経絡と経穴の考え方

伊藤 剛 氏

【1. はじめに】

経絡は目に見えず、科学的な理解や証明が困難との理由でその存在を否定する人もいる。しかし鍼灸治療を長年行っていると、経絡の存在を認識せざるを得ない事例にしばしば遭遇する。現在、経穴の研究に比べ、研究の困難さからか経絡の研究はかなり少ないのが現状ではあるが、経絡・経穴を現在の医学でも一元的に説明可能な仮説を、2019年の第70回日本東洋医学会学術総会で報告する機会を得た1)。以下、その内容を踏まえ、新たな視点による経絡・経穴の考え方について述べたいと思う。

【2. 古典における経絡・経穴のとらえ方】

そもそも古代中国では、経絡や経穴をどのように捉えていたのか立ち返って考える必要がある。

前漢時代の馬王堆漢墓で発掘された『脈書』や『十一脈灸経』などの医書には、十一の経脈以外に経穴に関する記載はない。その後、前漢末から後漢時代に成立したとされる『黄帝内経』には、経脈と同時に経穴の記載が現れる(『霊枢』に記載された経穴名は160穴)ため、古代中国では経絡が先に体系化され、のちに経穴が整理されていったとする考えもある2)


【参考文献】
1)伊藤 剛. 臨床医学からの経絡・経穴の解明,(鍼灸シンポジウム1)経絡・経穴とは何か?─その科学的アプローチ─. 日本東洋医学雑誌第70巻別冊号 2019: 92.
2)小曽戸洋, 天野陽介. (第四章)鍼灸の成立, 針灸の歴史 悠久の東洋医術(あじあブックス). 大修館書店, 2015. p.55-72.
また経絡は、十二経脈(正経)と奇経八脈の督脈・任脈を合わせた十四経脈と十五の絡脈(『霊枢』経脈篇)から構成され、経脈には、十二経脈以外に十二経別(『霊枢』経別篇)、十二経筋(『霊枢』経筋篇)、十二皮部(『素問』皮部論篇)があることも忘れてはならない3)

『黄帝内経』(『霊枢』経別篇)には、十二の経脈のうち、ある経脈と別の経脈の連絡点を「絡」、この絡から隣接する経脈の絡に連絡する支脈を「絡脈」、絡から放射状に出る樹枝状の毛細小枝を「孫絡」、経脈をつなぐ長い横断支脈を「経別」、その支脈の始点は「別」と記載されている。

ここでいう絡や別とは、鍼の治療点、つまり経穴に相当すると考えられる。また十二経筋は、十二経脈のような内臓とのつながりはないが、十二経脈に沿うように走行して筋肉や腱、神経、関節などとつながる経脈のことであり、十二皮部とは、十二経脈が体表面の皮膚面に沿って流注し分布する領域を指す。

一方、『黄帝内経』(『霊枢』経脈篇)には「十二経脈は、肉の間に隠れ深いので見えないが、……浮き出て常に見えるものは、みな絡脈である……」とある。このことから、十二経脈とは、現代でいうと皮下を流れる動脈血管、絡脈とは皮膚表面を流れる静脈血管を指すと考えられるのである。さらに『黄帝内経』(『霊枢』経水篇)3)において、十二経脈は、中国の河川、運河、湖など地上の十二の水脈系の脾兪として述べられている。

このように、経脈は気や血を川や運河のように全身に巡らせる通路であり、また陰の営気(血液)は脈の中を巡り、陽の衛気(気)は脈の外側を巡るとされていることからも、「脈」とは血管、「経脈」とは血管の走行を連想させる。魯桂珍・Jニーダムらは「これら経絡とは、小動脈、小静脈、神経の分枝の観察に基づいた古代中国における真実の生理学的洞察の結果」と推察している4)


【参考文献】
3)日本古医学資料センター監修. (第三巻)黄帝内経素問二, (第五巻)黄帝内経霊枢,鍼灸医学典籍大系. コーディック, 1978.
4)魯桂珍,J・ニーダム著. 橋本敬造, 宮下三郎訳. 「経絡」の体系とその古典理論,中国のランセット -鍼灸の歴史と理論-. 創元社, 1989.
【3. 経絡・経穴研究の歴史】

次に、経絡・経穴研究の変遷を概略しておく。

日本での経絡・経穴研究は比較的早く、1912(明治45)年、後藤道雄は、内臓からの求心性神経線維刺激が脊髄を介し出現する皮膚の痛覚過敏帯領域(Head帯)と経脈との関係を研究した。

大正以降、石川日出鶴丸は、内臓知覚を伝える自律神経の求心性二重支配法則理論を打ち立て、鍼灸との関係を研究した。昭和に入ると、戦後には長浜善夫や丸山昌郎らによる経絡・経穴の研究が行われ、間中喜雄は脊髄だけでなく高次中枢を介する内臓体表反射と体表内臓反射から経絡理論を構築し5)、平成には、佐藤昭夫による体性─自律神経反射研究6)や、川喜田健司による経穴とトリガーポイント研究などにより、経絡・経穴の科学化に大きな進展をもたらした。

世界では、1960年、朝鮮のキム・ボンハン(金鳳漢)によりボンハン小体とボンハン管が発見され7)、経穴と経絡の解明と期待されたが、追認ができず、その後、否定された。

1970年代、中国では経絡敏感人の鍼響による感覚放散経路の大規模調査が行われたが8)、この感覚放散経路と古典的な経脈の循行との間に差異が認められた。


【参考文献】
5)芹沢勝助. (第3節)本邦における鍼,灸施術の沿革,鍼灸の科学(理論編). 医歯薬出版, 1959. p.32-50.  
6)Sato A, Sato Y, Schmidt RF著. 山口真二郎監訳. 体性-自律神経反射の生理学(物理療法,鍼灸,手技療法の理論). Springer Japan, 2007.  
7)Kim BH. Study on the reality of acupuncture meridians. J Acad Med Sci DPR Korea 1962; 9: 5-13.  
8)人民衛生出版社編. 経絡敏感人─経絡感伝現象研究資料集. 人民衛生出版社, 1979.  

 

つづきは、雑誌「医道の日本2020年7月号」でお読みください。

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