「鍼灸+ヨガ」のポテンシャル
― 鍼灸師がヨガを学ぶ意味を考える―

内田かつのり 氏・三浦敏郎 氏・石垣英俊 氏

ヨガ人気の高まりに伴い、ヨガスタジオに通っている患者を治療したり、患者からヨガについ て質問を受けるなど、治療家としてヨガに触れる機会も増えているだろう。また、ヨガスタジ オを併設する治療院も増加している。 では実際に、ヨガのどんなところがよいのか。治療にヨガを組み合わせることで、何が生み 出せるのか。治療家自身がヨガを実践するメリットはあるのか。 臨床経験を有しながら現在それぞれの立場でヨガに携わる3人が、ヨガから学んだこと、患 者にヨガを教える意味などを、鍼灸師ならではの観点で論じた。そこからは、補完し合い高 め合う、治療とヨガの関係性が見えてきた。

【鍼灸・ヨガとの出会いと東洋医学とヨガの共通点】

――先生方が鍼灸・ヨガを始めたきっかけを教えてください。

石垣   父が鍼灸院を営んでおり、幼い頃から鍼灸が身近な存在でした。父同様、鍼灸師の道に進みましたが、あるとき父が病に倒れ、治療についての悩みを誰にも相談できなくなったんです。そんなときに父の書庫で、おおいみつる氏の『ヨーガに生きる:中村天風とカリアッパ師の歩み』(春秋社)と、中村天風氏の『運命を拓く』(講談社)を見つけ、それらがとても読みやすかったことから、ヨガに興味を持ち、勉強することにしました。

もともと鍼灸と並行して気功を学んでいたので、治療院に気功教室を併設することを考えていたのですが、この本をきっかけにヨガの将来性を感じ、ヨガスタジオを併設しました。現在、スタジオは信頼できるヨガ講師に任せ(雇用と業務委託)、私自身は鍼灸マッサージとカイロプラクティックをベースとした臨床や、一般向けのヘルスケアセミナーをメインに活動しています。
三浦   私の場合は、鍼灸よりも前にヨガに出会い、さらにその前に、瞑想に取り組んでいました。20代初めにアメリカの大学に通っていたのですが、将来自分がどうしたいのか思い悩む毎日でした。瞑想をすることで何かヒントがあるのではないかと思い、瞑想を始め、そのときの瞑想の先生の勧めでヨガも始めました。大学卒業後は、自分が共感した瞑想やヨガを生かして働きたいと考え、心と身体を融合するボディワークの世界を知り、フロリダ州のマッサージ学校に入学しました。

1970年代後半、アメリカではニューエイジのムーブメントがあり、オルタナティブな生き方やオーガニックの食事法などが注目されていました。私も当時のクラスメイトから、日本のマクロビオティックや自然農法、鍼灸、指圧などについて、よく聞かれました。海外でも日本の鍼灸や指圧は関心が高いことを目の当たりにし、東洋医学を学ぼうと帰国して鍼灸学校に通いました。卒業後、ヨガも学べる治療院を始めましたが、次第にヨガに比重を置くようになり、2004年にヨガの専門スタジオを開設しました。その後、いったん鍼灸治療はやめ、ヨガの指導者とヨガセラピストの育成に専念し、今日に至っています。

内田   私は、もともと患者の立場で鍼灸のお世話になっていました。高校生のときに、外傷性網膜剥離になり入院し、寝たきりの状態になりました。極端に免疫が落ち、さまざまなアレルギー症状などが併発し、体質が全く変わってしまいました。そのため、退院後も耳鼻科や眼科など、いろいろな病院に通っていました。しかし、どの科に行ってもアレルギーに対して処方される薬が同じで、もっと効率的な治療法はないのかと考え、「身体の全体を見る」という、鍼灸や漢方を受療するようになりました。

そんななか、とある中医師の先生の、刺激の強い灸頭鍼治療を受けてからとても身体がよくなりました。その先生から「治療をするならば鍼灸師の国家資格が必要」と教えてもらい、免許を取ろうと決めました。
内田   実際に治療を始めてから、「患者さんを治したくても、どうしても鍼灸だけでは追いつけないときがある」という悩みにぶつかりました。また、患者さんの運動習慣の差が、治療後の治り方の差につながることも分かってきて……。最終的に「身体を治すためには、患者さん自身が、受動から能動にシフトチェンジする必要がある」という解決策を見出し、ヨガにたどり着きました。現在は、ヨガ講師向けのセミナーなどを行いながら、予約制の治療院も開業しています。

――『医道の日本』2017年7月号では「鍼灸×ヨガ 東洋医学とヨガの親和性を探る」という特集をしました。それぞれが考える、東洋医学とヨガに共通する点を教えてください。

内田   正直、学生時代は東洋医学概論の授業がとても苦痛でした。同じウエイトで学ぶ解剖学や生理学の内容と比べて、東洋医学の「気」や「全体観」には明確な裏づけがないような気がして、そのあいまいさに拍子抜けしてしまったのです。

しかし卒業後、ある大学の解剖学研究室の実習に参加した際、解剖学医の先生から「いまだに人体は分からない。ある部位に刺激をすると、別のところに反応が飛んだりする」という経験談を聞いたり、「この部位にあるツボは何?」という質問を受けたりしました。そのとき、解剖学医が東洋医学的な知見を持っていることに、とても驚きました。また、私は解剖学をベースにして、トリガーポイント治療を行っていますが、刺激をする部分には、わりとツボが重なっていたりします。先人が解剖学の知識がないなかで、ツボをとらえて治療していた感覚は、本当にすごいと考えさせられました。こういった経験から、卒業後に改めて東洋医学を学び直し、特に「全体観」に関しては納得できるようになりました。

一方、ヨガも「全体観」をとても大切にしています。そしてヨガは、私が学生時代に東洋医学に対して苦手意識を持っていた、どこかあいまいな部分も持ち合わせています。

 

つづきは、雑誌「医道の日本2019年9月号」でお読みください。

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