灸の臨床テクニックと症例(動画近日公開予定)

鈴木幸次郎/五味哲也

臨床と症例(1)透熱灸による「押灸」の実際
天心堂鍼灸治療院院長 鈴木幸次郎(すずき・こうじろう)

【はじめに】

近頃の鍼灸治療院は透熱灸をあまり積極的に行わないという。私で三代目となる我が治療院では、灸といえば先代・先々代と透熱灸しか行っていなかった。具体的にはどのように行っていたのか紹介したいと思う。

【祖父と医道の日本】

私の祖父・鈴木啓民(すずきけいみん)(1906年4月~1997年3月)は、自分の病気の治療は西洋医学では限界があり、主治医より柳谷素霊先生を紹介された。素霊先生は脈診のあとに「この病気は長くかかるから、学院に生徒として入学すれば治療代が安く浮く」と説得され、この道に入った。素霊先生とは師弟関係であったが、同い年ということもありよく行動を共にしたという。1938年頃には素霊先生らと『蓬松』という機関誌を発行していた。これが後の『医道の日本』である。このような縁もあり、今回の執筆依頼を受けさせていただくこととなった。

【押灸(おしぎゅう)とは】

『医道の日本』創刊500号記念特集の「圧痛点による診断と治療及び指頭感覚」に祖父・啓民が「圧痛点の利用とその今昔」の題で寄稿している。

「昭和十三年頃、現住所に鍼灸治療院を開業した頃の当地は各家庭に伝わる風習がそのまま継承されていた。その風習の中に、病気になった時は患部とその付近を押してみてもっとも痛みの激しい処にお灸をすえると云うのがあった。この灸を押灸と称し広く行われていた。患者が吾々鍼灸家を訪れるまでにはかなり自分で押灸をして、いよいよ癒らない時初めてたずねてくるのであった」

これは原稿の冒頭部分であるが、この「押灸」を我が家では来院する患者さんに必ず行っていた。一般的には「押灸」というと、木綿の布やタオルを折り重ね、その上に紙を敷いて艾巻(棒灸)の燃焼部分を押し当てる灸法だが、江戸期の資料を拝見すると次の①〜③のように「阿是穴」に施灸することを「押灸」や「推灸」としていた。

①岡本一抱『灸法口訣指南』1685(貞享2)年
俗説論第十八:「本朝ノ世俗ニ推灸ノ一法アリ。潜ニ按ズルニ古典ニ所謂阿是ノ穴。天應ノ穴ト云者皆今ノ推灸ノ義也」

本書では「押灸」を「推灸」と表記し、読み仮名を「ヲシヤキ」としている。

②岡本一抱『鍼灸抜粋大成』1698(元禄11)年
阿是ノ穴法:「千金ニ云ク呉國蜀國ヲ往來スル者、多ク阿是ノ一法ヲ以テ灸ス、若病發スルハ他人ニ由テ己ガ病苦スル處ヲ推シメ、快ヨク應ユル處アレバ、灸穴ノ分寸ニ拘ラズ、其應ユル處ニ灸スルヲ阿是ノ穴ト云、鍼灸トモニ皆験アリト、経筋篇ニ云ハク痛ヲ以テ輸トス、馬氏ガ注ニ俗ニ天應ノ穴ト云 誠ニ今ノ推灸ノ法其理アリ」

ここでも「推灸」としてあるが、読み仮名を「ヲシヤイト」としている。

③岡本一抱『鍼灸阿是要穴』1703(元禄16)年
「~前略~蓋身體ノ中イヅコニテモ阿ク推テ是處ヲ以テ灸刺スルガ故ニ阿是ト云者也按スルニ阿是ハ本朝ニ所謂ヲシヤキ也」

ここでは「ヲシヤキ」と漢字を使わずにカタカナで表記してある。

 

つづきは、雑誌「医道の日本2018年12月号」でお読みください。
本誌では、症例と臨床の手順も詳しく紹介しています。

動画を近日公開予定です。

臨床と症例(2)がん患者への「ネパール棒灸+ビワの葉」
自然堂はりきゅう院院長 五味哲也(ごみ・てつや)

【はじめに】

「ネパール棒灸」は、ネパールで長年活動していた畑美奈栄氏が考案した、棒灸を使った灸法である。寒い国で育まれた灸法だからだろう。ネパール棒灸では、一般のものより太い棒灸を使用する。
私は、このネパール棒灸にビワの葉を組み合わせて、治療を行っている。通常のビワの葉灸では、押し当てると火が消えてしまうため、3本の棒灸を交換しながら行わなければならない。だが、ネパール棒灸であれば、1本で十分である。

また、手指で押圧していくことで熱をより深く浸透させるのが、いわゆるほかの棒灸の使い方との相違点だといえるだろう。

【灸に対しての考え方】

灸については、各患者の状態や、その時々の状況で使い分けをしている。
具体的には、「寒邪」「湿邪」に対して灸でアプローチすることもあれば、免疫や代謝を高めるために灸を行うこともある。対症療法的にゴマ粒大の灸を行うのもよいだろう。また、知熱灸ならば、補的にも瀉的にも行うことができる。そのほか、循環を促進させて、自律神経を調整するには、督脈上の円筒灸がよい。

また、私は訪問鍼灸を行っているが、訪問の現場では煙を出せない。その際は、無煙灸を使用している。鍼が苦手な患者にも灸は最適である。
このように状況を見ながら、灸治療を行っているが、私は、鍼の補助療法として、灸を使用することが多い。

しかし、時に灸がメインとなることがある。その一つががんの治療である。癌患者へのネパール棒灸とビワの葉のコンビ治療は、患者の免疫力を上げることができると実感している。その手順については、『医道の日本2018年12月号』p46、p47を参照いただくとして、症例を紹介したい。

【症例】

●患者
Aさん、女性、60代。

●初診
X年6月25日。

●依頼の経緯
私がかつてお世話になったBさんからの紹介で、次のような依頼があった。

「私の大好きなAさん(Bさんからすれば義姉にあたる)が末期の子宮体がんになり、余命1カ月の宣告を受けた。卵巣の原発部分を切ったがあくまで出血予防のためで、播種が腹膜からこぼれており、腸との接着部分は、はがせなかった(漿液性がん)。あと1週間遅かったら、手術はしなかった。播種は腹膜にすぐに溜まるので、苦しくなるはず。腹水を抜いたが2日後には元に戻る。抜くと楽になるが栄養が豊かな液なので衰弱してしまう。難治性癌、つまり、進行性が早いがんであり、手の施しようがなく、<ホスピスに入る手続きをしましょう>と医師に言われた」

 

つづきは、雑誌「医道の日本2018年12月号」でお読みください。
本誌では、症例と臨床の手順も詳しく紹介しています。

動画を近日公開予定です。

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