呼吸法によって慢性炎症性脱髄性多発神経炎、
視神経炎が改善した症例(※近日動画公開予定)

森田敦史 氏

【Ⅰ. はじめに】

「人間の基礎は養生である」という理念で治療院を運営している。日常の呼吸という視点から身体や自らの日常の在り方をとらえ直して体質や習慣を変えていくための呼吸法や呼吸ワーク(呼吸・整体)、そして治療を提供している。

この呼吸法にはヨガのエッセンスも取り入れている。ヨガとの出会いは、自身が13歳で罹患した難病であるクローン病を「呼吸」の切り口で心身を調整し、自力で克服したプロセスを検証するために、故・中村天風氏、故・佐保田鶴治氏の著書を読んだことである。また、公私ともにパートナーである森田愛子がヨガインストラクターでもあり、ヨガに日常的に触れてきたことも大きい。

ヨガの存在は自分自身を最適化するための手段の一つととらえており、そのなかでも呼吸法(プラナヤマ)や意識の部分は、治療はもちろん、体質改善の重要な指針としても活用している。ヨガの教えには八支則という段階があり、代表的なアーサナは第3段階、そしてプラナヤマは第4段階に位置する。プラナヤマは日本語でいう「調気」の概念であり、その研究から得た理想的な呼吸状態は、身体的には力みがなく心理的には雑念がない、いわば「息をしているかどうか分からない」ような状態であると考えられる。一般的には吸気量・呼気量という「量」に着目しがちな呼吸であるが、実際には、最も重要な呼吸は日常の呼吸状態であり、その基礎の部分において理想的な呼吸状態を実現できているか否かに着目しなければならない。

また、人間は考えることと動物であること(本能)が両立している生物であり、「呼吸を整えよう」と考えて行動しても、理想的な呼吸は行われない。そのため、呼吸を見るうえでは人間とは何かを知り、どのような要素がその人間の本能的な呼吸を妨げているのかという「人間考察」も重要になる。
【Ⅱ. 症例 】

【患者】
40代、女性。子育てをしながらパートタイムで事務職に就いている。

【初診日】
X年5月。

【既往歴】
なし。

【発症】
慢性炎症性脱髄性多発神経炎(CIDP):X−5年12月、視神経炎:X−1年11月。

【現病歴】
X−5年のCIDP発症時から症状悪化と寛解を繰り返している状態で、X−1年に新たに視神経炎を発症。症状が最もひどい時期は、頭部と体幹以外の両手両足全体がしびれ、身体に力が入らず、階段は手すりを使わないと上がれない(CIDP)。また、右眼の一部が見えなかった(視神経炎)。

全身状態としては徐々に寛解期間が短くなり、初診に至る。初診時は、以前の症状などの経過を考慮すると寛解期と推測されるが、両足底が常にしびれ、右足が動かしにくく、腕のしびれが強まる状態が数日間出現することを繰り返していた(CIDP)。また、視力については、視力検査では正常であり全体は見えるものの、右眼だけ視力が低下しているような違和感がある状態(視神経炎)。そのほかに肩こり、疲れやすさがある。

担当医師からは、頻繁に炎症を起こすことによる後遺症の予防として、定期的に投薬(注射)をすることを提案されている状況で来院。薬はX−4年3月~X年3月まで、症状悪化時にプレドニンを計画的に服用していた。
1. 診察

【望診・問診】
望診では患者の日常の呼吸状態をチェックする。通常、前屈などの胸腔・腹腔が狭くなると呼気になり、逆に胸腔・腹腔を広げると吸気になる。まずは呼吸が正常に機能しているかを、入り口にて靴を脱ぐ動作や歩き姿、椅子への座り方といった患者の所作を観察し判断する。また、動作時に「動こうとする意図」が強すぎると吸気が誘導される点も確認する。ポイントは動診とは違い、座る、物を取る、書くといった何気ない動きを観察すること。それによって、日常での呼吸状態を推測できる。反対に、「立ってください」「この体勢になってください」というように、術者から指示された意図的な動きは患者がつくり出した不自然な動きの場合が多いため、日常を推測するには精度が落ちる。そのため、診察の間、患者には呼吸を診ていることも伝えていない。

観察結果として、椅子に座るなどの胸腔・腹腔が狭くなる所作において、呼気が起こらない(息が止まる現象)。また、問診表に記入する際や何かを持つ、立つなどの些細な動作時に、腔の変化とは関係なく吸気が起こっていた。

吸気優位の身体状態は、吸気による膨張圧によって心身に瞬間的ないし持続的な緊張を強いることになる。些細な所作や動作の数と、それにおいて呼吸が正常に機能していない状況を考えると、日常生活において慢性的に緊張状態にあると考えられる。

【触診・動診】
・呼吸状態の検査
立位での前屈動作で呼吸状態をチェックする。正常な機能とは逆転し、前屈時に吸気、戻るときに呼気になっている。

 

つづきは、雑誌「医道の日本2019年9月号」でお読みください。

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