現場での取り組み 認知症対策における 「擦過鍼の活用」

医道の日本社 編集部

4人に1人が認知症に

  地域包括ケアシステムの構築において重要な要素となるのが、高齢者の認知症への対策である。厚労省研究班の調査によると、65歳以上の高齢者のうち、認知症患者は2012年時点で約462万人にも上り、認知症になる可能性がある軽度認知障害(MCI)の高齢者も約400万人と推計された。実に65歳以上では4人に1人が、認知症を患っていることになる。
  そんななか、(公社)大阪府鍼灸師会は昨年から介護予防鍼灸師登録制度をスタート。認知症患者への擦過鍼法の研修を行い、地域包括ケアシステムで力を発揮するべく「認知症に対応できる鍼灸師」の育成に力を入れている。 制度設立の背景と講習の内容について、奥本憲司氏(大阪府鍼灸師会副会長)と吉村春生氏(大阪府鍼灸師会介護保険担当理事)に話をうかがった。

延べ6000人以上の認知症患者に実践

  認知症対策として擦過鍼法を取り入れたきっかけは、鍼灸院を開業しながらケアマネジャーとして居宅介護支援事業も立ち上げている吉村氏が、2005年の介護予防改正時に東京都健康長寿医療センターで行われた介護予防主任運動指導員の養成講座を受講したことだった。
   「講座のなかで、認知症の周辺症状はストレスから来るというお話があり、それならば小児はりで症状が改善するのではないかと考えました。また、講座には、東京都健康長寿医療センターで自律神経の研究をしている内田さえ先生もいらしたので、研究室にお邪魔したところ『皮膚を摩擦するだけでも脳の血流がよくなるんですよ』と聞いたので、認知症に擦過鍼を活用してみようと思ったのです」

  大阪に戻った吉村氏は、大阪市住吉区の「認知症高齢者グループホーム」で認知症患者への擦過鍼を実践。初めは定員8人のうち6人に週1回行うことからスタートさせたが、「非常に気持ちがよい」「身体が軽くなる」「頭がすっきりする」という感想とともに、表情にもよい変化が現れ、グループホームの定員が増えるごとに施術を希望する人が増えていった。鍼への恐怖感を払拭できる分、導入はスムーズだったという。
  2014年には、21人の利用者に対して毎週1回、昼食後に擦過鍼を約7分間行い、介入以前と以後で表情や介護負担がどのように変わったかを、介護職員10人に調査。現在も26人の利用者に実践しており、2005年4月からの9年間で延べ6141人の認知症を持つ高齢者に擦過鍼を行っている。
  「刺さないので利用者さんは鍼への不安を抱くことなく受けてくれますし、施設の職員も事故の心配がなく、利用者さんからの拒否反応もないので『元気が出るからあなたも受けたら』と積極的に勧めてくれています。部屋に閉じこもりだった利用者さんが擦過鍼をきっかけに、共有スペースへ出てくるようになった事例もあり、職員の人にも『介護がしやすくなった』と喜ばれています」
  こうした認知症への擦過鍼の研修を行い、修了した者を「介護予防鍼灸師」として登録し、認知症の高齢者に同一の施術を行える鍼灸師を数多く育成すれば、地域包括ケアシステムのなかで多職種と連携できるのではないか─。
  そんな思いから、大阪府鍼灸師会は昨年10月から介護予防鍼灸師登録講習会を実施。吉村氏が考案した擦過鍼法をカリキュラムの中心に組み込んだ。

多職種連携を意識したカリキュラム内容

   介護予防鍼灸師登録講習会で行われる科目は「擦過鍼の知識」「擦過鍼の実技」「擦過鍼実技実習」「擦過鍼法の応用」という擦過鍼法についてだけではなく、「介護予防の知識」「ICF(生活機能分類)の知識」「統合医療の知識」「地域包括ケア・地域包括センターについて」「多職種協働・地域との連携の方法」「人権研修」など計10科目。社会福祉士、理学療法士、司法書士と認知症のケアに携われる専門職を講師として招くなど、多職種連携を意識したカリキュラムとなっている。

 

つづきは、雑誌「医道の日本2015年3月号」でお読みください。