第63回全日本鍼灸学会学術大会印象記 愛媛大会はどうだった?

会場の雰囲気、サービス、運営などについて
一栁 まず、愛媛大会へのご参加、ご協力いただきありがとうございました。交通アクセスの面でも選択肢が多く「思っていたより通いやすかった」というお声を多数いただきました。お気づきの点などご意見いただければ幸いです。
会場の正面玄関がバス停だったので便利でしたね。JRの駅や空港からも直通バスが接続されているので、迷わずに到着しました。
齋藤 会場のレイアウトがよく考えられており、スムーズに移動することができました。スタッフの笑顔も気持ちよかったです。
長谷川 私もとてもよい会場だったと思います。あれだけの規模の人数を収容できる施設はどの都道府県でも限りがあります。会場の確保が困難な状況のなか、会場が分散することなく開催できたのは、実行委員の先生方、関係諸先生方のご努力の結果だと思いました。
古瀬 会場の配置は分かりやすかったですよね。一般口演の会場の外にもテレビと椅子を設置して入りきれない方も観ることができるなど、細かい配慮が伝わってきました。ポスター発表の会場は通路幅が狭くかなり混み合っていましたが、熱気が感じられる雰囲気で、かえって議論が活発になった面もあると思います。移動の際の路面電車も情緒があり、松山城や道後温泉も楽しめました。
篠原 私は宿泊先のホテルから路面電車で会場に向かったのですが、最新のバリアフリー車両と40年前の車両が走り、古い車両は木の床だったりして、懐かしさと物を大切にしながら現代でもしっかり使っていることに驚きました。どこか鍼灸にも通じるようで、学会が始まる前から愛媛に来てよかったと感じていました。
齋藤 私は医道の日本2012年8月号の特別付録「医道の中四国」を片手に、学会開催前に道後温泉で貴重な「湯ざらしもぐさ」を購入し、学会の昼休みには温泉と、松山を満喫できました。
近藤 業者展示が中央にあったので、移動の合間に気軽に立ち寄れたことがよかったです。
長谷川 業者展示が入口付近にあると、必ず通るので便利でしたね。
中沢 会場についてではないのですが、愛媛県立三島高等学校書道部の「書道パフォーマンス」は感動しました。私は、ゆるキャラの「がくとくん」を誘導したあと、舞台の袖で見ていたのですが、復興支援ソング『花は咲く』の音楽に合わせ、気合いを入れて書き上げ、それを高く持ち上げられたときは、ありがたい気持ちになりました。書かれたものは、福島県に送っていただくことになり、来年の「ふくしま大会」では、それを会場に掲げたいと思っています。
長谷川 運営について一つだけ、学校に身を置く立場の者としては、5月開催は、年度変わりの時期でしたので、一般口演の発表準備などを含め少し慌ただしかったです。
近藤 あと、これは仕方ないことなのですが、同時刻帯に観たい講演が重なりました。大会本部で録画されている講演をどこかで観られるような機会があれば、うれしいなと思います。

大会会頭講演「痛みの不思議〜関連痛を中心に〜」長櫓 巧
齋藤 痛みというと我々鍼灸師の得意分野でありますが、痛みにもさまざまな種類と機序があるということを講演で改めて知ることができました。個人差・環境・年齢などで痛みの感じ方が異なり、「日本人は痛みに弱い」「痛みを予想すれば痛みを感じてしまう」「心理的作用で、痛みを感じる脳領域が興奮すると、痛みが起こる」など興味深かったです。「深部組織ほど起こしやすい関連痛は、鍼灸師にとって最も重要なものではないか」と話されていたのが印象的でした。
長谷川 痛み、特に慢性痛については、鍼灸の療養費の適応も慢性疼痛疾患であることから、鍼灸臨床においては大変重要なテーマですよね。会頭講演で痛みを専門とされる長櫓先生から、関連痛について同じ脊髄レベル以外でも生じる痛みのパターンや体表からアプローチをする鍼灸が内臓や深部の筋などに作用する可能性があることを知り、大変興味深く拝聴をいたしました。痛みの中枢での可塑性は非常に重要であると考えられますが、痛みが時間経過で変化をする現象をふまえて、長櫓先生が「治療をあきらめないこと」と発言されたのが強く印象に残りました。臨床で難治性疼痛に対応するための勇気をいただいた気がしました。

基調講演「伝統的な心と身体の癒し方」山岡傳一郎
中沢
今回一番期待していた講演です。以前、『医道の日本』800号記念特集号に「へき地での鍼灸の活用が医療問題解決への糸口となる」という記事を書かれていたので、いつかは山岡先生のお話を聞きたいと思っていました。  今回の講演では「伝統的な心と身体の癒やし方」という演題名で、心が物欲や名誉欲に束縛されずに自由であることで、真のエネルギーが充実するということで、『恬淡虚無』という言葉を紹介されました。会場となった「ひめぎんホール」から車で5分もかからないところに、漂泊の自由俳人、種田山頭火の終の住処となった「一草庵」が佇んでいます。山頭火は、生き方にも句にも自由を求めていました。山岡先生のご講演では弘法大師を紹介されましたが、案外、虚無となり自由となるのは、山頭火的な生き方なのかもしれないと感じました。『恬淡虚無』という言葉に山頭火を連想します。山頭火は死の1カ月前に「濁れる水のながれつヽ澄む」という句を残しましたが、濁れる水のながるるままに澄んでゆく、そうした文化的背景が愛媛にはあるから、この地で終焉を迎えたのかもしれません。山岡先生と山頭火が結びついたような気がします。
篠原 今回の講演ではユングのお話を拝聴できたことが嬉しかったです。「無意識と身体にアプローチできる」という言葉を聞いて感じたのは、術者と患者さんの間にある相互作用や深層心理、共時性の存在であり、直接患者さんの肌に触り、脈をとり、じっくり時間をかけながら鍼灸で気の去来を感じる臨床の本質的な部分です。  山岡先生率いる愛媛県立中央病院の活動や時系列分析のお話は業界では有名で、私も何度か聞いたことがあります。そのときは証を立てるシステムとしての時系列分析と認識していましたが、実際はもっと深く、患者さんの人生も含めて考えて臨床していることに気がつきました。医療面接など患者さんとのコミュニケーション力がよく話題になりますが、文字のマニュアルとして表現しきれない大切なことを教えてくれる講演でした。

特別講演2「灸の歴史と日本〜足臂十一脈灸経から空海まで〜」小曽戸 洋

齋藤 ワクワク・ゾクゾクしながら拝聴しました。古代はロマン、歴史ある鍼灸もロマン! ですよね。「膿あるものは灸すべからず」と、馬王堆出土の木簡に、すでに化膿性疾患は禁灸ということが書かれていたこと、内経だけでなく外経も存在したこと、肘後備急方や小品方には「病気には灸せよ」と灸メインの内容が記載されていたことなど、資料も多く内容の濃い講演でした。
ただ、ご講演の時間が短いように思われました。文献学では論拠する資料が多く提示されるため、パワーポイントなど、表示するシステムを複数にして行くことが、参加者がより深く理解するうえで、必要だと感じました。馬王堆よりの出土物で『五十二病方』等々については、東方書店より出版されていますので、詳細はそちらを参考にすれば、今回の講演内容の助けとなるはずです。
長谷川 王先生、文献のご紹介をありがとうございます。このご講演を聴いて、鍼と灸は文献学的にも、やる人も勉強方法も異なっていたことが、明確になった気がしました。また、改めて空海が医学に通じて四国に灸が浸透していったことも認識することができました。確かに講演内容のボリュームから、時間は短かったと感じました。
中沢 2200年以上の歴史があるので、60分での講演では時間が足りなかったのでしょうね。私ももっと聞きたい気持ちになりました。「足臂十一脈灸経から空海」までの歴史を振り返ったのですが、それ以降の江戸時代、そして明治初期にいたるまでの歴史も聞きたいと思いました。

座談企画「お灸の魅力〜社会はお灸に何を求めているか〜」形井秀一/田中花木/岸本和可子
長谷川 学会の企画としては、今までになくお灸をテーマにその魅力と社会で求められていることについて座談を行うという新しい取り組みでした。とても外に開かれているテーマです。
齋藤 痛快でしたね。福岡お灸女子会主宰の田中花木さんと、せんねん灸で有名な株式会社セネファの岸本さんと、形井先生による鼎談でしたが、田中さんと岸本 さんの「お灸が大好き」、「お灸が楽しい」との力説に、まず自分自身が愛さなければ、そのよさが伝わらないということを改めて教えられました。また、お灸 のPRに関しては、一般の方は本当に初歩的なことから教えてあげるのがよいということや、田中さんからの「出し惜しみせず、お灸やツボのことをもっと教え てほしい」との意見に目が覚めた思いがしました。
中沢 齋藤先生のおっしゃるとおり、痛快でしたね。一昨年でしょうか、銀座のせんねん灸のショールームにお邪魔したことがありましたが、おしゃれで、よかったで す。女性2人の勢いに押されながら、どのようにまとめるか、苦心されている形井先生の様子がフロアに伝わり、かえってほほえましい雰囲気になったのではな いでしょうか。私の鍼灸院にも女性鍼灸師が2人、女性看護師が1人勤務していますが、彼女たちは「お灸が楽しい。おもしろい」といって、やっています。  また、福島県鍼灸師会では鍼灸女子会があって、女性同士で楽しんで活動しています。きっと女性にとってお灸は、患者さんとの楽しいコミュニケーション ツールの一つなんだと思います。

 

【印象記参加者(五十音順)】
一栁智顕(今大会事務局/こまつ鍼灸院)
王財源(関西医療大学保健医療学部)
近藤崇司(河原医療福祉専門学校学生)
齋藤春香(晴香堂針灸院)
篠原新作(しのはら鍼灸院)
中沢良平(次回実行委員長、福島県鍼灸師会会長)
長谷川賢司(神奈川衛生学園専門学校)
久島達也(帝京平成大学ヒューマンケア学部はり灸学科)
古瀬暢達(大阪府立視覚支援学校)

 

つづきは、雑誌「医道の日本2014年7月号」でお読みください。