第66回鍼灸経絡治療夏期大学 レポート
第66回経絡治療夏期大学が8月9~11日の3日間にわたり東京有明医療大学にて開催され、全国各地から327名の参加者が集った。
初日の開講式にて、副会長の馬場道敬氏は、鍼灸医学が『素問』『霊枢』『難経』などの古典を基盤として発展し、日本でも約1500年の歴史を有することを紹介した。また、明治以降に西洋医学が医療の中心となり鍼灸が衰退したものの、昭和初期に古典医学の本質を見直し、経絡・経穴を基本とする「経絡治療」が確立され、全国的な普及活動によって発展してきた経緯を語り、現代医療の進歩に伴い鍼灸も多様化している現状にも言及した。
続いて会長の岡田明三氏が登壇し、日本には大学を含めておよそ100校の鍼灸学校があり、鍼灸が社会に広く認知されている現状を踏まえ、そうした中で経絡治療学会の特色として、講師陣は全員が臨床家であり、毎日患者に鍼を打っていることを挙げた。学問として知識を学ぶだけではなく、実際の臨床では患者一人ひとりに応じたオーダーメイドの治療が求められるとし、その日々の積み重ねこそが経絡治療学会の大きな強みであると述べた。
普通科
初日、普通科では岡田明三氏が「経絡治療入門とその到達点」「経絡治療総論 蔵象から診断まで」の講義を行った。冒頭では、経絡治療が当初「経絡的治療」と呼ばれていた経緯について触れ、「已病」と、厚生白書にもその概念が掲載された「未病」について取り上げ、経絡治療は予防医学の観点から、戦時下ではない平和な社会においてこそ適した医療であるとの考えを共有した。現代の診察には望診、聞診、問診、切診の「四診」があり、なかでも経絡治療で重視される切診の中では脈診が最も重要であることを説明。また、診察によって得られた情報をもとに決定する治療上の判断を「証」と呼ぶことなど、経絡治療を学び始めた受講者に向け、東洋医学と西洋医学の違いから経絡治療の基本まで、要穴表を用いながら解説した。

岡田明三氏
高等科
高等科主任講師の橋本厳氏は「祖脈の種類と意義」について、浮・沈・遅・数・虚・実の六祖脈を挙げ、祖脈は脈の綱領であるとし、これを基本にさまざまな脈状の変化が生じるとした。浮は気が陽経に集まり外邪や陰虚、沈は気が陰経や臓腑に多く血や熱の停滞、遅は慢性的な冷え、数は熱を示すなど、脈状と病理、刺法の関係を表に示し、脈は継続的に診ることが重要と説いた。また、曲瀬道三が脈を図示することに優れていたことなども語った。脈は身長や体格によっても異なり、背の高い人は脈長、低い人は脈短、肥えた人は脈が沈、痩せた人は脈が浮、小児は脈が自ら実となるなど、年齢や体格と脈の関係についても触れた。また、橋本氏は研究科の「脈状と病理病証(各論)」も担当し、脈差診・祖脈診・脈状診という各脈診レベルにおける診察の基本的な考え方を改めて確認し、それぞれの治療上の意義を考える内容を扱った。

橋本厳氏
「経絡の流注と要穴の取穴」について講義を行った馬場道啓氏。要穴の選穴について、基本は『難経』六十九難の説によるとし、滑伯仁や岡本一抱による注釈を取り上げながら、肝経の虚実に対する補瀉や補瀉穴について解説。特に、滑伯仁は自経補瀉穴、岡本一抱は他経補瀉穴を示しそれぞれの説を挙げた。さらに、虚には補法、実には瀉法、虚実がなければ経を取るという選穴の原則を示し、古典における要穴の選び方と補瀉の考え方を紹介した。

馬場道啓氏
研究科
研究科主任講師を務めた山口誓己氏は、「脈状と病理病証(総論)」と「脈状の種類と意義」を担当。病理では、精気の虚から気血津液の虚が生じ、寒熱の波及によって病証が現れる過程を整理し、病証や脈状を病理と結び付けて捉える重要性を示した。また、浮・沈、虚・実、遅・数などの脈状から病態を捉え、その形状を病理に置き換え、選経・選穴や補瀉、刺法などの治療につなげる考え方を述べた。

山口誓己氏
研修科
研修科では、副会長の馬場道敬氏を教務主任に講義が進められた。「経絡治療の真髄」にて柳谷素霊、竹山晋一郎、井上恵理、岡部素道らが経絡治療の確立・発展に尽力した経緯を振り返り、自身の臨床経験を通して経絡治療の真髄を述べた。診断、六部定位脈診、選穴、気の捉え方、治療の質量などを取り上げ、患部ではなく経穴を治療の目標とする考え方を説いた。「経絡治療の実技」では、六部定位脈診を行う際の注意点や証の具体例、確実な取穴に加え、鍼の太さや刺入の長さ、灸の壮数、治療時間など、治療の質量を左右する要素について教示した。

馬場道敬氏
同副会長の今野正弘氏は、「スポーツ鍼灸」「灸の話」「施灸法のすすめ」について講義を行った。スポーツ鍼灸では、30年以上にわたるスポーツボランティア活動や宮城県国体での帯同ケアの経験をもとに、疲労回復やコンディション維持、故障治療について、急性期と慢性期の治療の違いを含め、実技を中心に講義した。「灸の話」では、灸法の起源や鍼法との関係を取り上げ、灸法が鍼法を補完するだけでなく、治療効果を発揮する手法であることを解説。「施灸法のすすめ」では、腰痛のある高齢者への施灸を例に、関元を取穴する際は皮膚のしわを伸ばし、灸点ペンで印を付けてから直接灸を行う方法を指南した。

今野正弘氏
「経絡治療のルーティーン」について、高比良伸哉氏は、肝虚肝実、肺虚腎虚、脾虚の体質を取り上げ、陽性・陰性それぞれの生理・病理、外見や性格、身体症状の特徴を解説した。さらに、体質ごとのかかりやすい病気や、治療のツボ、体質改善法、生活上の注意、食事など、治療と養生のポイントについて整理した。

高比良伸哉氏
「腰痛の経絡治療」では木戸正雄氏が担当し、基本寒熱証に対する補瀉によって全身の状態を整える本治法と、腰痛などの症状に直接アプローチする標治法について解説。「初歩から学ぶ経絡系統治療システム<VAMFIT>」では、経絡治療を的確に行うために構築されたVAMFITについて、初学者でも取り入れやすい基本的な運用法を紹介した。

木戸正雄氏
「小児はり実技―小さな命を活かす『小児の経絡』」では、高橋典子氏が、小児の身体機能や臓腑が発達途上にあることを踏まえ、小児特有の経絡の捉え方と、小児はりにおける多様な手法のあり方を整理した。「経絡治療と低侵襲の標治法」では、本治法、経絡を対象とした標治法、患部への標治法の関連と役割を整理し、真皮層への刺鍼や深部硬結への鍼法など、低侵襲な標治法の理論を示すとともに、実技を行った。

高橋典子氏
「不妊治療から妊娠中のケア、産後ケア」にて、篠原新作氏は、肝虚寒証や肝実に対する手技と考え方を、妊娠中のマイナートラブルについては、その発生機序を病理・病証の解説を交えながら実技で示した。「アトピー性皮膚炎」では、アトピー性皮膚炎に悩む人への施術を、続く「小児はり」では、体質や症状に応じた施術をそれぞれ披露した。

篠原新作氏
「経絡治療と美容鍼」では、相川和子氏が、アンチエイジングとしての美容鍼における最適なアプローチについて、肌は内臓を映す鏡で、健康状態を反映するとの見解を示した。まず経絡治療によって全身を調整し、血液やリンパの流れを改善して気血のめぐりを整えた上で美容鍼を行うことで効果が得られるとして、美容鍼の効果を高めるための経絡治療の重要性に言及した。

相川和子氏
「二つの病因論」にて、池内早紀子氏は、中国古代の病因論である「鬼系の病因論」と「気系の病因論」を軸に、疾病観の変遷について論じた。「鬼系の病因論」は、病を外部からもたらされる鬼や疫鬼などの存在と捉え、祈祷や祭祀によって病を予防・除去しようとする考え方である一方、「気系の病因論」は、身体内外の気の状態や流れ、滞り、過不足などから病因を求め、導引・呼吸法・灸・砭石・鍼などによって調整する。こうした病因論が古代中国医学の基盤となり、日本の陰陽五行説や鍼灸医学にも影響を与えたことを紹介。さらにCOVID-19を例に、疫病の原因や社会的な受け止め方には文化的背景が関わることを示し、伝統医学における疾病観を現代的な視点から捉えた。

池内早紀子氏
「経脈の判定と六部定位脈診」では、篠原孝市氏が、経脈の判定に関して、大きく流注、経脈病證、経脈の虚実の3つに分類できるとし、流注では、経脈が体表を一定方向にめぐるものとして捉えられることや、流注上の圧痛、違和感などについて解説。経脈病證では『霊枢』経脈篇などに記された内容を取り上げ、古典における経脈の捉え方を紹介した。さらに、経脈の虚実について、日本の経絡治療で臨床化された浮沈虚実診や六部定位脈診を取り上げ、経脈を虚実という観点から捉える経絡治療の診察法について論じた。

篠原孝市氏
「漢文講座―『脈経』を例として」では、浦山きか氏が、中国・西晋時代の王叔和の撰とされる医書『脈経』を題材に、漢文の読解方法と、それを活用した研究方法について解説した。『脈経』の構成や中国語の古音を手がかりとした読解に加え、脈診などの診断法や養生法が確立していった時代背景にも触れ、医学史の視点を交えながら文献を読み解く方法を示した。

浦山きか氏
池田ゼミ
「伝統医術を学ぶ基本」で実技を含む講義を行った池田政一氏。『黄帝内経素問』『黄帝内経霊枢』『傷寒雑病論』などの原典を取り上げ、素問、霊枢、難経などが古くから学ばれてきた背景に触れた。また、陰陽虚実による表現方法として、陽虚外寒、陽実外熱、陰虚内熱、陰虚外寒、陰実内熱を提示し、人体における陰気と陽気の循環についても扱った。五行説については、単純な分類にとどまらず、相生・相剋を各臓の働きから捉える考え方が示された。後半は実技を中心に、伝統医術の基本的な考え方を踏まえた実践的な内容が展開された。

池田政一氏
ナイトセミナー
「女性の漢方治療について」の講演を行った木村容子氏(東京女子医科大学附属東洋医学研究所)は、女性の体調変化と漢方治療について、気、血、水の考え方を中心に解説。女性は月経や妊娠、出産、更年期などを通じて身体が変化することから、こうした変化を踏まえた診療の重要性に言及した。冒頭で、漢方医学の特徴として随証治療、自然哲学の思想、体質の重視、全体的把握、未病の概念を挙げると、随証治療については、「証」を診察から捉える漢方医学的な病態とし、自覚症状や診察所見から証を判断し、症状の改善を通して診断の妥当性を確かめると共有した。また、西洋医学の病名診断と漢方医学における証の捉え方を対比し、体質・病態の証、生薬の証、処方の証から治療へ至る流れについて触れ、自然哲学の思想では、身体を小宇宙(micro-cosmos)と捉え、大宇宙(macro-cosmos)である自然現象との関係から身体を考える身体観を取り上げ、自然に適応し、ともに生きるという流動性を重視する医療体系について述べた。

木村容子氏
各班
各科では経絡治療総論 蔵象から診断まで、望聞問切の四診法、六部定位脈診、カルテ作成実習、治療実技などの授業が各班に分かれて実施された。

田畑真一氏

高橋博氏

今野弘務氏

戸田隆史氏

中根一氏

大木健二氏

鎌倉晋氏

小泉智裕氏

豊島基伸氏

金子太也氏

船水隆広氏
全科共通実技
会長の岡田氏をはじめ、29人の講師が一堂に会し、実技を披露した。


阿江邦公氏

金子公憲氏

田畑里美氏

菊池達矢氏

太田智一氏

工藤雅仁氏

加賀敏朗氏

村田守宏氏
懇親パーティー、業者展示ブース

初日最後の懇親パーティーでは、乾杯に先立ち、櫻井康司氏(学校法人花田学園理事長)が挨拶を述べた。これまでカフェテリアやグラウンドを会場としてきた懇親パーティーは、今回は講堂(HANADA HALL)で開催され、参加者が交流を深める様子が見られた。

3階で行われた展示販売ブースの様子。青木実意商店、亜東書店、医道の日本社、カナケン、釜屋もぐさ、セイリン、タカチホメディカル、ビーアンドエス・コーポレーション、前田豊吉商店、山正の10社の関連業者が出展し、各ブースを構えた。

































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