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少彦名神社(大阪府):中国神話に出てくる神農が日本でも祀られていた!

古代中国の伝承に登場し、医薬と農耕を司る神とされている「神農(しんのう)」。食養生を説いた『神農本草経』に名が冠されていることから、東洋医学に興味のある方にとっては、馴染みのある名かもしれない。一方、古代中国、しかも伝承の人物ということで、その存在は神秘な謎に包まれてもいる。実は、そんな神農に縁のある場所が、ここ日本にも存在していることをご存知だろうか。今回は、その一部をご紹介する。


※取材は緊急事態宣言発出前に行っています。新型コロナウイルス感染症拡大防止の観点から、各自治体により自粛要請等が行われている可能性があります。おでかけの際には、あらかじめ最新の情報をご確認ください。また、感染拡大の防止に充分ご配慮いただくようお願いいたします。


神農とは
神農は中国神話に登場する三皇の一人で、農耕・医薬・交易の神とされます。最古の本草書『神農本草経』にはその名前が冠されており、鍼灸における「黄帝」に並び、漢方の礎を築いた「神農」は日本でも非常に有名な中国の神です。

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『准南子』には、人々に農耕や薬草の知識を教え、百草の滋味をなめて一日にして七十毒にあったことが記述されています。神農を表す絵や像としてよく描かれるのは、頭に角があり、草木の葉でできた衣を着て、草をなめている姿です。

『周易』には神農が市場を開き人々に交易をさせ、人々は望んだ物を手に入れることができるようになったとあります。また、神農と黄帝は異母兄弟であったともされます。

今回、神農が祀られているという大阪府の少彦名神社(すくなひこなじんじゃ)に行ってきました。少彦名神社を通じてわかったことは、神農がその象徴――農耕・交易・医薬――に基づき、日本文化に根付いているということでした。



道修町――「くすりの町」
少彦名神社は大阪市中央区道修町(どしょうまち)にあります。道修町は江戸時代から薬種問屋が集まる町として知られています。武田薬品工業、田辺三菱製薬、塩野義製薬など多くの大手製薬会社の本社・支社がこの道修町にオフィスを構えています。


少彦名神社
製薬会社のビルが立ち並ぶ隙間といっていい場所に少彦名神社はあります。1780年(安永9年)、薬種中買仲間が京都五条天神社から少彦名命の分霊を勧請し、神農とともに合祀しました。少彦名命は日本古来の薬祖神です。地元では「神農さん」と呼ばれ、親しまれています。

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■詳細情報

・名称:少彦名神社
・住所:〒541-0045 大阪府大阪市中央区道修町2丁目1-8
・地図:


・アクセス:大阪メトロ堺筋線「北浜」駅 6番出口 徒歩5分
・閉門時間:17時(※新型コロナウイルス感染症の拡大の状況により、変更の可能性もあります)
・電話番号:06-6231-6958
・公式サイトURL:http://www.sinnosan.jp/index.html



張子の虎
少彦名神社の入り口には狛犬ではなく、虎のブロンズ像が建てられ、境内には張子の虎が飾られています。これは1822年(文政5年)にコレラが大阪で流行したときに「虎頭殺鬼雄黄圓」(ことうさっきうおうえん)という丸薬と張子の虎をつくり、神前祈願の後に人々に施与したことに由来します。

以来、張子の虎は家内安全・無病息災のお守りとなりました。民衆はコレラのことを「ころり」と呼び「虎狼痢」などと表記していました。


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少彦名神社の周りは道修町ミュージアムストリートとして、くすりの道修町資料館をはじめ、「くすり」関連の資料館などが集まっています(コロナ禍で休館の場合もあるため、事前に要確認)。
https://osaka-chushin.jp/news/31448



香具師に崇められる神農
神農は縁日などで商売をする露天商人である香具師(やし)にも崇められています。江戸時代、香具師は薬を売り、街頭で治療も行っていました。明治になってからは的屋と呼ばれ、親子盃などの儀式では、神農の掛軸が飾られます。現在でもよく使われる「やばい」という言葉も香具師が使う隠語に由来するという説があります。映画『男はつらいよ』シリーズの主人公寅さんの職業でもあります。

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江戸時代の香具師は曲芸をしながら薬などを売っていた(『伝神開手北斎漫画十編』より)



神農祭
少彦名神社では11月22日・11月23日に神農祭が開かれます。元々は薬種中買仲間が主体で行う祭でしたが、香具師の露天商も参加するようになりました。医薬と交易の祖とされる神農らしいつながりです。また、11月23日は新嘗祭と同じ日です。この日に祭が行われるのは神農の農耕の祖としての性格を象徴しているようです。

新嘗祭は、天皇が新穀を供えて、自ら食す宮中の儀式であり、農耕に大きく関連しています。新嘗祭自体も、中国の『礼記』にある「嘗祭(じょうさい)」に由来するといわれています。「嘗祭」は神農にゆかりがあり、「嘗」は百草をな(嘗)めていた神農に通じます。



日本各地に祀られる神農
神農は道修町以外の場所でも祀られています。

・湯島聖堂(〒113-0034 東京都文京区湯島1-4-25)
神農廟があり、毎年11月23日に「神農祭」が行われ、毎年この日に神農像が公開される。

・薬祖神社(大阪府堺市堺区戎之町東2丁1-38)
少彦名命と神農を祀る。毎年11月23日に「薬祖祭」が行われる。

・薬祖神祠(〒604-0855 京都府京都市中京区東玉屋町)
大巳貴命、少彦名命、神農、西洋医学の祖ヒポクラテスが祀られている。ここでは日本、中国、西洋の医祖が祀られている。薬祖神祭を11月に行われる。

・薬祖神社(〒103-0022 東京都中央区日本橋室町2丁目5-8)
日本橋本町は江戸の「くすり」の町で薬種問屋が軒を連ねていた。現在、製薬会社の本社・支社が集まっている。薬祖神祭は毎年10月17日に行われる。かつては11月22日に行われていた。

・石尾神社(〒649-1221日高郡日高町大字志賀字石尾3638)
國常立命、伏義、神農、黄帝が祀られている。7月17日と11月26日に例祭が行われる。


おわりに
今回は神農が祀られている少彦名神社を取り上げました。神農は日本の文化にも根付き、人々は病からの回復を願い、収穫を感謝し、商いの繁盛を祈ってきました。興味のある方は、各地に祀られている神農にお参りするのはいかがでしょうか。

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少彦名神社に貼られていたポスター
お参りする際は三密を避け、マスク着用するなど感染対策を行いましょう



参考文献
・湯浅高之.藤野よし男, 手塚裕文, 他.湯島聖堂「神農祭」と少彦名神社「神農さんのお祭り」の比較の検討.日本歯科医史学会会誌.1992;18:287-295.
・湯浅高之.藤野よし男, 手塚裕文, 他.湯島聖堂に祭祀される神農像について.日本歯科医史学会会誌.1991: 17 : 136-141.
・吉元昭治.日本全国神話伝説の旅.勉誠出版.2008
・第2回 日本橋本町はなぜ「くすりの街」になったのか~ 薬祖神社はくすりの街のシンボル~
https://www.link-j.org/interview/post-246.html
・「神農」『ウィキペディア日本語版』
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%A5%9E%E8%BE%B2


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