統合医療としてのヘルスツーリズム

山本竜隆 氏(朝霧高原診療所院長/日月倶楽部オーナー)

健康増進を目的とする観光形態、ヘルスツーリズム。近年はリトリートやウェルネスリゾートといった言葉とともに耳にするようになったが、都市部の治療家にはいまだ縁遠い響きかもしれない。医療者がヘルスツールズムにかかわろうとした場合、どうすればよいのか。鍼灸には役立つのか。富士山の西麓、朝霧高原で地域医療に従事する傍ら、滞在型の養生施設を運営する山本竜隆氏に話をうかがった。

【ゼロをプラスにする統合医療】

――山本先生は2009年に朝霧高原診療所を開設され、そのあと、富士山靜養園と日月倶楽部という2つの滞在型の養生施設を立ち上げられました。その経緯からおうかがいできますか。

山本   私は朝霧高原に来る前は、東京の「統合医療ビレッジ」で院長をしていました。その当時から、難病を治すような治療型の統合医療ではなく、健康増進型の統合医療に関心を持っていました。

治療型というのは、病気の人を健康な状態に持っていくこと。つまり、マイナス1やマイナス2の状態を、ゼロにしようとする医療です。ここでいうゼロは、病気のない状態です。東京ではどうしても、マイナスをゼロにする医療に重点が置かれがちなんです。

そうではなくて、私はゼロをプラス1にしたり、プラス2にしたりする医療がしたいと思いました。ヘルスツーリズムは健康増進が目的なので、ゼロをプラス1にするものですよね。まさしくヘルスツーリズムのような、健康増進のための統合医療を実践したいと思ったのが、この地に診療所を含めて3つの施設を立ち上げた大きな理由です。

ちなみにメディカルツーリズムにおける医療は、マイナスをゼロにする医療だととらえています。医療機関での手術や精密検査などが目的なわけですから。
――ヘルスツーリズムは西洋医学的な治療ではなく、あくまで健康増進や養生が目的ということですね。

山本   そうですね。そして現代人の健康をどう増進していくかを考えたときに、何が重要となるか。私は自然だと考えています。「自然欠乏症候群」という言葉があります。いつも憂うつな気分だったり、なかなか疲れがとれなかったりといった、原因のはっきりしない心身の不調には、自然の不足が関係しているという考え方です。

この言葉を生んだのはリチャード・ルーブというアメリカの著述家ですが、近代医学の父であるヒポクラテスも同様のことを指摘しているんですね。「人間は自然から遠ざかるほど病気に近づく」という名言を残しています。

ヘルスツーリズムには自然を体感する側面があると考えると、人間の健康において、とても価値のあることでしょうね。

【診療所と滞在型養生施設の両輪】

――富士山靜養園と日月倶楽部も、山や森、水源があって自然豊かです。敷地面積は、それぞれ2万坪とうかがいました。

山本   土地探しはかなり時間がかかりました。5年以上かかったでしょうか。

まず、自分のやりたい統合医療のモデル探しから始めました。私の統合医療の師はアンドルー・ワイルというアメリカの医師なのですが、彼に聞いたところ「ヨーロッパの田舎にモデルがあるよ」と言うのです。統合医療ビレッジに務めていたころ、縁あってドイツに行くことができ、いくつかの施設を見学しました。もう目から鱗でしたね。日本の田舎では医師不足で医療過疎が社会問題になっているのに、ドイツでは田舎の医療機関がすごく元気だったのです。
山本   どうやって医師や看護師を集めているのかというと、都市部ではどう転んでもできない統合医療を売りにしているのです。森林療法だったり、森のなかでの瞑想だったり、ハーブウォーターをつくったり。そのような自然資産を活かした統合医療を実践することで、関心のある医師や看護師が集まるわけです。

日本にも山や川、温泉といった自然資産はたくさんあります。それなら、ヨーロッパと同じような取り組みができるはず。私はドイツやイタリアなどのヨーロッパの施設モデルを基準に、日本の実情も考慮して条件を設定し、土地探しをしました。

1つ目の条件は、東京から2〜3時間のアクセス圏内であること。これは、日本の休日を考慮した条件です。ヨーロッパのように何週間も休暇のとれない日本では、休めて2、3日。東京の人が週末の土日を利用するとなると、アクセスは2〜3時間が限度だと考えました。

2つ目は、最低1万坪以上あること。これは、他力本願の森ではなく、自分たちで管理できる広い森があることを意味します。他者所有の森だと、急に木を切られたり環境を変えられたりする恐れがあるからです。さらに、森は針葉樹林と広葉樹林の両方を含むこと。針葉樹林はフィトンチッドという樹木特有の芳香を多く発散します。また広葉樹林があると四季の彩りを体感できます。

3つ目は、標高が300mから1000mの間にあること。これは中山保養地というヨーロッパの標高を基準にした保養地の概念に基づいています。この標高内が健康増進や保養に適していると考えられています。ほかにもいくつかの条件があって、それらをすべてクリアしているのが、この朝霧高原だったんですね。

加えてもう一つ、これは施設モデルの基準とは関係なく、土地探しで大事にした点があります。それは医療機関が少ないことです。

 

つづきは、雑誌「医道の日本2019年8月号」でお読みください。

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