関係者が明かす受領委任制度導入の舞台裏

中村 聡 氏(司会)・往田和章 氏・小谷田作夫 氏・逢坂 忠 氏

2019年1月1日からついに、あん摩マッサージ指圧、はり、きゅう(あはき)の療養費に受領委任制度が導入された。これまでの制度と比べてどのような変化があり、現場の施術者にどんな影響があるのか。長年、あはきの保険取り扱いについて厚生労働省に働きかけを行い、2012年から全20回にわたって開催された療養費検討専門委員会にも施術者代表として参加してきた業界4団体の現担当者に集まってもらい、語ってもらった。検討委員会の主な論点、それを踏まえて制度を利用する施術家が留意すべき点、業界団体の方針、業団体に参加していない人が制度について知る方法など、今後の事業の参考としてもらいたい。

【厚労省通知に施術者の役割を明記】

中村   今回の受領委任制度導入の話はそもそもどこから始まったのか、背景を探ってみました。1987年4月に、全国的に政府の管掌保険、組合保険、共済保険において、「民法上の代理受領」が始まりました。その後、2000年に「鍼灸マッサージを考える国会議員の会」が結成され、翌2001年に全日本鍼灸マッサージ師会(全鍼師会)、日本鍼灸師会(日鍼会)、日本あん摩マッサージ指圧師会(日マ会)、日本盲人会連合(日盲連)の4団体が鍼灸マッサージ保険推進協議会を立ち上げています。その保険推進協議会を国への働きかけの窓口として、4団体が直接、厚生労働省に出向いて協議する形ができ上がったのは2002年のことです。

なぜそういう手順を踏まなければいけなかったか。それは私どもの扱う療養費が、償還払いの原則に乗っているからなんですね。国家資格者が行う施術に対する報酬の全額の領収書を、被保険者である患者が集めて、保険者が指定する申請用紙に貼り付けて提出すると、そのなかの保険で支払われるべき金額を戻してもらえる。これが償還払いの原則です。

往田   療養費は医療サービスが現物として給付されるものではなく、事後に患者または患者に代わる施術者が請求するのが大原則になっています。実態としては、ほとんどの施術者が患者から一部負担金相当額だけを受け取り、患者に代わって保険請求をしていたわけですけれども、実はこれは本来の姿ではない。極端な話、保険者は、実際に被保険者が全額払っていないことを理由に不支給にすることだってできる。そういうなかで運用されていたのです。

それから、今までの制度のなかでは、保険者と患者の義務や権利しか定義されておらず、施術者が制度に関与することが明記されていなかったのです。今回の受領委任では施術者の役割が厚生労働省の通知に明記され、罰則規定も含まれています。ある意味、保険を扱うあはき師の身分が担保されたことになり、非常に大きな意義があると思っています。

中村  往田先生が話された通り、これまでの「民法上の委任行為」である「代理受領」は保険者と被保険者つまり患者との間の話ですから、私ども施術者はそこに入る余地がなく、それゆえ厚生労働省と協議する機会もなかったわけですね。そこで、私どもの業団体が「国民のために動く私ども治療家の現場の意見も聞いてくださいよ」とお願いして国会議員の先生方にも動いていただき、厚生労働省の担当の方々と協議する機会をつくった。そのとき私どもが要望し、実現したことの一つが、2002年の鍼灸療養費の期間と回数制限の撤廃ですね。当時の関係者がこの交渉の舞台裏を語った座談会が、「医道の日本」2002年7月号に掲載されています。それからもう一つ要望してきたのが、あはきの療養費も柔道整復と同様、一部負担金で済む制度にすることで、これがまさに今回のテーマです。

これまでの制度では施術内容に問題がなかった場合でも、保険者の裁量で療養費を不支給にすることが可能でした。しかし今回、厚生労働省から疑義解釈資料が示されたことで、保険者に対して、「国が有資格者である私どもの役割を認めているわけだから、ルールに従って支給してくださいよ」と言える立場になったのです。ここは大きな進歩だと思います。

【療養費を有資格者の手に取り戻す】

中村   逢坂先生は受領委任制度を導入する意義についてどうお考えですか。

逢坂   日本盲人会連合は全国の視覚障害者の団体の集まりで、あはきの業界団体ではありません。ただ、組織のなかに、あはきを業としている会員も多くいます。その多くは全鍼師会、日鍼会、あるいは日マ会にも加入して業を行っています。日盲連として、今回の受領委任制度には基本的には賛成の立場ですけれども、一方で視覚障害者が不利にならないようにすることも重要です。その辺りで若干の懸念もあり、今後の私の大きな仕事だと考えています。

中村   逢坂先生は盲学校の理療科教員として、教育の場にいらっしゃいました。あはき師が業としてどうあるべきかについても非常に造詣が深く、いろいろなご意見を述べていますね。小谷田先生はどうですか。

小谷田   医師に提出する施術報告書の書き方や、同意書および再同意書を医師に書いてもらうにあたっての依頼の仕方を具体的に示していかなければならないと思います。施術報告書の書き方、同意の依頼の仕方を知らないことによって不適となったり、不正とみなされてしまったりすることがあります。これからはえりを正して、私どもの4団体だけではなく、業団に加入していない一般の施術者に対しても徹底して指導していくことが課題だと思っています。

往田   今回の受領委任制度について、「もともと患者から一部負担金相当額だけ受け取っているので、受領委任になっても何も変わらないのに、義務が増えて厳しくなった」という声も聞きます。では逆に、もし受領委任制度が実現しなかったら、あはきの療養費はこの先どうなっていたでしょうか。もちろん、短期的にはこの制度がなくなることはない。ただ、20年、30年後には形骸化して全く使えないものになってしまっている可能性が高かったと思います。

 

つづきは、雑誌「医道の日本2019年3月号」でお読みください。

お得な定期購読のご案内

Apple、Apple のロゴは、米国および他の国々で登録された Apple Inc. の商標です。Mac App Store は Apple Inc. のサービスマークです。
Android、Google Play、Google Play ロゴは、Google Inc. の商標です。