我が国におけるあん摩マッサージ指圧、鍼灸、 その他の手技療法の受療状況に関する調査 (前編)

矢野忠、安野富美子、藤井亮輔、鍋田智之

【Ⅰ 背 景 】

  超高齢社会、人口減少時代を迎えた我が国の疾病構造は、大きく変容した。それは、生活習慣病や退行性病変に起因する高齢者疾患が著しく増加したこと、これに加えて“こころの病”やストレス病に代表されるように社会との不適応による疾患や病態が増えたことによる。また、平均寿命は延びたものの健康寿命は期待されたほど伸延せず、両者の差である不健康な期間はむしろ長くなっていることが指摘されている。
  こうした医療や社会の状況を反映してか、国民の健康増進、予防、癒しに対する意識は高まっている。なかでもサプリメントと同様に手軽な手技による癒し・リラクゼーションなどへの関心が高まっており、それらを提供する施設や店舗が増えていることから、総務省も癒し・リラクゼーションなどを「リラクゼーション業(手技によるもの)」として『日本標準産業分類』(第13回改定版)の「7893」に加えた。
  一方、リラクゼーション業と競合すると思われる鍼灸マッサージ業界の状況をみると、特に就業はり師・きゅう師および鍼灸を行う施術所が年々増加しているにもかかわらず、鍼灸療法の年間受療率の推移は減少傾向を示し、5%台にまで低下したと報告されている。
  国民の健康や予防への関心が高くなった近年、日本の伝統医療である鍼灸療法の受療率が下がるのはなぜか、である。その要因については、報告者らは鍼灸師養成の過多による需給関係の悪化、鍼灸師の質の低下、鍼灸療法の認知度の低さなどの要因を挙げて説明してきた。しかし、それらの要因だけでは説明しきれない要因が存在すると考え、それを明らかにすることが鍼灸療法の需要喚起につながるものと想定した。

【Ⅱ 調査研究の目的】

  筆者らは、鍼灸療法の受療状況について長年調査してきたが、それ以外の療法については検討してこなかった。そのため、鍼灸療法以外の各種療法や受療場所などの受療状況などについては不明であった。
  そこで本調査では、あん摩マッサージ指圧療法、鍼灸療法、カイロプラクティック・整体、その他の手技療法(足裏マッサージ、クイックマッサージ、手もみ療法、タイ式マッサージ、アロママッサージ)の受療場所、受療回数、受療目的について調査し、比較検討することによって各療法の特色および鍼灸療法の問題点を浮かび上がらせることができるのではないかと考えた。すなわち、多種多様な手技療法が並存する社会において、国民は各種療法をどのようにとらえ、利用しているのかを明らかにすることによって鍼灸療法の問題点と課題を浮き彫りにし、受療喚起のストラテジー(strategy:戦略)を立てることが適切と考え、その基礎資料を得ることを目的とした。

【Ⅲ 対象と調査方法】

1. 対象

  全国の20歳以上99歳までの男女4,000人を対象とした。

2. サンプルデザインと実施調査期間

  住宅地図データベースを用いた層化3段無作為抽出法(エリア・サンプリング法)を採用した。手順については、要点のみを記す[詳細は医道の日本 2015; 74(8): 210-211.を参照]。

1)層化
  全国の市町村を県または市を単位に12ブロックに分類した。12ブロックは、①北海道、②東北、③関東、④京浜、⑤甲信越、⑥北陸、⑦東海、⑧近畿、⑨阪神、⑩中国、⑪四国、⑫九州とした。次いで各ブロック内において、さらに市郡規模によって分類(21大都市、その他の市、郡部)し、層化した。

  このように層化し、標本数の配分を各ブロック、市郡規模別の層における20歳以上人口(2014年4月1日現在住民基本台帳値)の大きさにより4,000の標本を比例配分した。

2)調査の実施期間
  調査員による個別面接聴取法により2015年11月7日〜11月16日の間に実施した。

3. 調査項目

  調査項目は、①属性(性別、年齢、職業、学歴、地域)、②各種療法のこの1カ月間の受療の有無、③各療法別の施術場所、④各療法別の1カ月間の治療回数、⑤各療法別の治療目的、とした。

1)調査対象とした療法
  調査対象とした療法は、①あん摩・マッサージ・指圧、②鍼灸療法、③カイロプラクティック・整体、④その他の療法(足裏マッサージ、クイックマッサージ、手もみ療法、タイ式マッサージ、アロママッサージ)で、4つに分類して調査した。

2)受療場所(施術所や施設など)
  受療場所は、①あん摩・マッサージ・指圧治療院、②鍼灸治療院、③鍼灸マッサージ治療院、④鍼灸接骨院(接骨鍼灸院)、⑤接骨院(柔道接骨院)、⑥カイロプラクティック・整体の看板のある施設、⑦その他の療法(足裏マッサージ、クイックマッサージ、手もみ療法、タイ式マッサージ、アロママッサージ、以降はその他の療法で表記)、⑧自宅、⑨その他(自記記載)、⑩分からない、の10項目とし、回答者には受療した施術所や施設、店舗に掲げてある看板などにより判断してもらった。

 

つづきは、雑誌「医道の日本2016年9月号」でお読みください。