三療(あはき)の実態および
認知の諸要因に関する調査研究(前編)

矢野 忠 安野富美子 藤井亮輔 鍋田智之

【Ⅰ.背景】

先行研究で行ったあん摩マッサージ指圧療法(以下、あマ指療法)、鍼灸療法の受療目的の調査では、主としてあマ指療法は治療と疲労回復に、鍼灸療法は治療に用いられていた。一方、カイロプラクティック(以下、カイロ)や整体術は治療、疲労回復、健康維持・増進に、手もみなどの手技を用いて心身の緊張を弛緩させるための施術を行うリラクゼーション業は疲労回復とリラクゼーション・癒しに用いられていた1)2)。これらの調査から浮かび上がってきたことは、あマ指療法と鍼灸療法は主として症状や疾患の治療に利用されているのに対して、カイロプラクティックや整体術は幅広く、リラクゼーション業は主として健康維持・増進、癒しに利用されていることであった。利用者側からみると、鍼は「治療に」、あマ指・カイロ・整体術は「治療または健康に」、リラクゼーションは「健康に」として映るようである。

無資格者が行っているリラクゼーション業の利用状況を、ボディケアとリフレクソロジーの売り上げを指標に検討してみる。図1(※医道の日本2019年1月号P190参照)で示すように、2016年の売上高は1,093億円、同じく2017年は1,104億円と推定されている3)。ここ数年は成長の鈍化がみられるものの、確実に成長していることが分かる。また表1(※医道の日本2019年1月号P191参照)に示すように、調査年は異なるものの、ボディケアからヨガまでの市場規模を単純に合計すると、1兆4,279億円と大きい4)。このようにリラクゼーション業の市場規模は大きく、成長傾向にあることからいえば、現在はさらに大きな市場規模になっている可能性がある。


1)  矢野忠, 安野富美子, 藤井亮輔, 鍋田智之. 我が国におけるあん摩マッサージ指圧、鍼灸、その他の手技療法の受療状況に関する調査(前編). 医道の日本 2016; 75(9): 96-101.

2)  矢野忠, 安野富美子, 藤井亮輔, 鍋田智之. 我が国におけるあん摩マッサージ指圧、鍼灸、その他の手技療法の受療状況に関する調査(後編). 医道の日本 2016; 75(10): 108-11.

3)  矢野経済研究所. ボテイケア・リフレクソロジー市場の概況と予測. 2017年7月16日プレスリリース. https://www.yano.co.jp/press-release/show/press_id/1707

4)地方経済総合研究所. 成長に伴い業界の確立が求められるリラクゼーションビジネス〜リラクゼーションビジネスの現状と課題〜. Kumamoto地方経済情報 2014; 29: 12-7.

そもそも我が国の伝統医療である三療(あん摩マッサージ指圧、はり、きゅうの3つの療法。文中では“あはき”とも表記)は、症状や疾病の治療だけでなく、予防、健康維持・増進、癒しやリラクゼーションまでの広範囲の医療スペクトルをカバーする多機能的な療法である。なかでも伝統医療は「未病治」を最高の医療行動目標と位置づけている。この理念に立てば、「健康・予防」を重視すべきであるが、現状は医療としての「治療」に偏っている。その結果、「健康・予防」はリラクゼーション業に取って替わられた。総務省はこの現状を踏まえて2014年にリラクゼーション業を日本標準産業分類に追加するに至った5)

このように三療が主として「治療」に利用されている状況は、受療対象者を限定することになり、そのことが受療率の低迷、あるいは減少の主要因となっていると筆者らは考えている。また、三療の施術が接骨院やカイロプラクティック、整体術の施術所やリラクゼーションの店舗でも行われており、受療場所の拡散が三療そのものの存在意義と専門性をあいまいなものにしている可能性もある1)2)。加えて、鍼灸の医療機関内での禁止(混合診療)、マッサージの名称が保険収載項目からなくなったことや*1、あはき療法の厳しい広告制限などの諸要因も三療の認知と正しい理解の広がりを阻害している要因ではないかと考えている。


*1  1981年6月の診療報酬点数表改正時に、「マッサージ等の手技による療法」が「処置」の独立項目から削除され「消炎鎮痛処置」に移された。それまでの「5部位制」から一律30点になり、その後の全国病院理学療法協会などの運動により、1983年に35点に引き上げられたものの、現在まで据え置かれたままである。保険点数上の扱いが不利となったことから、病院の従事者数におけるあん摩マッサージ指圧師の数は、1990年の7040人から、直近の報告〈厚生労働省「平成28年(2016)医療施設(動態)調査・病院報告の概況」〉では1388人(常勤換算)まで減少している。


1)  矢野忠, 安野富美子, 藤井亮輔, 鍋田智之. 我が国におけるあん摩マッサージ指圧、鍼灸、その他の手技療法の受療状況に関する調査(前編). 医道の日本 2016; 75(9): 96-101.

2)  矢野忠, 安野富美子, 藤井亮輔, 鍋田智之. 我が国におけるあん摩マッサージ指圧、鍼灸、その他の手技療法の受療状況に関する調査(後編). 医道の日本 2016; 75(10): 108-11.

5)   総務省. 日本標準産業分類. http://www.soumu.go.jp/toukei_toukatsu/index/seido/sangyo/index.htm

【Ⅱ.目的】

背景で述べたように、さまざまな要因により三療の受療率および認知が広まらないものと思われるが、実態は不明である。先行調査6)7)では、鍼灸療法の認知について一部調査されたものの、あマ指を含んだ三療については行われていない。

そこで本調査研究は、三療の受療状況および三療に対する国民の認知状況の実態について調査し、受療率の改善を図るとともに、認知の拡大を図る方策と、三療の今後の方向性を検討するうえでの基礎資料に資することを目的として実施した。

【Ⅲ.方法】

1.対象と調査方法
1)対象
全国の20歳以上99歳までの男女4,000人を対象とした。

2)サンプルデザインと調査法
住宅地図データベースを用いた層化3段無作為抽出法(エリア・サンプリング法)を採用した。サンプリング法については、本誌2016年9月号「我が国におけるあん摩マッサージ指圧、鍼灸、その他の手技療法の受療状況に関する調査(前編)」に詳細を記してあるので1)、ここでは省略する。

調査は調査員による個別面接聴取法とし、2017年11月3日〜11月13日の間に実施した。具体的には、調査対象とした人が不在の場合、在宅しているときに再度訪問して直接、調査をお願いすることとし、不在の対象には最低3回訪問したうえで、どうしても依頼ができない場合に調査不能と判断した。

訪問した世帯での対象者の選定の状況、協力依頼できたかどうか、できない場合の理由などすべての対象について名簿用の所定欄に具体的に記入した。


1)  矢野忠, 安野富美子, 藤井亮輔, 鍋田智之. 我が国におけるあん摩マッサージ指圧、鍼灸、その他の手技療法の受療状況に関する調査(前編). 医道の日本 2016; 75(9): 96-101.

6)  矢野忠, 石崎直人, 川喜田健司, 他. 国民に広く鍼灸医療を利用してもらうためには今、鍼灸界は何をしなければならないのか─ 鍼灸医療に関するアンケート調査からの一考察─ その6 鍼灸医療の認知度. 医道の日本 2006; 65(5): 129-33.

7)  矢野忠, 安野富美子, 藤井亮輔, 鍋田智之, 石崎直人. 我が国における鍼灸療法の受療状況について─ 主として年間受療率、一施術所当たりの月間受療者数、認知状況、知る機会・媒体について─. 医道の日本 2014; 73(9): 131-42.

 

つづきは、雑誌「医道の日本2019年1月号」でお読みください。

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