医療連携の現場から
東海大学医学部付属病院東洋医学科

鍼灸師が活躍する医療機関を取材し、連携の様子を紹介するとともに、現場の医師や他の医療スタッフから鍼灸師へのメッセージをお届けする本連載。今回は東海大学医学部付属病院(神奈川県伊勢原市)を訪ねた。本誌2015年5月号巻頭企画「医療機関と鍼灸」に、同病院(以下、付属病院)および分院である東海大学医学部付属大磯病院(以下、大磯病院)の取材レポートを掲載している。院内での鍼灸をめぐる状況は前回の取材時点から大きく変わり、今まさに転換期にあるといえる。東洋医学科の代表である専門診療学系漢方医学教授の新井信氏と、1989年入職のベテラン鍼灸師・髙士将典氏に、大学病院および医学部教育における漢方と鍼灸の現状を語ってもらった。

【東洋医学科の診療室を設置 医師が鍼灸の適応を判断】

東海大学医学部に「専門診療学系漢方医学」の講座が開設された2015年当時、付属病院の東洋医学科外来は神経内科や脳外科が設置されている「第5診療センター」という診療組織の1ブースを借りて運営しており、鍼灸もそこの救急処置用ベッドで行っていた。2017年、新井信氏が准教授から教授となったのを機に、同年10月には病院の組織改編で診療室を移転。4階の一角に、東洋医学科としての独立した待合室と、漢方と鍼灸それぞれの診察室が設けられた。

付属病院と大磯病院の鍼灸外来を非常勤で兼務していた髙士将典氏は2018年4月から付属病院の常勤となり、現在は月曜から土曜の毎日(土曜は午前中のみ)、鍼灸外来を一人で切り盛りしている。それに伴い、大磯病院鍼灸治療室は週に半日だけ再診の患者を診る移行期間を経て、同年9月に閉鎖した。

2018年4月から12月まで9カ月の間に、神経内科、リハビリテーション科、整形外科、脳神経外科、消化器内科などから東洋医学科へ鍼灸治療の依頼があった。2018年9月の鍼灸外来患者数は延べ約220人で、同年10月以降はテレビの影響*1 からか、患者が鍼灸を希望して主治医に相談し、東洋医学科に送られるケースが増えているという。大磯病院の鍼灸外来では西洋医学各診療科の東洋医学が専門でない医師からの依頼のため、患者本人の希望による受療が多かったが、付属病院では東洋医学科の漢方専門医が診察して、鍼灸の適応かどうかを判断している。

髙士氏は「埼玉医科大学(本誌2018年3月号)や東邦大学(同8月号)と同様に研修制度をつくり、鍼灸師になった人が臨床を学ぶ場にしたい。大磯病院時代に丹澤章八、山下九三夫の両氏から受け継いだ教育のノウハウがあります」と語る。「そのために院内で鍼灸の理解者を増やすのが一つの課題」と新井氏が続けた。

【他科の医師への説明に漢方・鍼灸の用語は使わない】

Q.医師たちの信頼を得るために何をすべきか。

新井   医師と鍼灸師の関係をどうするかというゴールから逆算すれば、何をしたらいいかが分かります。医師と鍼灸師が対等に話をすることを目標にするのであれば、鍼灸師は解剖だけではなく、医師と同レベルで西洋医学の体系的な知識を学ぶ必要があります。そうでない現実的なゴールは、医師との連携、役割分担ですね。そのために、鍼灸師は誤解のない言語で話すことが求められます。


*1  NHK 総合テレビ「東洋医学 ホントのチカラ~科学で迫る 鍼灸・漢方薬・ヨガ」(2018 年9月24日放送)

新井   例えば、患者の脈を診て「肝がおかしい」なんて不用意に言うと、患者は「肝臓が悪い」と言われたと受け止めてしまいかねません。西洋医学の医師からは、治せる、治せない以前に、その鍼灸師は「認識が違う」「話が通じない」とみなされ、相手にされなくなります。そういう言葉一つにしても共通した認識を持って連携するのが常となっています。

髙士   鍼灸師と漢方医が話すときに、漢方の専門用語を使うのは問題ありません。ただ、そのほかの場面では通訳になったつもりで、相手が理解できる言語に置き換えて話します。新井先生が中心となって、婦人科、耳鼻科、消化器内科などいろいろな教室で「漢方ネットワークミーティング」という漢方の勉強会を開催していますが、私もそこで発表するときは西洋医学の言語で、「解剖学的にはこの部位に鍼を打つ」と説明します。

新井   「自分が鍼を打っているのはこういうツボだ」とか、専門外の人に理解できない細かな説明は、省略してもよいと思います。それよりも、臨床で実際にどれだけ効くのかが、西洋医学の医師からみて興味のあるところです。鍼灸師の側から臨床データをしっかりと見せて、治療の有効性を客観的に説明していくことが必要になります。

私自身はコテコテの漢方を勉強してきて、以前は仲間と一緒に「漢方の臨床」に症例報告を連載してきました。でも外に向けてはすべて西洋医学の言語に翻訳して説明します。日本東洋医学会でも、会員に西洋医学の医師が多いので、漢方専門医だけと話すのとは違ってかなり言葉を選びます。日本の医療システムが西洋医学を中心に動いている以上、医師側に「東洋医学へ歩み寄れ」と求めるのは難しいですね。大学病院のなかでは、それよりもさらに意識して、考え方やアプローチを一段と西洋医学寄りにシフトさせています。

 

つづきは、雑誌「医道の日本2019年2月号」でお読みください。

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