脈診を臨床にいかに活かすか

樋口陽一、大上勝行(司会)、飯田孝道

  脈診を用いて、どのように身体の状態をとらえて、どう配穴に結びつけて、どんな鍼を打つのか――。流派や研究会によって、その方法はさまざまである。そこで、経絡治療学会の大上勝行氏、古典鍼灸研究会の樋口陽一氏、人迎脈医会の飯田孝道氏に集まってもらい、理論や実践における共通点や相違点を踏まえながら、臨床への脈診の活かし方について話し合ってもらった。

【どの部位で脈を診るか】

大上  脈診法が異なる3人で集まり、脈診の重要性や、それを実感した症例、また習得するための訓練法について意見交換するのが、今回の座談会の目的です。まずは、それぞれのバックボーンから話すことにしましょう。
  私は25年前に愛媛県の池田政一先生に師事して、7年間の修行を積んだあと、地元の徳島県で開業しました。治療法は経絡治療で、経絡治療学会の夏期大学や徳島部会・阪神部会の講師を務めています。経絡治療では、左右の寸口・関上・尺中の強弱を診る六部定位脈診によって経絡の虚実を診て、六十九難で選穴を行います。しかし、虚実以外に寒熱・表裏・気血・元気を診る祖脈診や、脈状診も重要だととらえています。これらの脈診を組み込むことで、六十九難以外の選穴や、手技の選択についても模索し、さらに発展させたいと考えております。
  樋口先生が古典鍼灸研究会に入られたのはいつ頃ですか。
樋口  1979年に入会して、それ以来ずっと古典鍼灸研究会で活動しています。古典鍼灸研究会は1年間の長期講習会を受けないと正会員になれないのですが、私はそのときに井上雅文先生の講義を受けました。井上先生が人迎気口診を講習会で講義したのはそのときが最初だったので幸運でしたね。入会当時は、脈診のことを全然知らなくて、古典鍼灸研究会で初めて学びました。

  古典鍼灸研究会では、六部定位診と人迎気口診を行います。人迎気口診では、左手の関前一部である「人迎」と、右手の関前一部である「気口」に指を当てて、それぞれの脈状と左右差を診ます。人迎には外因が、気口には内因が反映されていると考えます。
  六部定位診だけでは五行穴のすべてを使えないので、井上先生が「五行穴すべてを使える方法はないだろうか」と考え抜いた結果、現在の形になりました。虚労、労倦、風熱といった患者の病態像を推測したうえで、それを五行穴のツボにつなげる治療法を行っています。
大上  六部定位を診る点では経絡治療と同じですが、外感内傷といった病因を入れ込むために、人迎気口も合わせて診ているのですね。
  飯田先生は、小椋道益先生に学んだ人迎脈口診を臨床に取り入れていますが、きっかけは何だったのでしょうか。
飯田  大学時代に中国に行って鍼灸医学の存在を知り、帰国後に大学で中国医学史を学びました。大学卒業後に小椋先生を紹介されて、そのまま弟子入りしたのが、1977年です。私も樋口先生と同じく、初めは脈診について、何も知りませんでした。よく分からないうちに人迎脈口診を最初に学び、そのまま続けています。
  小椋先生が『素問』『霊枢』に特化して研究して生み出したのが、人迎脈口診です。小椋先生はよく「君たちは幸せだ。僕の一番いいところを持っていけるのだから。昔の弟子はかわいそうだ」と言っていました。私が弟子入りしたのは、小椋先生にとって晩年の時期にあたり、人迎脈口診の理論はすでに構築されていました。
  方法は、頚動脈にある「人迎部」と橈骨動脈にある「脈口部」を比較して、どちらがどれくらい大きいかを判定することで、脈の陰陽のバランスを診ます。その陰陽を十二経絡に分類して、経絡の変動を診ていきます(表1)。六部定位診と比較すると、人迎脈口診はいたってシンプルです。脈診を習得するにあたっての入門編だといえるのではないでしょうか。

大上  人迎脈口診では、頚動脈と脈口の大きさを比較するのですね。頚部人迎の脈を診るのは、ほかの脈診にはない、大きな特徴だと思います。

【どのように取穴していくか】

大上  脈診の方法はそれぞれですが、脈からどんな情報を得て、それをどのように臨床に活かしていますか。
樋口  人迎気口診では、二十四脈を八祖脈の浮・沈・遅・数・虚・実・滑・濇の8つで表して診ていきます。気口と人迎がそれぞれ浮いたり沈んだり、強かったり弱かったりしますし、全体が虚脈か、実脈かを全部合わせると、32種類になります。
  六部定位の場合は、例えば腎虚なら腎経を取りますが、人迎気口診はさらに内外傷(病因・病証)を診て、腎経の中でも外傷ならば井穴を、内傷ならば合穴を取ります。つまり、脈状から来る病証も判断していくということです。
大上  32種類の脈状にある「風」「湿」「虚労」などは、病理を表す言葉ですよね。脈状と人迎気口によって病理と病因を区別して、それを選穴に転化するのですね。
樋口  そういうことです。基本的には五行思想と外邪内傷の状態を結びつけて、五行穴を使います。また、脈と症状がどの程度一致しているかによって、「順」「やや順」「やや逆」「全く違う逆」と、4段階に分けています。

 

つづきは、雑誌「医道の日本2016年9月号」でお読みください。