フレイルと鍼灸治療 ─長寿高齢社会における新しい概念: フレイルと鍼灸治療の可能性─

江川雅人

  フレイルとはFrailtyを語源とする新しい医学概念である。2014年、日本老年医学会はFrailtyに対する日本語訳として「フレイル」を呈示した。フレイルの詳細な定義などは他稿を参照いただきたいが、高齢化率25%を超えた超高齢社会を迎えた今日においては、この新たな概念であるフレイルをすべての医療従事者が理解し、それに対する対処法を身につけなければならない。本年6月に札幌で開催された全日本鍼灸学会学術大会でもフレイルがパネルディスカッションの演題に取り上げられ、鍼灸治療の可能性について討論が行われたところである。
  本稿では、フレイルに対する鍼灸治療の可能性について述べることとする。

【フレイルの分類】

1. 身体的フレイル(Physical Frailty)
  骨、筋肉、関節などの機能低下による運動能力の衰退に伴うフレイルのことである。すなわち、変形性関節症や骨粗鬆症、サルコペニア(加齢に伴う筋肉量の減少と筋力低下)は姿勢の変化、歩行障害、バランス機能の低下を招いて転倒しやすい状態となり、身体的フレイルを生じる。運動器の障害により要介護状態になるリスクが高い状態を示す運動器症候群(ロコモティブシンドローム)が身体的フレイルに相当する。

2. 精神・心理的フレイル(Cognitive Frailty)
  中枢神経機能の低下に伴う脆弱化であり、具体的には認知機能の低下や抑うつ状態に陥ることが精神・心理的フレイルに相当する。

3. 社会的フレイル(Social Frailty)
  高齢期におけるパートナーの喪失による独り暮らし、退職に伴う社会的活動からの孤立や経済状況の悪化などは社会的な脆弱化である。これらは高齢者の引きこもりや抑うつなどさまざまな疾患の発症の基となり、社会的フレイルとされる。

【フレイルの定義・判断基準(Linda P. Friedの提唱)】

  Linda P. Friedが2001年に提唱したフレイルの構成要素は、本号の巻頭をご参照いただきたい。そのほかにFriedによって身体的フレイルのスクリーニングとしてFRAIL scaleが開発されている。
  Friedの提唱をはじめとしたフレイルの判断基準やスクリーニング方法が報告されているものの、フレイルの分類を包括した診断基準はいまだに統一されていない。精神・心理的フレイルや社会的フレイルを包括した本邦で用いられるフレイルの診断基準は近年呈示されるであろう。

【フレイル予防】

  高齢者においては低栄養と筋肉量の減少(サルコペニア)を中心としてさまざまな病態が関連し、要支援・要介護状態へと進む。この悪循環を阻止するためには、1つの病態や病状のみに対応するのでは不十分である。例えば、筋肉量の維持を目的として運動療法を行うことは、時に疲労感を強くし、転倒の危険性を高めることにつながる。したがって、高齢者に多くみられる病状(老年症候群)に包括的に対処しながら、疾患発生の予防対策を行うことが重要である。具体的なフレイル予防対策としては、主に次の5つが考えられる。
①運動・バランス療法と同時に行う口腔・嚥下機能の維持向上を含めた栄養指導(療法)
②手洗いやうがい、予防接種の実施といった持病の管理と感染症予防
③レクリエーションへの参加や早期発見と治療といった認知症やうつ病の発生予防
④多疾患併発による多剤内服の見直しや抑制
⑤独居や引きこもり・閉じこもり問題、生きがい喪失問題、経済問題への対策
  フレイル予防の実践例として、介護予防事業の効果が報告されている。介護予防に参加した305人の高齢者と、この参加者にマッチングさせた305人の比較対照群について、1年間で発生した要介護認定の割合を比較したところ、介護予防に参加した群では25人(8.2%)であったのに対して、対照群では55人(18.0%)であった。すなわち、各自治体で行われている介護予防事業は、要介護状態への移行を防止する効果があり、フレイル予防として効果があるものと考えられる。

【フレイル予防における鍼灸治療】

1. 鍼灸治療の臨床における フレイル予防の意義
  フレイルは高齢者全体にかかわる問題であり、身体的問題だけでなく、精神・心理的問題もその原因となり、さらには各々の症状がフレイルサイクルに示されるように相互に関連して要支援・要介護状態へと進んでいく。

 

つづきは、雑誌「医道の日本2016年8月号」でお読みください。