付加価値をつけて、 収益性を大きく高められる可能性を秘めている。 僕は、鍼灸の未来は明るいと思う。

らいおん建築事務所代表取締役、北九州家守舎代表取締役、リノベリング代表取締役、都電家守舎代表取締役、HEAD研究会理事 嶋田洋平氏

聞き手 : 富田秀徳氏(一鍼入魂堂)

患者が来ない、受療率が低い。でも、治療はしたい。この現実に対し、どう立ち向かうか。 「家を建てたくて、建築士になった。なのに、開業してみたら、家を建てる仕事がなかったんです」。こう語るらいおん建築事務所代表取締役の嶋田洋平氏は現在、国と連携して過疎に悩む町の再活性化事業などを行っている。これからの時代を鍼灸師が生き残るためのヒントについて話をうかがった。

【鍼灸業界と建築業界は 同じ問題を抱えている】

富田  今、鍼灸の受療率がどんどん低くなっています。2008年の段階で7%で、随分低いなと思っていたのですが、さらに下がって、今では受療率がたったの4%です。
  この状況に対し、過疎に悩む町の再活性化などに尽力されている一級建築士の嶋田洋平さんからヒントをいただけたらと思います。元気があるとはいえない鍼灸の市場に対し、外部の有識者の方が客観的に見たら、どう映って、どう行動されるのか。例えば僕は2010年に開業したのですが、最初は、本当に電話が鳴らなくて。

嶋田  設計事務所も同じですよ、特に今開業するとなると。なぜかというと、2000年を過ぎた辺りから人口減少の社会になって、土地の価値もほぼ上がらない。つまり、土地が余ってくる、建物が余ってくるという時代に入っています。
  新築の住宅は、1995年に163万戸建っていました。バブルが終わるぐらい、日本中で建物が一番建っていた時代には、社会資本の投資額、つまり道路をつくったり、橋をつくったりといったインフラ整備にも、年間19兆円ぐらいのお金が使われていました。それが今はどんどん減って、僕が開業した2010年には、新築住宅の着工件数は80万戸になっていました。1995年の半分です。新しく建つ建物の戸数だけでなく、床面積も大体2分の1から3分の1くらいになり、社会資本の投資額も同じぐらい下がってきています。

  すなわちマーケットのパイがどんどん縮小しているような状態です。ですので、新しく建物を建てるということを仕事にしようと思っていると、フィールドは半分以下になったといっていいわけです。
  僕は、新しい建物を建てることを仕事にしたいと思って、夢を抱いて大学で勉強していました。大きな建物、美術館を建てたい、家をたくさん建てたいと思っていたのです。建築士は丁稚奉公の世界なので、初任給11万円からがんばっていました。

富田  鍼灸師と同じですね。

嶋田  それで9年間働いて、それなりの腕が身について独立したのが2010年です。前述のとおり、仕事がない、お客さんがいない状態でした。市場の現実を肌で感じ、僕は新しい建物を建てるのはやめようと決めたんです。新しく建物を建て、その設計料としてお金をもらう従来のやり方のままでは、とてもやっていけません。

富田  世の中の変化を受けて、柔軟に対応されることにしたのですね。

【お金のもらい方を変える】

富田  このような変化の著しい時代に、建築士として嶋田さんはどのように対応されているのですか。

嶋田  まず従来の建築士のキャッシュポイントがどこにあるかというと、建物を設計してつくる時点です。つまり、つくった時点でお金をもらって終わり。その建物が空き家になろうがどうなろうが関係ない。
  右肩上がりの時代ならこれでもよかったんです。建てれば使いたい人がどんどん出てくるし、不動産の価値=土地の価値も上がったから。ところが今の時代はそうじゃない。要望通りに建物を建てても、使われない空き家になってしまうリスクが高い。

  先ほど、現状は新築の着工が毎年80万戸のペースに減少したと言いましたが、一方で日本には、すでに建っている住宅が6000万戸あります。それを逆に考えると、①すでに建っている建物を何とかしようというニーズはなくならないなと思いました。②つまり建物を建てる対価としてではなく、建てた建物が生んだ収益のなかから、お金をもらうことを考えました。

富田  厳しい面しか見えない現実からも、見る角度を変えてチャンスを見出すことが大事なのですね。具体的にはどのようなものでしょうか。

嶋田  はい、一つ具体例を紹介しようと思います。目白駅(東京都)徒歩5分の物件が6部屋空いてしまい、困っていたオーナーさんの事例です。目白駅徒歩5分の好立地で空室になっているのだから、普通のことをしても全然駄目なわけです。
  ところがオーナーさんからの依頼自体は「300万円で1部屋デザイナーズ・リノベーションしてください」みたいなものでした。オーナーさんは、空室をリフォームして格好よくしたら、入居者がつくのではないかという希望を持って、僕に相談してきたわけです。
  従来の建築事務所の考え方だと、オーナーさんの依頼どおりに仕事をしてしまうでしょう。しかしこのオーナーさんの発想自体が、右肩上がりだった過去の時代の常識にとらわれたものです。今の時代、お金をかけてリフォームしたところで、その部屋に入居希望者が現れる保障はありません。建築士が低予算で無理してオーナーさんの言う通りの仕事をしても、オーナーさんの抱えている問題が解決されるとは、限らないんです。

 

つづきは、雑誌「医道の日本2016年2月号」でお読みください。