耳鳴に対する鍼と 漢方の統合治療 ─接触鍼とフォトタッチメソッド─

三都ブレインクリニック院長  久保重喜 

  筆者のクリニックでは、ほとんどすべての患者に鍼をする。開業して3年半になるが、1日の患者数は40人から50人で、普通の鍼灸院より多いと思う。それでもすべての患者に筆者一人で鍼を行っている。そして、ほとんどすべての患者に漢方を処方している。特に、耳鳴の患者では耳鼻科ですでにたくさんの西洋薬が出されて効かないことが多いので、筆者は好んで漢方を処方する。  
  そこで、本稿では耳鳴を例として、筆者の行っている鍼と漢方の統合治療について述べてみたい。

筆者の鍼の方法

  筆者は主に「服の上からの接触鍼」を行っている。クリニックで医師が鍼をするのはなかなか困難だが、接触鍼を採用することにより、これは可能になった。筆者が目指す鍼は以下の(1)〜(5)を条件としている。それを満たすのが、目下のところ行っている接触鍼である。今も勉強中なので、今後変わる可能性もあることを断って、一つひとつ説明したい。

(1)鍼を期待していない患者にもできること
  当院はクリニックなので、鍼を期待して患者が来るわけではない。一般的にいえば、鍼というと違和感があり、怖がる人も多い。時間が限られているので、鍼の効用をいちいち患者に説明するような悠長なことはできない。だから、患者が全く気づかないうちに、それなりの鍼をする必要がある。そのためには接触鍼が最も適している。

(2)痛みがなくて危険がないこと
  患者が気づかないようにするには、痛みがないことが絶対必要である。たとえ切皮程度の鍼でも、どんな名人がしても痛みはありうる。この条件を満たすものは接触鍼である。当院では幼児、小児も来るが、子どもには接触鍼が明らかによい。  
  また、当院はクリニックなので、必要な医療行為以外の不要なリスクはできるだけ避けたいと思っている。接触鍼だと出血、感染はありえない。

(3)服を脱がなくてもよいこと
  当院では服の上から接触鍼を行っている。鍼を始めた頃、筆者も通常の穿刺鍼を行っていた。次には、接触鍼に興味を持ち、あらゆる機会をとらえて習得に努めた。特に首藤傳明氏の超旋刺に惹かれ、本、ビデオ、学会でのデモを頼りに真似をした。最初は鍼の回転をしていたのだが、しだいに皮膚に当てるだけで気が流れることが分かるようになった。さらには、衣服の上からでも鍼を当てれば気が流れるのが分かるようになった。現在では、衣服の上から撮診してツボを見つけて接触鍼をしている。使用している鍼はセイリンのJタイプ02号(0.12㎜×30㎜)である。  
  服を脱がなくていいので時間がかからず、女性の患者でも問題ない。また、とりわけ鍼をしているのが患者に気づかれないのもよい。

(4)短時間でできて効果があること
  1日に40人以上の患者を診ると、一人に10分程度しか時間が割けない。新患では問診を取ったり、検査をすると20分ぐらいかかるとして、この間で鍼をするとさらに時間を圧縮しなければならない。そこで、服の上から手際よく生きているツボを見つけて、流すように鍼をしている。それでも必要な効果は上っている。

(5)診断にも使えて漢方治療に つながること
  当院ではほとんどすべての患者に漢方を処方している。鍼をやりながら、患者の気の流れを見ていると、一番の問題点が浮かび上がってくる。これを筆者は「証」というふうにとらえているのだが、これが次の漢方診断にとても役に立つ。ことに、あとで述べる「太淵接触鍼」が証を見極めるのに有用と感じている。

具体的診断、治療の手順

  以下に筆者の具体的な診断、治療の手順を述べてみたい。

(1)望診と舌診
  当院は脳外科を標榜しているので、頭から足の先まで神経学的検査を行っている。これは脳神経から始まり、手の反射、足の反射などを診るもので、学校の神経学の講義で習ったことがあるかと思う。神経学的検査に四診を混ぜて「証」を取るようにすると、患者は全く違和感を持たない。  
  脳神経の所見を取るときに、顔の望診をして、のぼせているか、乾燥しているか、口の周りが荒れているか、目が赤いかなどを診る。舌神経の働きを診るときに舌診ができる。舌の所見から、寒熱、乾燥、水毒、胃の状態、瘀血などを大まかに把握している。

(2)脈診
  脈診は腕の反射を診るときに同時に診ている。まず脈に触れた瞬間に、患者の身体全体の印象をつかむようにしている。身体のどこが冷えているか、のぼせているか、どこが痛いかなど、多くの場合に触った瞬間に分かる。脈を診ている間に、問題となる部分が温かくなってくることもしばしばある。  
  いわゆる六部定位の脈診も同時に行っている。臓腑の虚実を診て、脈状も診るよう努めるが、経絡治療の先生方のように細かくは診ていない。診断は脈の所見よりむしろ、このあと行う腹診、太淵接触鍼、フォトタッチメソッドに重点を置いている。  
  耳鳴に関しては、老人の耳鳴では腎虚のことが多くて、ストレス性の耳鳴では肝実のことが多い。むくみの有無も前腕を触って確認できる。むくみがあれば五苓散が効くこともある。  
  また、三焦経の流れが耳鳴に関係することがあるので、特に環指の指輪の有無にも注意している。指輪を長期間つけたままにしていると、三焦経の障害が出て耳鳴の悪化要因になることを経験している。拙著論文を参考にしていただきたい。

(3)足の撮診と接触鍼
  腕の反射を診たあとは、ベッドに横になってもらって、バビンスキー反射など足の反射を診る。このときに同時にズボンの上から足・脚を撮診して経絡の異常を探す。特別のことがない限り、素足になってもらうことはない。腹診のときもそうだが、服の上からでも手が敏感になれば多くのことが分かる。そして、虚しているツボがあればズボンの上から鍼を当てる。筆者は多くの場合は虚しているツボを使っている。特に教科書的な正確な位置は気にしないで、大まかに経絡を意識して、自然に手が止まるところの「生きているツボ」を使っている。
  鍼は刺さないし回転もさせない。ツボが正しければ、鍼を置くだけで瞬間に気が流れる。患者の腰が温かくなることもあれば、腹が温かくなることもある。鼻が通ってくることもあるし、目の前が明るくなることもある。このような患者の感覚を術者のほうが早く察知できるので、患者に「腰が温かくなってきませんか?」と確認しながら行っている。術者に遅れて大概の患者がその感覚が出てきたことを返事してくれる。  
  筆者の鍼は足と脚を使うことが多い。足は寝ている患者から見えないので余計な不安を与えることがない。特に接触鍼では、患者が全く分からないうちに治療と診断が進む。  
  耳鳴のときに特に診るのは、腎経の虚の状態、冷え、肝経の実の状態、足の浮腫みなどである。腎虚の場合、復溜あたりのツボに接触鍼をすると、耳の周りが温かくなって耳鳴がその場で減少することもある。

 

つづきは、雑誌「医道の日本2015年3月号」でお読みください。