寄稿集 「ツボの選び方」
特殊証の腰痛、経絡治療により選穴

日本伝統医学研修センター 周防一平 氏・相澤 良 氏

【Ⅰ.はじめに】

経絡治療には、いわゆる基本四証・寒熱八証といわれているもののほかに、より病態に適切な治療を行うための特殊な証がいくつか存在する。本稿では特殊証による腰痛治療を紹介する。

【Ⅱ.診察・証立て】

1. 追加する診察
日本伝統鍼灸では触診所見を重視する。本症例は、急性腰痛の既往、神経症状がないこと、疼痛の発生様式から、筋肉に起因する腰痛である可能性が高い。そこで、触診にて腰殿部の所見を確認し、筋の状態を把握していく。

2. 証立て
証:自律神経治療
主訴の分類:腎型腰痛

【Ⅲ.選穴理論】

1. 病態分析
主訴の慢性腰痛は、前述のように筋肉の硬さによるものであると考えられる。以下にその原因についての考察を述べる。

(1)急性腰痛の既往
急性腰痛の多くは筋・筋膜性腰痛であり、本症例もその可能性が高い。筋・筋膜性腰痛では損傷部位が瘢痕治癒することが知られている。瘢痕部位は柔軟性が損なわれており、周囲の筋に負荷がかかることとなる。よって、腰部の筋に疲労が蓄積しやすい状態となっている可能性が高い。

(2)身体の使い方
長時間の座位は、姿勢保持のため抗重力筋が半緊張状態が続き、疲労蓄積の原因となる。「デスクワークで長く座位を続けると腰部に違和感が生じる」とのことから、腰痛の原因抗重力筋であると推測される。

経絡治療では伝統的に腰痛は「肝型腰痛」「腎型腰痛」に分類される。これは五主の解釈から生まれた分類法である。「肝は筋を主る」「腎は骨髓を主る」という条文は、それぞれ「筋」「骨髓」というのは器官ではなく、身体の深さを表現しているとし、運動時に用いられる浅層筋の問題は「筋」の、姿勢保持に用いられる深層筋の問題は「骨髓」の病態と考え、それぞれ「肝型腰痛」「腎型腰痛」とされた。「肝型腰痛」は、運動時痛、円形硬結・圧痛所見を特徴とする。一方「腎型腰痛」は、長時間の同一姿勢保持による痛み、線状もしくは面状硬結・圧痛所見を特徴としている。両者を鑑別するのは治療法が異なるからである。詳細については後述する。

(3)患者状態
睡眠状態(夢)、過食傾向、便通状態から交感神経系亢進傾向の自律神経失調が疑われる。交感神経系が亢進した状態が続くことで身体も緊張状態が持続し、筋肉も緊張しがちとなり、筋疲労がうまく抜けない状態となっていると考えられる。以上により、治療方針は自律神経系の安定と腰部局所の筋緊張・硬結の緩和とする。


「ツボの選び方」症例と課題こちらから。
2. 選穴

(1)本治穴
曲泉(肝経水穴)、太衝(肝経土穴)、尺沢(肺経水穴)、太淵(肺経土穴)

(2)全身調整穴
中脘、天枢、関元、懸釐、天柱、風池、完骨、肩井、天宗、委中、飛揚、崑崙

(3)標治穴
現在の疼痛部位および瘢痕治癒箇所の硬結・圧痛点(腰部局所の硬結所見)

3. 選穴理由

(1)本治穴
自律神経症状は七情の乱れが原因で現れると考える。具体的には、交感神経系が亢進するものを怒の、副交感神経系が亢進するものを憂の病態とする。それぞれに診られる脈象、用いられる本治穴の組み合わせるは以下の表(※雑誌「医道の日本2020年1月号」をご参照ください)のようになる。

本症例では、交感神経系の亢進症状に加え、沈・虚という脈が現れていることから、副交感神経系が亢進している様子もうかがわれるため、自律神経失調と判断し、両者のバランスを整えるため、肝経・肺経の水穴・土穴を選択した。

(2)全身調整穴
証によらない本治穴、本治法補助穴ともいう。先天・後天の元気の増強、気血の巡りを改善により本治の効果を高める目的で用いられる。岡部素道先生により考案された。中脘・天枢は後天の元気の、関元は先天の元気の増強を目的としている。その他の経穴は気血の滞りが生じやすい部位が選ばれている。

(3)標治穴
腎型腰痛は肝型腰痛に比べ、やや深い部分に線状・面状の圧痛・硬結所見が現れるという特徴がある。運動器軟部組織の病態は、経筋の「痛を以て輸と為す」(『黄帝内経霊枢』経筋第十三)という考えに従い、線状・面状の所見のなかでも、特に圧痛の強い部分を治療点として選択していく。瘢痕化している部位は周囲に比して強い硬結がみられるので、その部分を治療点とする。

 

※つづきは、雑誌「医道の日本2020年1月号」でお読みください。

「ツボの選び方」症例と課題こちらから。

お得な定期購読のご案内

Apple、Apple のロゴは、米国および他の国々で登録された Apple Inc. の商標です。Mac App Store は Apple Inc. のサービスマークです。
Android、Google Play、Google Play ロゴは、Google Inc. の商標です。