六部定位脈診と脈状診を用いた鍼灸治療

宮下宗三

  脈診にはさまざまな種類があるが、新医協東京支部鍼灸部会では、六部定位脈診と脈状診による東洋医学的診断を行っている。六部定位診は左右の寸口、関上、尺中の六部位を経脈にそれぞれ配当し、その強弱(虚実)を比較し、治療において対象となる経脈を診断する方法である。六部定位診についての当会の見解は、日本伝統鍼灸学会(2002年)の「日本伝統鍼灸学会用語解説集(案)」の定義や、一般的な経絡治療とほぼ同様である。
  また、脈状診については、橈骨動脈の寸から尺部にかけての動脈全体を観察する方法を採用しており、主に陰陽病証の把握のために行っている。
  効果的な治療をするためには、優れた刺鍼や施灸の技術も必要だが、それと同じく、どこへどういった治療を行えばよいかを診断によって導き出さなければならない。脈診はその要となる。経絡治療では、脈診によって全体的な経脈の虚実のバランスを把握し、それに基づいて証を立て、証によって治療対象となる経絡を選択し、補瀉を行う。これを本治法と呼んでいるが、選経から選穴まで完全にマニュアル化されているというわけである。つまり、脈診さえできれば、あとはそれに従って補瀉を行えば全体のバランスを調えることができるので、さまざまな症状に対応ができ、これが脈診の最大の利点ともいえる。
  ただ、六部定位脈診や脈状診は身につけるまでに大変苦労することが多く、初学者が途中で挫折してしまうという事例も多いのではないだろうか。また、六部定位診からの本治法があまりにもマニュアル化・汎用化されすぎてしまい、患者の病証を個別に分析して治療を行うという部分がやや弱い面もある。
  当会では、初学者が挫折することなく六部定位脈診を身につけられるよう、独自の指導法を持ち、30年あまりの間に多くの鍼灸師を教育してきた。また、脈状診やほかの診断法によるさまざまな愁訴に対しての病証分析についても研究中である。今回は以下に初学者でも比較的簡単に脈診を身につけられる方法と、脈状診から得られる陰陽病証を治療にどのように応用していくかを紹介する。



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【簡単な六部の比較と証の立て方】

1. 簡単な左右の比較の仕方
  一般的な経絡治療における証立ての方法だが、六部定位診によって相生関係で並ぶ2つの虚を見つけ出し、その子を主として証を立てることが多いようである※1。例えば、腎(水)・肝(木)と相生関係で虚が並ぶ場合は、五行論的に子である肝を主とし、肝虚証にするということである。
  六部定位脈診はこのように臨床応用されているわけだが、実際に六部をそれぞれ個別に比較するのは初学者にとって難しいため、当会では簡単な方法として左右同位での虚実の比較のみで、脈の全体像を導き出すことにしている。
  この方法が簡単である理由は、同位である右寸と左寸、右関と左関、右尺と左尺はそれぞれ相剋関係で並んでいるので、通常は虚と実ではっきりと分かれており、脈の強弱が比較しやすいからである。そして、同位の寸関尺の3回の比較のみで、初心者でも必ず左右で3カ所ずつ虚実が定められる。
  また、指尖に感じる脈の強弱の比較は、次のような方法で行っている。まず、左右の同位に指を置き、徐々に垂直に圧を加えていく。すると、圧を加えていくに従って指尖に脈動を感じ始める。そのままさらに深く押していくと、骨に達するあたりで脈動が消失する。脈動の消失は左右同時に発生せず、虚しているほうから先に消える。そのため、先に消えたほうを虚とする。具体的な手順を例示すると以下のようになる。
  (1)手順1
  右寸と左寸の比較、指を徐々に沈めていき、脈動が先に消失したほうを虚とし、逆側を実とする。この例では右の寸の脈動が先に消失したので、右寸を虚とし、左寸を実とする。

 

※1    注1)本間祥白『誰にもわかる鍼灸経絡治療講話』、山下詢『経絡治療のための鍼灸治療総論』、首藤傳明『経絡治療のすすめ』、経絡治療学会編纂『日本鍼灸医学(経絡治療・基礎編)』では、いずれも六部定位診によって相生関係で並ぶ2つの虚を見つけ出し、その子を主として証を立てる方式と取っている。

 

つづきは、雑誌「医道の日本2016年9月号」でお読みください。



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