1309_img_title.jpg

  • sch_touyoushinkyu.jpg
  • sch_kyoto.jpg
  • sch_morioka.jpg
  • bnr_bodynavi.jpg

130830tit_contents.png

1309-1.jpg

130830tit_1.png

「ゆっくり動く 」は最高の健康法

小林弘幸 順天堂大学医学部教授

「慌ただしい毎日を送りたい」とは、誰もが思ってはいないだろう。できれば、ゆったりと余裕を持って物事に取り組んだり、日々の雑務をこなしたりしたいはず。それでも、時間がないと否が応でも急がざるを得ないというのが、実情ではないだろうか。しかし、順天堂大学医学部教授の小林弘幸氏は「急いで行っても結果的にスピードは落ちて、よいことは一つもない」と言い切る。「ゆっくり」こそが最高の健康法、と強調する小林氏に話をうかがってきた。

神の手は「ゆっくり早く」

─ご著書『「ゆっくり動く」と人生が変わる』(PHP文庫)では「ゆっくり動く」ことの大切さが書かれています。「ゆっくり」に着目するきっかけが何かあったのでしょうか。

小林 30代前半で5年間、イギリスに留学したとき、外科医の教授たちの立ち居振る舞いを観て、「ゆっくり」に目覚めました。みな多忙なはずなのに、問診での話し方はもちろん、診察室でカルテを書くときも、手術をしているときも「ゆっくり」だったんですね。医療の現場では、緊迫する場面も多々ありますが、そんなときも彼らは声を荒げないばかりか、バタバタすることさえもありませんでした。いつでも落ち着いていて、動じないのです。また、仕事だけではなく、紅茶を飲むときも上着を着るときも、ゆっくり動く彼らを観て、その優雅な身のこなし方に憧れたのが、きっかけです。

─しかし、仕事量が膨大だとどうしても急ぐ必要がありそうですが……。

小林 私もかつては、そう思っていました。目の前に積み上げられた仕事をこなそうと、いつもバタバタして、せっかちで落ち着かないタイプだったんですよ。でも、ゆっくり動くイギリスの外科医たちがこなす仕事の量はむしろ多く、またその質も極めて高いものだったのです。
 そこで思い出したのが、恩師が手術中にいつも口にしていた言葉です。それは「そこ、処置しておいて、ゆっくり早くだぞ」というものです。「ゆっくり」なのに「早く」とは矛盾しているようですが、「神の手」を持つといわれる順天堂大学医学部の天野篤教授の手術を観ても、そのことは分かります。手の動きはゆったりしつつ、処置は滑らかに、そして確実に進んでいくのです。下手な人が手術のときに、バタバタしているだけで、無駄な動きが多いのとは対照的です。
 つまり、ゆっくりを意識したほうが、実は結果的に早く動けるということです。これは医師だけではなく、手を動かすすべての仕事にいえることだと思います。また家事や育児における日常生活の作業でも同じことです。特にあせっているときほど、ゆっくりやる。早くやろうと思えば思うほど、失敗してやり直すなどして、トータルとして時間がかかってしまいますからね。最高かつ最速で作業を終えるには、ゆっくりやることが一番なのです。

ゆっくりと呼吸の関係

─ゆっくり動くことが心身に与える影響について教えてください。

小林 ゆっくり動くことで、最も影響を受けるのは「呼吸」です。自律神経は交感神経と副交感神経の2つから構成されていますが、忙しくストレスの多い現代人は交感神経優位になりがちです。その結果、血液循環や臓器の機能が低下し、全身が疲れやすいという人が多いです。そうならないためには、動きを「ゆっくり」にして呼吸を深くして、副交感神経を高めることが重要なのです。
 呼吸法については、腹式呼吸や丹田呼吸などを用いて「ゆっくりと深い呼吸」を健康維持のために取り入れている人も少なくないでしょう。しかし、今こうしている間にも行われている呼吸すべてを、腹式呼吸や丹田呼吸で行うのは至難の業です。それを意図的にやろうと思うと、それ自体がストレスになってしまい、本末転倒の結果になります。だからこそ、普段の呼吸を意識せずともゆっくりと深くさせる、その方法が「ゆっくり動く」ことなのです。
 ゆっくり動くことは、年齢を重ねるにつれ、より大事になってきます。男性は30歳、女性は40歳を境に、副交感神経の働きが下がっていくからです。加齢によって体力の衰えを感じるのは、交感神経優位で、血管が収縮し、血行が悪くなって、筋肉に血液が不足するためです。同様に、脳にも血液が十分にいかなくなるので、歳をとると、決断力や判断力が衰えるのです。これは裏を返せば、副交感神経の働きさえ高めることができれば、いくつになっても、新しい変化にも億劫がることなく、気力が充実した人生を送れるということです。そのために、普段からゆっくり動いて呼吸を深くして、自律神経のバランスを整えることが重要になってくるのです。

 

 

 

つづきは、雑誌「医道の日本2013年9月号」でお読みください。