超高齢社会の危機的な現状と 地域における医療従事者の役割

独立行政法人 国立長寿医療研究センター 名誉総長 大島伸一氏

半世紀で変貌した日本社会の構造

─大島先生は国立長寿医療研究センターの名誉総長を務められ、超高齢社会の日本の在り方について提言されています。まず、日本が直面する超高齢社会の現状について、教えていただけますか。

大島 内閣府の統計によると、日本の現在の平均寿命は84歳、全人口に対する65歳以上の人口を示す高齢化率は25%で、4人に1人が65歳以上です。日本は世界一の高齢社会です。もう一つ重要な数値は高齢化の速さです。高齢化率が7%から14%になるまでの年数を高齢化のスピードといいますが、これを他国と比べてみましょう。スウェーデンは85年、フランスは115年かかっています。少しずつ高齢化が進んでいるわけです。ところが日本は、1970年から1994年までの24年間で14%に達しました。24年間で高齢化率が一気に倍になったのです。
  さらに、平均寿命が10歳延びる年数を見てみます。これまでの歴史をひもとけば、13世紀に吉田兼好は「徒然草」のなかで「長生きするのは恥だから、40歳までに死ぬのがいい」と書いています。当時は40歳を超えれば長生きの部類で、平均寿命が40歳以下だったと想像しても大きな間違いではないでしょう。16世紀に登場した織田信長は、「人間50年」と唄って舞いました。つまり、13世紀から16世紀の200〜300年間で寿命は10歳延びたと考えられます。それが最近では、1940年代までの日本の平均寿命が50歳で、現在の平均寿命は84歳。200年から300年かけて10年延びた平均寿命が、この半世紀で30年延びたのです。

  そして人口構造がガラッと変わりました。以前の人口構造は底辺となる0歳から10歳の人口が多く、高齢になるほど少なくなっていました。まさにピラミッドの形の人口構造でした。データ集計が始まった当初からその形に変わりはなかったのですが、現在は高齢者が多くなり、底辺となる0歳から10歳が少なく、ピラミッドは崩壊して壺のようないびつな形になりました。
  これらの社会現象は有史以来なかったことです。人口ピラミッドを見ただけでも現在と50年前の社会が同じだとはとてもいえません。それだけの変貌がこの半世紀で起こりました。そして人の生活は、その変貌した社会のなかで営まれているのです。
  高齢者が増え、医療・介護の必要性が増えれば社会保障の問題になる。これは非常に分かりやすい構図ですね。まさに人の生活に直結する問題ですが、あくまでも氷山の一角だという理解が必要です。人の生活の基本は衣食住であり、それらを支えるのがインフラです。電気、ガス、水道、道路、鉄道などすべてのインフラは、これまで1億2800万人の総人口に合わせてつくられてきました。ところが今、人口が急速に減り、さらに全体の利用者数が減るだけでなく、これを中心となって支えてきた人口層が急激に減っています。利用者が少なくなったからといってインフラをなくすわけにもいかず、維持するために必要な財力、人力も危うい。このような問題が、医療・介護の分野だけでなく日本のあらゆるところに噴出していることを、まずはきちんと理解していただきたいと思います。

社会が「高齢者」に仕立て上げる

─大島先生は高齢者という定義も見直す必要があるとおっしゃっていますね。

大島 19世紀末にドイツ帝国の首相だったビスマルクが、社会保障制度を設けるときに65歳以上を高齢者と決めたという説があります。ビスマルクが生きた19世紀を考えると、それは適切な年齢であったといえるでしょう。しかし現在において65歳以上が高齢者、65歳定年制が適切かどうか。まず身体能力の面からいえば、現在の70歳は10年以上前の60歳と同じであることが分かっています。社会的な能力の面では、経験値や論理的思考の積み上げが衰えることがないだけでなく、さらに進化します。歴史を見てみますと、現在のように100歳以上の人が当たり前にいることはなかったにしても、紀元前から90歳以上生きた人はいました。そして、産業革命以前は一次産業が中心でしたから、70歳、80歳、90歳でも生きて動ける間はみんな働いていました。ところが産業革命によって機械化が進み、二次産業が中心になると、一人の労働力で多く人を養えるようになりました。そして55歳、60歳、65歳と、制度によって定年の線が引かれました。さらに定年後5、6年経てばお迎えがきていましたが、今は平均寿命が延びて定年後も人生が20年、30年と続くわけです。つまり、高齢者は制度やシステムを守るために社会がつくり出したもので、働きたい人から仕事を奪っている、ともいえるのです。
  時代が変わればその変化に合わせてシステムも制度も変えていくべきです。しかし今の日本は、定年制だけでなく社会のシステムが経済成長時の効率を優先したままのものであり、高齢社会用に設計されてはいません。非常に危ないときにきていると感じています。

 

つづきは、雑誌「医道の日本2015年3月号」でお読みください。