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ドライニードルに対する 考察と私の臨床

小田博久 医学博士、薬剤師、鍼灸師

【麻酔のような効果が注目される ドライニードル】

  筆者は1980年、ドイツのハンブルグで行われた世界麻酔学会に出席し、ドイツのフネケ博士による病的焦点(Pathological Focus)療法に実際に接する機会を得た。このとき、さまざまな痛みに対して全く異なる部位に麻酔薬を注射する療法に驚嘆した思い出がある。神経学的に説明されていた関連痛でもなければ投射痛でもない、病的焦点の麻酔により痛みが寛解するということに興味がわいた。
  当時、すでに日本の麻酔科ペインクリニックでは、トリガーポイント(trigger point)と称される部位にプロカイン(procaine)を少量注射することにより筋肉の痛みが寛解することが知られていた。また、胆石疝痛に対して、背部筋に鍼を刺すと痛みが寛解することも分かっていた。しかし、麻酔薬を注入しなくても、まるで濃度の高い麻酔薬を注入したかのように筋肉の痛みを寛解する鍼の使用手技については全く解明されていなかった。
  1985年のペインクリニック学会において、UCLAのRichard Kroening氏の教育講演でトリガーポイントへの興味がさらに高まり、筋肉の痛みに対する麻酔薬を使用しない鍼の手技を深く考察することがあった。そこで筋の拘縮、緊張、神経軸索の絞扼についても臨床的に注目することになった。
  このような麻酔薬、あるいは薬液を注入しない鍼施術のことをドライニードリングという。米国やカナダでは一部の麻酔科医が2010年頃まで細い注射針を用いていた。しかし、注射針は組織を切って挿入するので組織損傷が大きく、組織を押し分けて挿入できる東洋医学の鍼が広く用いられるようになった。
  その利点は、皮膚を貫通する際に鍼管を使用するため鋭い痛みを起こさないこと。鍼先で組織の硬さが分かること。刺入の際、組織を切らないので血管や神経軸索を傷つける機会が少ないことにある。米国や英国では5番から8番鍼が主に用いられ、そのほかのヨーロッパ諸国、特にドイツにおいては10番ないし8番鍼が用いられている。
  太い鍼を使用する理由は、目的とする方向に刺入するためにある程度の太さがなければ難しかったこと、雀啄などの手技の習得が困難であったからである。また、置鍼した鍼に交流を通じる方法は一般的だが、それは電流を通じながら鍼操作をする方法が広まっていなかったからでもある。最近では刺した鍼に小型の機器で数秒間低周波を通電する者も現れている。

  今日では、欧米や中東においてドライニードルが急速に盛んとなっている。日本での情報が少ないのは、日本と交流の多いハワイ州やカリフォルニア州では、医師と鍼灸師以外鍼施術を行うことが法的に認められていないからであると考えられる(現時点において、ハワイ州、カリフォルニア州、ユタ州、アイダホ州、ニューヨーク州、フロリダ州では理学療法士がドライニードルを行うことが認められていない)。理学療法士がドライニードルとして施術している情景があっても、従来からの圧痛点療法にしか見えなかったと推測される。しかし現在では、YouTubeやウェブサイトの言語設定を英語として検索すると多くの情報を得ることができ、しかも日々激増しつつある。

【ドライニードルの施術法と効果】

  施術は硬結、筋索状物、筋拘縮に対して行う。一種のトリガーポイント療法であるが、筋痛や筋拘縮のトリガーポイントと推定される部位は、症状からある程度予想できるので、通常は身体中を万遍なく探すという方法を取らない。推定される筋肉の症状と簡単な触診で対象部位を選択する。筋、あるいは筋腱移行部を対象とするが、一つの筋に多数の鍼を同時に刺す方法ではない。基本的には一つの対象筋に対して一鍼を使用して鍼操作を行う。
  本稿には、日本語以外では入手できない整形外科や麻酔科ペインクリニックの情報をかなり含んでいる。痛みに関する日本の研究、特に東洋医学の知識を応用した臨床技術には優れたものが多いが、言語上の問題があり、広く知られていないものが多いことは残念である。
  このドライニードルは、当初は麻酔科医たちが施術に使用していたが、筋肉の痛みの治療に直面することの多い理学療法士、あるいはカイロプラクターが欧米および中東で徐々に利用し始めた。理学療法士やカイロプラクターは、皮膚を物理的に貫通する医療行為は基本的に許されてはいない。しかし、特例で24時間の講習、あるいは2週間の講習に出席した者が実施可能とする政治的な運動によって、米国各州や英国の理学療法士が鍼を行っているのが現状である。麻酔薬を注入する注射針に代わるものがドライニードルであり、東洋医学理論に基づく鍼施術ではないとすることがそのよって立つ論拠である。この風潮に対する鍼灸師らの反対運動もある(Dry Needling vs. Acupuncture: https://www.youtube.com/watch?v=ygtOBE_qkZ0)。

  現在は単純な鍼刺激が一般的であるが、直流陰極マイクロカレント(12 volt、200μA)、あるいはその断続通電、非常に高い周波数通電、特殊な鍼振動装置を用いることにより顕著な効果を上げることが可能である。例えば、腰痛に対する麻酔科の代表的な手法は硬膜外麻酔である。麻酔はB線維を例外として(Na、Ka チャンネルが多いので、麻酔薬の感受性が高い)、細いⅣ型線維から麻酔される。すなわち、交感神経節後線維と知覚神経までは麻酔されるが、運動神経までは通常麻酔されない。したがって、腰痛が緩和され、外来でも硬膜外麻酔が適用可能である。
  麻酔薬濃度を上げると筋を支配するAαも麻酔できるが、そうすると麻酔が切れるまで歩行できなくなる。つまり、硬膜外麻酔では筋の緊張(拘縮)や硬結(筋索状物)は寛解しない。したがって、硬膜外麻酔施術前、あるいは施術後にドライニードリングなどの鍼施術を組み合わせると、よりよい効果を得ることができる。現在の健康保険制度のなかで、筋拘縮、あるいは筋索状物由来の痛みに対する鍼施術、あるいは特別な通電方法を点数化することができれば、鍼灸師が病院内で働く機会ができると考えられる。

【ドライニードルによる主要刺激部位】

  ドライニードルは筋硬結、筋索状物、圧痛などの反応がある部位に施術する。反応には2種類あり、一つは、tendernessと呼ばれる筋硬結、筋索状物と筋端における圧痛の反応のこと。もう一つは、squeeze painと呼ばれる筋腹の圧搾痛のことである。これらの反応がなければ鍼に対する応答はない。この圧搾痛の診察にあたっては、まず軽く圧搾し、筋線維が硬く感じられる筋硬症(myogelosis)の可能性があれば、さらに圧搾を強めて圧痛を確かめる。

 

 

つづきは、雑誌「医道の日本2015年12月号」でお読みください。