麻酔科・ペインクリニックの医師に聞く
手術前あるいは手術後に鍼灸マッサージは役立つか

森本昌宏 氏 / 聞き手:石丸圭荘 氏

臨床の現場において、手術痕の痛み、つまり瘢痕性疼痛症候群に対して鍼灸治療による鎮痛効果や、術前術後の不安改善を実感する鍼灸マッサージ師は少なくないだろう。一方で、手術後に鍼灸が禁忌となる疾患など、治療家は必ず知っておかなければならないことがある。そこで、麻酔科・ペインクリニックの医師である森本昌宏氏を招き、現代医学による術後処置や疼痛管理法、鍼麻酔のこと、そして術前術後の鍼灸マッサージの可能性を聞いた。

【まずは現代医学による術後処置を知ろう】

石丸   手術を受ける前、あるいは受けたあとの患者さんが、鍼灸マッサージ師の治療院に来院することがあります。本日は麻酔科・ペインクリニックの医師で東洋医学に造詣の深い森本昌宏先生に、現代医学的になされている術前後の疼痛コントロールの内容や、鍼灸マッサージ師ができるフォローアップなどをお聞きしながら、鍼灸マッサージの可能性を探りたいと思います。

森本   まず、術後痛を急性、亜急性、遷延性の3期に分けてお話しします。術後から3日程度の急性期は炎症性の痛みが主体となりますが、現在は、術直後には、ほとんどなんらかの鎮痛処置が施されています。部位によっては3日分のバルーン型リザーバーを装着しての硬膜外腔へ注入する、ないしは持続静脈内注入を行っています。亜急性期は、以前は3日から2カ月と定義されていましたが、最近は3日から3カ月とされています1)。3カ月以上の遷延期の痛みはほとんどが神経障害性疼痛と考えていいでしょう。痛みのある部位に異痛症(アロディニア)を認める場合もあり、そうなるとなかなか手ごわくなります。


1)  飯田宏樹, 吉村文貴, 松本茂美, 他. 亜急性術後鎮痛による遷延性術後痛の予防.麻酔 2018; 67:254-63.

森本   術後鎮痛に関しては、術後3日を過ぎてからどのように対処するかが大きなテーマです。まず急性期に鎮痛処置をし、亜急性期に入ったら神経障害疼痛の予防を目的とした処置を考えなければなりません。鍼灸やマッサージの適応を考えると、急性期と亜急性期にどのように予防的な対応をするかがポイントとなるでしょう。

石丸   急性期の症状は持続硬膜外麻酔によってコントロールされていますね。亜急性期に鍼灸マッサージが可能かを考えたいと思います。亜急性期は退院を含む状況ととらえてよいでしょうか。

森本   手術によっては3日以内に退院することもあります。通常、慢性的な痛みとしての様相を呈するのは、もう少し先になります。最近は早期離床、早期退院が推奨されていますので、入院期間は微妙なところですね。3日で退院できる術式では、それほど大ごとにはならないのではと思います。ただ、歯科の埋伏歯で顎骨を割らなければならない場合は例外です。

石丸   術後の痛みが亜急性期に移行しやすい術式を教えてください。

森本   私の経験を加味してお話ししますと、手術部位では腹部、肛門、生殖器を含めた会陰部が亜急性期の痛みを発生しやすいようです。胸部、特に肺の手術でも多いですね。術式でいえば、乳がんの切除術、開胸術、胆嚢摘出術が多いようです。歯科、肛門部は高い頻度で亜急性の痛みを発症します。頻度に関しての報告はまちまちですが、10~20%が遷延性の痛みに移行するとの報告があります2)

石丸   術後の、例えば大腸がんの人工肛門(ストーマ)造設術では日常生活動作(ADL)の障害があったり、術後のケアが必要になります。ペインクリニックではどのように対応されていますか。


2)  杉山陽子, 飯田宏樹. 本邦における術後慢性痛の現状.臨床.麻酔 2018;42:1335-42.

森本   人工肛門造設術後にはADLが制限されることが多く、日常の管理が必要となります。ペインクリニックで対応することは少ないですね。

石丸   特に胸部の開胸手術(開胸術後疼痛症候群)*1はアロディニアを発症するケースが多く報告されていると聞きます3)

森本   胸腔鏡下手術では肋骨の間から開胸器を入れます(少し切開をしなければなりません)。肋骨の下を走るの肋間神経を挫滅することで肋間神経に沿った痛みが多く出現します。

石丸  ペインクリニックでは、亜急性期のアロディニアを含む術後の痛みにはどのような処置をされているのでしょうか。

森本   2月に開催された第48回慢性疼痛学会学術大会では、術後鎮痛の処置に関するセッションが多く組まれていました。大会でも報告されていたように、術後疼痛の処置には2つの方法があります。まずは術中術後の持続的な疼痛処置。それが不可能な場合はオピオイドであるフェンタニルのパッチ製剤を使うパターンが多い。その後の慢性痛で、ペインクリニックを受診する患者さんに関しては、早い時期に紹介されることは少ないですね。3カ月を過ぎて神経障害性疼痛に陥って紹介され、改善が難しいケースもよく見受けられます。アロディニアを伴う痛みはペインクリニックでも難渋します。

石丸   フェンタニルは医療用麻薬ですね。鍼麻酔の機序である下行性疼痛抑制系の麻薬様物質であるエンドルフィンの産生と同じような機序の考え方で、例えば創部から離れた経穴、合谷や、痛みを誘発していない離れた場所からのアプローチは行っていいものでしょうか。


*1  開胸術後疼痛症候群とは胸部手術の創部に沿って出現する疼痛で、2カ月以上続いたり、繰り返したりするものと定義される。

3)  Mark L.R, et al. Surgical aspects of chronic post-thoracotomy pain. European journal of cardio-thoracic surgery. 2000, 18: 711-6.

 

つづきは、雑誌「医道の日本2019年4月号」でお読みください。

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