鍼によるDLPFC分賦活治療(3) 症例編②

松本岐子

  「鍼によるDLPFC賦活治療」も今回が3回目となる。第1回の原稿では、脳の「背外側前頭前野皮質」(dorsolateral prefrontal cortex:DLPFC)についての解説を行い、痛みの回路の抑制を行っているというDLPFCの働きを踏まえて、古典を紐解きながら、DLPFCを活性化する鍼治療について説明した。DLPFCの治療には、頭臨泣・目窓・正営の3つの経穴を用いる。そのとらえ方は第1回(2016年7月号)、第2回(同年8月号)を参考にしていただきたい。今回は、鍼によるDLPFC賦活治療を行った、脳血管障害後遺症、胸痛や腰痛の症例を紹介する。
  鍼はセイリンの0.2番鍼(15㎜もしくは30㎜)を用いて、流注に向かって30°の斜刺を行う。

症例⑨脳血管障害後遺症
【患者】
  64歳、男性。
【病歴】
  8年前、脳出血。頭部には、左脳から血の塊を取るため、右膀胱経、胆経にかけ30㎝のU字形の手術痕がある。チタニウムプラスチックでカバーしているそうで、「決して頭の右側には触らないでくれ」と患者が言うので、「OK」と私。
  右脳を手術したためか、無表情の顔貌。
【主訴】
  左肩から大腸経の臂臑辺りまでの痛み、左鼡径部の痛み、腰痛がある。下肢は膀胱経に沿って痛みが出ている。運動障害あり。
【治療】
  左外関からDLPFCの治療で、まず鼡径部痛の80%が消失。腕の痛み、腰痛は30%消失。下肢の膀胱経は変化なし。

【経過】
  実は、この症例は、私の患者の父親で、車で4時間かかる所に住んでいるため、次の来院は雪解け後になるはず。だが、私の患者によると、1回の治療以来、鼡径部の痛みは全く戻ってこない。腕の痛み、腰痛も30%減少して以来、悪化はない。雪解けで、次回の治療が楽しみ。春よ来い! 
  鼡径部の痛みについては、大腸がん手術後の後遺症の患者も1回で痛みが半減したので、自信を持った。

症例⑩腰痛
【患者】
  58歳、男性。
【既往歴】
  左肩を10年前に痛め、医者からは手術を勧められたが、ずっと我慢しながらカイロプラクティック、物理療法、鍼(TCM)、マッサージ……いろいろ試してみたが効果がなく、3カ月前に手術に踏み切った。
  しかし、術後3カ月経った今も肩の痛みは変化なし。外科医は「手術は大成功」と言った。外科医に勧められたのが、Physical Therapy(理学療法)とのこと。現在、PTに週2回通っている。
  腰痛が起きたとき、この外科医が「鍼を試してみたら?」とアドバイスしたという。  「腰痛のため、鍼を試してみようと思う」と、PTに言ったら、「肩には触らないでください」と言われたため、「肩は無視して、腰痛の治療だけやってくれ」と来院。
  術後1週間、痛み止めを服薬。それ以外は、服薬はない。
【主訴】
  3週間前より腰痛。
【所見】
  触診すると仙腸関節両側に圧痛がある。腹診での所見は特にない。左斜角筋に圧痛が強い。左肩髃下の肺経上のツボ、肩尖に圧痛が強い。「肩には一切触れません」と私。然谷に圧痛はなし。

【治療】
  左外関とDLPFCの治療を始めて、置鍼10分。肩尖の圧痛が消失。「肩、何もしていませんけど、ちょっと動かしてください」「痛くない。なんで?」。慢性は肩で、腰は新しい。肩に効果あり。思った通りである。
  仙腸関節の痛みをとるため、陽陵泉と肩2穴(肩甲骨の上側と下側から曲垣に向けて刺鍼。図参照)に置鍼。足底の厥のツボ、太陽点(2004年4月号p.93「宗気考5」参照)に鍼と灸。立ち上がって、左肩をぐるぐる回す。「何ともない」とのこと。
【経過】
  3回で腰痛も消失した。

症例⑪腰痛、左足胆経上の痛みと足の甲の痛み
【患者】
  60歳、男性。
【病歴】
  15年前、L5−S1の椎間板ヘルニアの手術。「当時はひどい痛みだった」と振り返った。術後は鈍痛に変化。ここ3、4年、鈍痛が悪化して、足の甲の痛みが出てきた。「15年前は痛くて、寝込んだ。あのときに比べたら、歩けるし、仕事もできる」と言う。
【所見】
  腹診すると、左大巨と水分に圧痛がある。内心、「これは効くぞ」と確信した。「以前、185㎝の身長が今は181㎝で、4㎝身長が縮んだ。椎間板が水分を失って背が縮んだんだ」と、患者が言う。
【治療】
  左外関に置鍼。左頭臨泣から目窓に向けて斜刺し、頭皮下に1.5㎝ほど刺入する。続けて、正営も承霊に向けて直刺。これで足の甲の痛みは半減した。20分置鍼した後、腰痛は60%減った。

 

つづきは、雑誌「医道の日本2016年9月号」でお読みください。