「医道の日本」との思い出と
鍼灸での有害事象の防止について

尾﨑朋文 氏

【1. はじめに】

新型コロナウイルス感染症の影響で鍼灸業界は、衛生管理を含めて新しい対応を迫られている。そのなかで刺鍼との因果関係は不明だが、後頚部への刺鍼でクモ膜下出血を起こしたとする1億円の訴訟例を耳にした。鍼灸師の衛生管理も重要だが、この時期の有害事象の発生は鍼灸業界にとってイメージダウンとなる。個々の鍼灸師が有害事象の防止にも一層の注意が必要である。

「医道の日本」との思い出とともに、鍼灸学校学生と有資格者の刺鍼に関する認識度と、池田市での刺鍼の両肺気胸の実況見分や裁判傍聴での感想を中心に述べる。刺鍼での有害事象の防止に役立てば幸いである。

【Ⅱ. 「医道の日本」とのかかわり】

私は米山博久氏に師事した。鍼灸院での“修行”は、治療が終わり治療院を片付けると博久氏宅で夕食をいただいた。その後、博久氏の「医道の日本」や日本鍼灸治療学会(現・全日本鍼灸学会)への投稿原稿の口述筆記を行う。これが筆者を始め弟子の日課だった。当初は漢字が書けずに大変だったが、慣れて余裕が出てくると「次にはたぶんこんな文章が来るだろう」と予想し、その通りの文章だと感激したものである。口述筆記をすることにより、文章の推敲の基本を教わった。口述筆記が後日下手な文章を書くきっかけになった。
私が「医道の日本」にデビューしたのは、1979年6月号への投稿原稿だった1)。今読み返すと恥ずかしい限りで、医道の日本社が、博久氏の弟子ということで、今でいう忖度をしてくれたのだと思う。1994年からは刺鍼の安全性についての局所解剖学的検討シリーズを投稿させていただいた2−6)。そのほか、「新年の言葉」などでも、拙文を掲載していただいた。

「医道の日本」とのかかわりで印象に残っているのは、1980年に熱海の網代温泉「山恵閣」での「医道の日本」編集会議に博久氏の鞄持ちとして参加させていただいたことである。当時、業界のトップクラスの先生方に直に接し、非常に感銘を受けた。「医道の日本」の顧問団である倉島宗二・芹沢勝助・木下晴都・三木健次・森秀太郎・清水千里・米山博久の先生方、および戸部宗七郎・編集長の気賀林一・山口泰宏氏の面々で、鍼灸に対する私の視野を広げていただいた。

それ以後、「医道の日本」の歴代の社長や編集長、およびスタッフにはお世話になった。2006年には、当時の編集長と鳥取の野の花診療所にうかがい、徳永進氏に「ターミナルケアと鍼灸」のテーマでインタビューをし、記事を掲載させていただいた7)。また、1995年に本誌に投稿した「刺鍼の安全についての局所解剖学的検討」5)では代田賞をいただいた。「医道の日本」に原稿を投稿することで、さまざまな先生と巡り合い、人間として多くのことを学ばせてもらった。


【参考文献】
1)尾﨑朋文. エリテマトーデスの症例報告. 医道の日本 1979; 418: 4-6.   2)尾﨑朋文, 于思, 北村清一郎ほか. 刺鍼の安全性についての局所解剖学的検討(1). 医道の日本 1994; 53(6): 13-24.
3)尾﨑朋文, 于思, 北村清一郎ほか. 刺鍼の安全性についての局所解剖学的検討(2). 医道の日本 1994; 53(7): 17-23.
4)尾﨑朋文, 于思, 北村清一郎ほか. 刺鍼の安全性についての局所解剖学的検討(3). 医道の日本 1994; 53(10): 25-36.
5)尾﨑朋文, 于思, 北村清一郎ほか. 刺鍼の安全性についての局所解剖学的検討(4). 医道の日本 1995; 54(6); 12-23.
6)尾﨑朋文, 森俊豪, 北村清一郎ほか. 刺鍼の安全性についての局所解剖学的検討(5). 医道の日本 1999; 58(11): 7-16.
7)尾﨑朋文, 徳永進. 巻頭インタビュー 徳永進氏に聞く「ターミナルケアと鍼灸」鍼灸はどこまでもついてくる. 医道の日本 2006; 65(8): 11-20.
【Ⅲ. 鍼灸でのリスク管理】

1)鍼灸学生と有資格者の刺鍼に関する安全性の認識度調査8)

鍼灸での有害事象の防止には、治療者のリスクに対する認識を持つことが重要である。森ノ宮医療学園専門学校鍼灸学科学生382人を対象に刺鍼に関する安全性の認識度調査を行った。調査は無記名で研究期間を2014年12月15日~19日とした。質問項目は、鍼体長や肩井・膏肓・膻中の安全深度等であった。回収率は74.3%(283件)だった。

図1(※雑誌「医道の日本2020年7月号」参照)は1寸~2寸の鍼体長の学年別正解率を示している。鍼体長の正解は1寸で30㎜、寸3で40㎜、寸6で50㎜、2寸で60㎜である。3年生の12月の段階で正解率が68~75%であり、逆にいえば25~32%の学生は刺鍼以前に鍼体の長さを誤認しており、有害事象のリスクが高いと考える。

図2(※雑誌「医道の日本2020年7月号」参照)は肩井、膏肓、膻中の安全深度の学年別正解率を示している。肩井の安全深度を20㎜以下、膏肓は19㎜以下、膻中は胸骨裂孔の存在を考えて10㎜以下とした。各正解率は3年生に限れば、肩井で58.2%、膏肓で52.5%、膻中で24.6%だった。また、有害事象を起こしかねない深度で、肩井は40㎜と45㎜が各2人、膏肓は30㎜が6人、45㎜が3人、50㎜が2人、膻中は15㎜が6人、18㎜が1人、20㎜が15人、30㎜が6人存在した。刺鍼以前に各経穴の安全深度の誤認があり、有害事象のリスクは高いと考えられる。有害事象の防止には、卒前教育でのリスクに関する最低限度の知識・技術の反復学習の充実が必要である。

私のセミナーに参加した学生15人と有資格者12人(全員免許収得後5年未満)の各鍼体長の正解率を調査した。学生の各鍼体長の正解率は66.7%に対して、有資格者は83.3~91.7%であった。逆にいえば、有資格者の1割〜2割弱は鍼体長の誤認があり、有害事象のリスクは高いと考えられる。有資格者もリスクに関する卒後教育の充実が必要だと考えられる。


【参考文献】
8)尾﨑朋文, 涌田裕美子, 辻丸泰永他, 刺鍼の関する安全性の認識度調査1, 全日本鍼灸学会第64回抄録, 247, 2015

 

つづきは、雑誌「医道の日本2020年7月号」でお読みください。

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