難治性麻痺や疼痛への
頭鍼療法のこれから

山元敏勝 氏/山元敏正 氏/皆川陽一 氏/菊池友和 氏/山口 智 氏【司会】

山元式新頭鍼療法(YNSA)は医師の山元敏勝氏により創始され、慢性疼痛だけでなく脳神経疾患など難治性の症例に対して世界で活用されている。今回の座談会では、山元敏勝氏を迎え、叔父である山元氏の臨床を小さい頃から見てきたという脳神経内科の山元敏正氏、慢性疼痛に対する鍼の鎮痛機序を研究する皆川陽一氏、難治性頭痛やパーキンソン病への鍼治療を実践する菊池友和氏とともに、頭鍼療法の可能性についてディスカッションを行った。

【それぞれの立場での痛み治療と臨床研究 】

山口 中国医学でも古くから頭部へ刺鍼することが確認され、頭鍼療法という名称がついています。医師の山元敏勝先生が提唱されている「山元式新頭鍼療法」は、日本はもとよりドイツ、アメリカなど欧米を中心に広く活用されています。そこで本日は、神経疾患を中心として、これに起因する疼痛や麻痺、さまざまな症状に対しての頭鍼療法についてディスカッションしたいと思います。

山元敏勝先生はなぜ鍼治療に関心を持ち、研究を進めたのでしょうか。

山元敏勝 1966年、ドイツより帰国した私は、行く場所がなかったので宮崎県で開業をしました。あるとき腰痛の患者さんが来院して、私は局所に注射をしました。局所に鍼をするのは初めてだったので、どういう結果が出るかは分かりませんでした。翌日患者さんが来院して「先生、昨日は何をされたのですか」と尋ねてきました。クレームだと思いビクビクしていたところ、患者さんは「痛みがとれた」と言いました。キロカインではなく蒸留水を注射したのですが、蒸留水を注射するとものすごい痛みがあることさえ私は知りませんでした。しかし患者さんは痛みがとれたという。

同じような疼痛症状の患者さんに同じようにやってみると、やはり痛みがとれました。それから鍼による疼痛治療を本格的に始めました。患者さんの頭部に圧痛点があることに気づき、頭部への鍼に興味を持ち、実際に研究を進めました。
山口 そのような経緯があったのですね。山元敏正先生は脳神経内科の専門医で、自律神経系をはじめ頭痛などについても専門性の高い診療と研究を推進されています。埼玉医科大学では東洋医学科との連携を深めていただき、東洋医学科の外来の紹介患者の半分は神経内科から紹介いただいています。脳神経内科・脳卒中内科で実際に診る疾患について、ご説明をお願いします。

山元敏正 脳神経内科は変性疾患、機能性頭痛、感染症、中枢・末梢の脱髄など多くの疾患を診ますが、疼痛に関係する疾患としては片頭痛、緊張型頭痛、まれに群発頭痛があります。その他、パーキンソン病や脳卒中、頻度は少ないですが三叉神経痛による強い顔面痛もあります。治療としては薬物療法を行いますが、東洋医学科に鍼灸治療を依頼する症例も多くあります。痛みとは直接関係ありませんが、末梢性顔面神経麻痺もあります。治療は、プレドニンだけでは十分な効果がみられないことがあるので、東洋医学科に鍼治療を依頼します。

山口 皆川先生はトリガーポイントの基礎臨床研究を精力的に進める傍ら、慢性疼痛の研究も推進されています。

皆川 私は明治鍼灸大学(現・明治国際医療大学)を卒業し、大学院を修了しました。現在も痛みと鍼灸治療に精通している明治国際医療大学の伊藤和憲先生とともにトリガ―ポイントをはじめとした痛みの基礎研究そして全身の痛みに加え、こわばりや疲労感などさまざまな不定愁訴を伴う線維筋痛症を対象とした臨床試験を行っています。線維筋痛症に対する鍼治療は、さまざまな文献を見ると効果がありそうですが(線維筋痛症ガイドライン推奨度B)、いざ臨床現場において文献と同じように治療をしてもなかなか効果が認められないことも経験します。

その原因の一つに脳を中心とした中枢神経系の感作により、鎮痛機構が正常に働いていないのではないかと推察し、頭部へ鍼刺激を加えることで効果が認められるか臨床研究を進めています。
山口 埼玉医科大学東洋医学科は漢方と鍼灸を用います。菊池先生は鍼灸治療に携わっています。

菊池 当科で一番多いのは末梢性の顔面神経麻痺、ベル麻痺、ハント症候群です。発症1週間以内の早期から依頼があり、治療に携わることができるのが大学病院における鍼灸治療の特徴だと考えています。鍼治療は、急性期、回復期、維持期(後遺症やこわばり)などの病期と神経の変性の程度により分類し、病期、病態に合わせた鍼治療を行い、神経の再生の時期における鍼治療のかかわり方も含めて研究を進めています。

山口先生のご専門である慢性頭痛については、鍼治療は慢性頭痛の診療ガイドライン2013でも推奨されています。緊張型性頭痛、片頭痛の予防、とくに薬物療法で期待すべき効果が得られなかった患者さんや、妊娠や授乳中の患者さん、薬物を希望されない患者さん、慢性の腎臓病のように非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)などが用いづらい患者さんも診療しています。慢性片頭痛は予防薬を服用し、NSAIDs、トリプタン、吐き気止め、就寝前の抗うつ薬を服用する患者さんも多く、多剤併用となる方もいますので、薬が増えないように鍼治療で補完できればと考えています。

また、薬物療法に鍼治療を併用することで頭痛日数が軽減し、主治医の指示下で減薬している症例も多く経験しています。神経難病の患者さんでは、パーキンソン病の腰痛や便秘などにも対応しています。

【パーキンソン病、脳卒中へのYNSA 】

山口 山元敏勝先生、「山元式新頭鍼療法」の概略をご説明いただけますか。

山元敏勝 何を根拠として圧痛や不快感が発生するのか、刺激がどの経路を通って発しているのかを研究したら面白いと思い、鍼治療を始めました。産婦人科では、経絡に鍼をして分娩痛がやわらぐことを経験し、無痛分娩を始めました。帝王切開、盲腸の手術にも効果があると聞き、鍼麻酔だけで痛みをやわらげ、手術もでき、有頂天になっていた時代もありました。人によって変化があることに気づき、頭部に鍼をすることによる変化を研究したのが次の段階です。鍼をして患者さんの反応を見ながら、どこに硬結や圧痛が出るのかを見ると非常に面白い。

 

つづきは、雑誌「医道の日本2020年7月号」でお読みください。

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