿病等が増えています。鍼で糖尿病や腎不全を治すのは難しいですが、今まではステロイドや鎮痛剤、消炎剤でしか対応できなかった腰痛症、変形性関節炎、椎間板ヘルニアなどに対し、鍼という有効なアプローチができることは本当に心強いです。脳神経系ならてんかんなどの治療にも使っています。足が立たなかったワンちゃんが歩けるようになったり、てんかんの発作が軽くなったり、とにかく効果がはっきり出るので、飼い主さんも本当に喜んでくれます。しかし、鍼が痛いとたまにワンちゃんに叱られるときもありますが。


鍼灸は副交感神経を優位にする1つの手段として非常に有効です。この鍼灸を疾患をかかえた動物たちのために、そして私自身の老後の楽しみとするために、なにはともあれ今は来年の国家試験に向け精一杯勉強することです。

 

(了)

 

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