千里の道も 一人から! 鍼灸受療率アップ大作戦

●「初めて患者」DATA ●
N.Yさん、37歳・SE勤務。165cm、64kg。趣味はランニングで、足の疲れが気になっている。
また、夜によく足がつる。鍼を受けたことはないが、マッサージや整体は月2回ほど受けている。

●治療院名・施術者名●
ひらく鍼灸整骨院・今田開久(こんた・ひらく)氏

 

第1回 「ツボにあたると痛い」と思っていたNさんの場合

  鍼灸治療の受療率の低下が叫ばれて久しい。業団もさまざまな対策を行うなか、自分たちも誌面で何かできないだろうか―。編集部で話し合った結果、鍼灸をまだ受けたことがない人に、編集部が同行して実際に体験してもらおうという企画が持ち上がった。
  まずは、自分の足場から、できることをコツコツとやっていく。このSNS全盛期の時代に、とんでもなく地道な方法だが、少なくとも「鍼灸を受けたことがない人」を確実に減らすことはできる。また、鍼を受けたことがない人が鍼灸にどんなイメージを持ち、それが治療を通じてどう変わっていくかを誌面で伝えることは、鍼灸を広めるうえできっと参考になるはずだ。さらに、初診の患者への対応の仕方についても得るものがあるだろう。
  かくして「鍼灸受療率アップ大作戦」を実施することにした。888号を迎えた今号から、900号(2018年9月号)に向けて、13回にわたってお届けする。
  なお、治療院は、対象者の住んでいる地域や、抱えている愁訴、鍼灸の抵抗感への強さ、そして本人の希望を優先して、適宜、対象者と相談しながら決めた。また、誌面上に記載された個人情報はすべて本人の承諾を得て掲載している。

【電車内でつぶやいた一言】

  待ち合わせ時間の19時に新宿西口改札へ行くと、会社帰りのサラリーマンでごった返すなか、今回の「初めて患者」である、Nさんの姿があった。Nさんとは出身が同じ宝塚で、高校の同級生である。事前に、今回の企画についてメールすると「鍼って痛いんじゃないの?」という返事だったが、「鍼特有の感覚はあるけど、基本的には痛みはないよ」と説明すると、受診することを決意してくれた。
   一緒に向かう先は、Nさんが通える範囲にある、京王線つつじヶ丘駅の「ひらく鍼灸整骨院」。道中の電車内で、鍼灸のイメージを聞いた。
  「鍼は、とにかく痛いというイメージが強いな。あと効果がよく分からんやん。鍼を刺すだけで何がどうよくなるのか。だって、鍼を刺して抜くだけでしょ。マッサージだと、筋肉がほぐれるのが分かるけど……。あとツボにあたったら痛い、って聞いたことはあるけど」
  灸については「熱い」という印象があるものの、「鍼のほうが嫌なイメージ」とのこと。鍼を受けて何か嫌な思いをしたわけでもないのに、すでにネガティブである。ちなみに鍼灸師のイメージを聞くと「ムキムキの体育会系の人」というやや意外な答えが返ってきた。Nさんは高校時代に陸上部だったので、スポーツ疾患を扱う印象が強いのかもしれない。
   Nさんの主訴はランニング後、足の疲れが1~2日と続くこと。Nさんとは昨年一緒にマラソン大会に出たこともあるが、大会に向けてハードに走り込んでいたのが、印象的だった。
  ふと、黙り込んだNさん。降りる駅に着くと、こうつぶやいた。

「結構、緊張してるわ……」

  初めての人にとって、鍼はそれほど心理的な負担を与えるものなのか。よく考えれば無理もないのだが、私も医道の日本社に入社して15年目。鍼灸と馴染みのない人の感覚が、すでに分からなくなってしまっているらしい。
   はたして、同級生に鍼を気に入ってもらえるだろうか。なんだか私まで緊張してきた。

 

つづきは、雑誌「医道の日本2017年9月号」でお読みください。